第4話:後輩

 突然現れた俺の姿に、男と少女の両方が一瞬動きを止め、驚きの表情を浮かべていた。


「んで、お前たち誰?」


 どっちが敵か分からないので、取り敢えず聞いてみる。


「貴様こそ何者だ!」

「あなたこそ誰よ!」


 二人怒鳴られてしまった。

 男は再び空気を操って攻撃の体勢を取る。しかし、俺は淡々とその場を見つめ、肩をすくめる。


「普通の高校生だ」

「ならば、その不運を恨むんだな! ――空刃」


 迫る攻撃を、片手で受け止めたが、男は驚愕の表情でその場に立ち尽くす。


「……何者だ? どうして無傷でいられる!」

「無傷って、こんなの皮膚を硬化させれば大丈夫だろ?」

「できるわけないだろ! まさか野良の能力者か⁉ なら夜天衆に――」

「いや、うん。もういいや」


 俺は一瞬で男の前まで移動して、拳を構える。

 男は俺が瞬間移動したように見えたのだろう。その瞳からは驚きが見て取れる。


「――は? え? いつのま――うっ……」


 拳が腹部に命中し、男はドサッと地面に倒れ伏した。

 敵だし、報告しとけばいいか。

 スマホを取り出して操作していると、少女が話しかけてきた。


「……あなた、異能者?」

「いいや、俺は一般人だけ――」


 振り返って彼女の顔を見た瞬間、俺は固まった。

 それは、戦っていた彼女は俺が知っている人物であり、学校でも美少女と有名な――朝比奈華憐だったから。


「朝比奈か……」

「え? あなた、私を知ってるの?」

「いや、いい意味で、学校で有名だからな」

「そ、そう。って、その制服……」

「同じ高校だな。俺は二年の黒崎蒼汰だ」

「せ、先輩だったのね。いや、でしたか」

「いつも通りでいいよ。俺は一般人だけど」


 すると朝比奈は驚いた表情で「いやいや嘘ですよね⁉」とツッコミを入れてきた。


「一般人があんな攻撃を片手で止められるわけないじゃないですか!」


 朝比奈は信じられないという顔で俺をじっと見つめてきた。


「いや、俺は本当にただの一般人なんだがなぁ……まあ、ちょっと力が強いだけで、普通の高校生だ」


 そう言って肩をすくめるが、彼女はさらに疑念を深めた様子で俺を見上げる。


「普通の高校生が、あんな異能者みたいなことをできるわけないでしょ! 何か特殊な訓練でも受けてるとか?」

「はは、特訓なんてないよ。両親には『突然変異種』だとか言われてるけど、それ以外は普通だよ」


 朝比奈は呆れたようにため息をつきつつ、俺を観察するような視線を送ってくる。


「先輩って……変わってますね。でも、助けてくれてありがとうございます。私も危なかったし」

「いや、俺が勝手に口出ししただけさ。お前の邪魔したんなら悪かったな」


 そう言うと、朝比奈は小さく首を振って、笑みを浮かべた。


「ううん、助かって本当に良かったです。それにしても同じ学校の先輩がこんなに強いなんて、意外だった」

「まぁ、学校では目立ちたくないし、あまり噂になるのも面倒だしな。これからもよろしく頼むよ」


 俺が軽く笑って手を差し出すと、朝比奈も少し照れたようにその手を握り返してくれた。


「こちらこそ! あ、そうだ! 早く連絡しないと! それに先輩のことも言わないと!」


 あわあわしながら電話をかけている。

 おい待て、どこに電話しとる!

 止めようとしたが、遅かった。


「あっ、もしもし、霧島さんですか⁉」


 うん? 霧島さん? もしかして……仲間だった?


「はい。先ほど夜天衆のメンバーと交戦になり、はい。それで一般人が巻き込まれて、その人が倒して……はい。まだ一緒ですけど。え? スピーカーにですか?」


 すると朝比奈はスピーカーに切り替えた。


『黒崎くん?』

「なんです? もしかして遅刻に関しての罰則ですか? 組織抜けて敵さんに寝返りますけど」

『違うわよ! てか、あなたが敵になったら怖いから冗談はやめて』

「はははっ、もしもの話しですよ」

『可能性があるじゃない! って、そうじゃないわ。罰則もないから安心して』


 霧島さんは俺を敵に回したくないようだ。すると、朝比奈がおずおずと声を尋ねる。


「霧島さん、もしかして黒崎先輩って……」

『ええ。昨日ウチの組織に加入した、非異能者よ』

「うっそぉ! 絶対異能持ってますって!」

『調べたけど、本当に異能は持っていなかったのよね……』

「は、ははっ……」


 固まる朝比奈さんをよそに、俺は話を続ける。


「それで、敵さんのこと?」

『ええ』

「わかりました。念入りに恐怖を刻み込んでおきますね」

『違うわよ! その物騒な思考、なんとかならない?』


 これが普通なので。すると電話越しに「ゴホン」と咳払いが聞こえる。


『今から現場に職員を送るわ。そしたら二人とも一緒に対策室まで来てちょうだい』

「うっす」

「わかりました」


 通話を切り、朝比奈が住所を送信する。


「黒崎先輩、あとは到着を待つだけです!」

「そうか。てか異能者だったんだな」

「はい。それと学校で異能者は私だけですね」

「へぇ~……」

「先輩の異常さはみんな知っているんですか?」

「いいや。普通の高校生に擬態しているだけ」

「擬態って……」


 俺にとって「擬態」と言う言葉の方がしっくりとくる。ずっと猫被っているし。


「ところで、敵さんにしっかり恐怖を教え込まないとな」

「諦めてなかったの⁉」


 もちろん!



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