第3話:再び異能バトル

 霧島さんと風間さんに連れられ、さらに地下へと向かう。

 そこは色々な測定器具が、壁に囲まれた空間があった。職員もおり、異能者だろう人の姿もあった。

 採血などをしてから、身体能力の検査が始まった。


「では、まずは握力から」

「どれくらいまで耐えられますか?」

「一トンは耐えられますよ。いまだに壊れたことはありませんから」


 俺は手に持ち、思い切り力を込め――粉々に壊れた。

 誰もが呆然としている。


「……これ、弁償とかは?」


 明らかに高そうなので心配して尋ねると、気を取り戻した職員が「だ、大丈夫です!」と焦りながらも答えてくれた。

 結局測定できなかったので、次に移った。


 次は反復横跳びだったのだが、これも本気でやった結果、早すぎて影分身になっていた。

 それから色々と検査を行ったのだが、結果はすべてが測定不能だった。

 その結果に、全職員が唖然としていた。

 すると霧島さんが訪ねる。


「黒崎くん、本当に非異能者?」

「あなたも検査結果見たでしょうに」

「そうですね。でも、信じられなくて……」


 全員が頷いていた。


「伊達に両親から「お前は突然変異種だ」とか言われてない」

「それ、仲はいいんですか?」

「極めて良好だよ。まあ、妹は俺の力のことは知らないけど」

「凄い擬態ですね」

「おい、ぶっ飛ばすぞ。俺の男女平等に扱う主義でね」


 ボキボキと拳を鳴らして威圧する。


「上司になるんだ。脅すのはやめなさい」

「うっす、ボス」

「はぁ、先が思いやられる……胃が痛い……」


 検査が終わり、俺は帰宅した。帰ってきた時には夜の七時。

 俺は「ただいま~」と玄関を開けると、ダダダッと走って来る音が聞こえ、妹の美羽が立っていた。


「お兄ちゃん、どこに言ってたの!」

「いやぁ、バイトすることになって、話しを聞いてた」

「……え? バイト?」

「まあ、飯でも食いながら話すよ」


 家族みんなで夕食を食べながら、バイトする話をすると、父さんと母さんの動きが止まった。

 そしてやっと出た一言目は。


「あんた、頭大丈夫?」

「父さんは心配だ」

「おいこら、お前たち息子をなんだと思っているんだ」

「まともに社会生活できるとは思っていなかったわ」

「……まともなバイトなんだろうな?」


 父さんが疑いの眼差しを向けてくる。


「大丈夫だよ。でも内容は……秘密かな」

「お兄ちゃん、もしかして恥ずかしいの?」

「なわけ。たまたま帰りに人助けしたらスカウトされて、やることになったんだよ。人のためになる仕事だよ」


 俺は適当に誤魔化すが、間違ったことは言っていない。

 両親も妹も、納得はしてくれた。

 これからは帰りが遅くなることも話しておいた。


 翌朝。非日常へと染まることになった俺だが、いつも通り学校に行く。

 教室に入り、ケンとタクと話していた。


「蒼汰、何かいいことであったか?」

「いつも退屈そうにしていたのに、今日は楽しそうな顔をしているからな」


 よく人を見ている。ちょっとした変化に気付くとは、やっぱりいい奴らだ。


「まあ、ちょっとね。バイトをすることになった」

「お、お前がバイトだと……⁉」

「社会不適合者だと思っていたのに……」

「失礼だな、おい。まあ、楽しそうだからいいかなって」


 どんなバイトなのかと聞いて来るが「ナイショ」と言っておいた。


「まあ、蒼汰が楽しそうならそれでいいや」

「だね。楽しいことが見つかったなら何よりだ」

「お前ら……」


 相変わらずいい奴らだ。良い友達に恵まれた。

 そう思っていると、廊下が騒がしくなってきたが、いつものことである。


「いつも騒がしいな」

「華憐ちゃん可愛いよなぁ」

「明るくて元気なところとか、癒される……」


 原因は一年生の朝比奈華憐。この高校で『二女神』と言われている美少女だ。

 入学早々に人気者だ。

 もう一人が三年生の花京院櫻子。こちらは朝比奈華憐とは違い、大和撫子を体現したような美少女である。

 どちらとも俺とは無縁の存在である。

 そんなこんなで、今日も退屈な学校生活が始まるのだった。


 放課後になり、俺はバイト先である対策室に向かっている道中、離れたところで気配を感じ取った。

 爆発音も聞こえることから、異能者が戦っているのだろうと予想する。

 まあ、無視するわけにもいかないので、確認のために現場へと、ビルの上を移動しながら向かう。

 人気もない廃工場で、黒い外套を着ている者と、もう一人はウチの高校の制服を着ている少女が戦闘していた。

 黒い者は空気みたいので攻撃しており、少女の方は風を操って攻防を繰り広げている。

 戦ってからかなりの時間が経っているのか、少女は押され始めていた。


「ここは間に入るべきか? でも、どっちが敵か分からないしなぁ」


 昨日挨拶した異能者や職員の中に、二人に似た人物はいなかった。


「――風牙!」


 廃工場の薄暗がりの中で、少女の声が響き渡り、突風が一気に吹き荒れた。

 彼女が「風牙」と呼ぶその技は、鋭い刃のような風を巻き起こし、黒い外套の男へと襲いかかる。


「クッ…! しぶといな」


 男は苛立ったように唇を噛み、再び攻撃を繰り出す。彼の手元には、見えない力が凝縮され、空気が歪んでいるように見えた。

 その力が一瞬のうちに放たれ、風を切り裂くように少女の元へと迫った。


 もう少し見ていたかったが、少女が明らかに追い詰められている様子を見て、彼女を助けるべきだと決めた。

 俺は二人の戦いの中心へと音もなく降り立ち、彼女に迫っていた攻撃を、片腕を振るって弾いた。


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