第29話 余裕の作戦会議 ー王国側視点ー
王国の宮殿の広大な会議室に、戦争を決定づけるための重要な作戦会議が開かれていた。壮麗なシャンデリアが天井から垂れ下がり、豪華な絵画が壁を彩っているが、今はその美しさすらもかすむほど、会議室の空気は重く、緊張感が漂っていた。
この会議に参加するのは、王国の主要な高官たちで、戦争の決定権を持つ者たちばかりだ。宰相アステリア・ノートンをはじめ、将軍グレゴリウス・バイン、魔法のスペシャリストであるリリス・エルヴァルド、回復魔法のエキスパートエリアス・フォンデル、そしてこの会議で重要な役割を果たす翔太が揃っていた。
会議室には大きな地図が広げられ、その上に王国軍の進行ルートと連邦軍の動向が示されている。戦争の行方を左右する重要な会議が、今まさに行われようとしていた。
「先日の拠点進行はほぼ順調に進んだ。補給路の断絶も完了し、連邦軍の防御も突破した。今後の進行を早めるべきだろう」
グレゴリウスが自信満々に発言し、その言葉に周囲がうなずいた。彼の強気な言葉は、先日の勝利による余裕を物語っていた。
「その通りだ。次の拠点も押し込めるだろう。連邦の士気は完全に崩れた。後は王国軍の力をもって進めば、必ず勝てる」
エリアスが冷徹に言い放つ。その目には、戦況が王国に有利に進んでいることを確信している様子が伺えた。
その後ろで、翔太は静かにその会話を聞きながらも、表情に浮かべるのは自信ではなく、冷徹な決意だった。彼の心の中には、連邦を完全に叩き潰すという思いが強くあり、前回の戦いで味わった勝利の余韻より、復讐心だけが今は心を燃やしていた。
「ですが、慎重に行動すべきです」
突然、リリスが口を開き、その場の空気を少し重くした。彼女は冷静に会議室を見渡し、続けた。
「確かに、先日の進行は素晴らしかったです。しかし、連邦があまりにも無防備だというのは考えものです。彼らが何も仕掛けてこないとは限らない」
グレゴリウスはそれを聞いて、すぐに反論した。
「連邦がどれほどのものだろうと、我々の前には敵わない。今回の作戦も問題なく進む。なぜ、そんなことを気にする必要がある?」
「慎重に、です」リリスは冷静に答える。「私は連邦が背後で何かを仕掛けている可能性があると感じています。あまりにも簡単に事が運んでいると、逆に不安を覚えます」
その言葉に、会議室内の空気が微妙に変わった。誰もがその言葉に耳を傾け、少なからずリリスの懸念を理解し始めた。戦局が有利に進んでいると思われる一方で、その背後に何かしらの策略が潜んでいる可能性を完全に無視することはできなかった。
「それに、進行速度を上げることで、我々の準備する時間も少なくなります。油断は禁物です。前回の進行で我々は勝利をおさめました。そのため、連邦側も何か対策を考え、準備を整えてている可能性もあります。」
リリスは静かに続けたが、その言葉には確かな威圧感が漂っていた。
その時、翔太がゆっくりと口を開いた。
「連邦が反撃を準備しているというなら、もっと早く打撃を与えるべきだ。俺の雷魔法を使えば、連邦の防御を一気に突破できる」
「雷魔法ですか」
リリスがその言葉に耳を傾ける。翔太の言葉には確かな自信があった。翔太が持つ雷魔法は、圧倒的な破壊力を誇り、今まで何度も戦局を有利に運んできた。しかし、リリスはその力を過信しないようにと言いたかった。
「しかし、慎重さも忘れないでください。もし、連邦が何らかの罠を仕掛けてきた場合、戦況が急変することも考えられます。最初の一手を確実に決めるためには、慎重に動くことが大事です」
その時、エリアスが不機嫌そうに口を開いた。
「リリス、君はいつも慎重すぎる。連邦は無力だ。後ろ盾もなく、戦闘力も低い。今が決定的なチャンスだ。あまり小さなことにこだわりすぎるのは逆効果だ」
「エリアスの言う通りだ」
グレゴリウスがその言葉に乗っかり、声を上げた。
「我々の魔法、特に翔太の雷魔法を使えば、連邦の防衛など簡単に突破できるだろう。だからこそ、早く進行し、一気に勝利を収めるべきだ」
翔太はその意見に同意し、強く頷いた。
「俺は、今すぐにでも進行したい。この機会を逃す手はない」
リリスはその言葉をじっと聞きながら、しばらく黙っていた。彼女は自分の懸念をどうしても口に出さなければならないという思いを胸に抱えていたが、その一方で、王国軍が進行を早めることの重要性も理解していた。結局、彼女の心の中ではその対立が続いていた。
アステリアがその沈黙を破った。
「みんな、意見が分かれているようだな。だが、最終的には我々の判断が下されるべきだ。リリスの慎重さも重要だが、今は進行を加速させ、連邦の弱点を突くべきだ。いずれにせよ、最終的には作戦を決定し、王国の勝利を目指す」
その言葉に、全員が頷き、最終的な決定が下されることとなった。王国軍は、最初の一手を確実に決めるために、進行速度を速めることが決まった。だが、その決定の裏に、リリスが抱えていた懸念が残ったことも事実だ。
会議が終わり、参加者たちはそれぞれの役割を果たすべく席を立った。リリスはその場を後にし、静かに思案を続けながら王国軍の進行準備を進めていく。彼女の心には、翔太が進めようとしている進行に対する不安が確かに残っていた。だが、その不安が現実となることを祈りながら、彼女は次のステップを進むしかなかった。
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