第15話 回復への道
連邦の拠点に戻った颯太とミレイアは、すぐにガルスの工房へ向かった。回収した「エバーナの樹」を手にした颯太は、その植物の枝を見せながら説明を始めた。
「これが経腸チューブの素材です。この植物は非常に柔軟で、ゴムのように伸縮します。それに、表面が滑らかなので、消化管に挿入しても負担が少ないはずです」
ガルスはその植物を手に取り、枝を慎重に観察した。
「確かに、この素材なら加工すればチューブに最適だな。ただし、これだけでは耐久性に欠ける。俺の技術で金属を薄くコーティングして補強しよう」
「そうですね。柔軟性を保ちながら、強度も確保できます」
颯太が賛同すると、ガルスは作業に取り掛かった。彼の工房には、金属を加工するための道具が揃っており、火花が飛び交う中で鋼鉄の薄片を生み出していく。その間、ミレイアは植物の枝を細く加工し、チューブの形状に整えていった。
「これを金属でコーティングするのね。精霊の力で植物を壊さないように保護するわ」
ミレイアは薬草の精霊を呼び出し、植物が金属としっかり融合するように加工を施す。
数時間後、ミレイアとガルスの協力によって、ついに経腸用チューブが完成した。それは柔軟でありながら頑丈で、ティアナのような繊細な患者にも安全に使用できるものだった。颯太はその完成品を手に取り、深く頷いた。
「これなら……ティアナを救える」
その言葉にガルスは満足げに笑い、ミレイアも微笑んで頷いた。
次に必要なのは、経腸チューブで投与する栄養剤だった。颯太とミレイアは、ティアナの体が受け入れやすい栄養成分を考えながら、薬草の精霊を使って調合を進めた。
「ティアナの胃の動きが鈍くなっているのを改善する必要があります。そのためには、消化を助ける成分を含む植物を使いましょう」
颯太が提案すると、ミレイアは薬草の棚から「カルタの種」を取り出した。
「この種は胃腸の動きを活性化する効果があるわ。それに、この『フレイアの実』も混ぜれば、さらに効果的ね」
二人は協力して栄養剤を調整し、適切な濃度に薄める作業を行った。薬草の香りが漂う中、緊張感を保ちながらも、二人の手際は次第に息が合っていく。
「これで準備は整いました。これをチューブを通して投与すれば、ティアナの体力が少しずつ戻るはずです」
颯太が出来上がった栄養剤を確認し、決意を新たにした。
ティアナの病室に戻ると、颯太は彼女の枕元に座り、優しい声で語りかけた。
「ティアナ、今から治療を始めるよ。ちょっとだけ我慢してね。でも、これで元気になれるから」
ティアナは小さく頷き、かすかな声で返事をした。
「先生……お願いします」
颯太は慎重に経腸チューブを準備し、ミレイアが見守る中、ティアナの体に挿入を始めた。柔らかい「エバーナの樹」の素材と金属の補強のおかげで、チューブは滑らかに胃まで挿入され、ティアナへの負担を最小限に抑えることができた。
「大丈夫。順調に進んでいるよ」
颯太が優しく声をかけると、ティアナは安心したように目を閉じた。
チューブを通じて栄養剤を少しずつ投与し始めると、ティアナの表情が少しずつ穏やかになっていった。颯太はその変化を見て、心の中で安堵の息をついた。
治療が始まってからの1週間、颯太はほとんどティアナのそばを離れることなく付き添っていた。定期的に栄養剤を投与し、体温や脈拍を確認しながら彼女の状態を見守った。その間、ティアナの能力である「夢の癒し」が、疲労を溜め込む颯太の心と体を癒していった。
ある日、ティアナが眠る間に、彼女の能力が発動し、颯太は柔らかな光に包まれるような感覚を覚えた。
「先生……いつもありがとう」
眠ったままのティアナの声が、颯太の心に直接届いたかのようだった。その瞬間、彼は自分の疲れが和らぎ、心に新たな力が湧いてくるのを感じた。
「ありがとう、ティアナ。君の力で僕も救われているよ」
颯太は眠る彼女の手をそっと握りながら、心の中でそう呟いた。
治療を始めて1週間が経過し、ティアナは明らかに元気を取り戻していた。顔色も良くなり、手足の冷たさも消えて、体温も安定していた。
「先生、今日はなんだかお腹がすいた気がします」
ティアナがそう言ったとき、颯太は心の底から嬉しさが込み上げてきた。
「そうか、じゃあ今日は経腸栄養をやめて、少しずつ普通の食事に戻していこう。まずはおかゆからだね」
ミレイアが用意してくれたおかゆをティアナに運び、颯太はスプーンを手に取った。
「ティアナ、自分で食べられる?」
「はい……やってみます!」
ティアナは自分でスプーンを持ち、少し震えながらも口に運んだ。その姿を見守る颯太とミレイアの顔には安堵の笑みが浮かんでいた。
「おいしい……久しぶりにちゃんと食べられました!」
ティアナの明るい声に、颯太は深く息を吐いて微笑んだ。
「よくがんばったね、ティアナ。これからもっと元気になれるよ」
ティアナの回復を目の当たりにした颯太は、自分が医師として選んだ道が間違っていなかったことを改めて実感したのだった。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。
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