第16話 認められた誉
ティアナの回復が順調に進んだ後、颯太は連邦内で医師としての評価を少しずつ得始めていた。しかし、それと同時に、ティアナの回復をどこかで疑っていた者たちがいた。ティアナが完璧に回復し、元気を取り戻すまでその疑いのまなざしは残っていた。
そして、ティアナが無事に回復を果たし、顔色が良くなり、元気に笑顔を見せたとき、颯太は初めて「自分が命を救った」という実感を抱いた。その実感が彼の胸に温かく広がり、疲れが一気に吹き飛んだ。
ティアナの回復を祝うために、連邦内で小さな宴会が開かれることになった。その宴会には、颯太がこれまで関わった人々が集まり、ティアナの回復を祝うと同時に、颯太の功績を讃える場となった。もちろん、その席にいるのはミレイアやレオン、そしてガルスも含まれていた。
宴会の始まり、ティアナが颯太に手を引かれながら会場に入ると、周囲から暖かい拍手が送られた。ティアナの回復ぶりに、みんなが驚き、喜んでいた。
「ティアナ、よくがんばったな!」
レオンが笑顔で声をかけ、ティアナは少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。でも、先生が治してくれたからです」
颯太はその言葉に少し顔を赤くしながらも、ティアナの回復に満足げに微笑んだ。
「いや、君の力があったからこそだよ。君の強さがあったから回復したんだ」
ティアナは照れくさそうに頷き、周囲の温かい祝福を受けていた。
その後、宴会の主役となるべきティアナに乾杯の音頭が上がり、ガルスが立ち上がった。
「さて、みんな。今日はティアナの回復を祝うために集まったわけだが、俺はこの場を借りて一つ言いたいことがある」
ガルスが静かに一歩前に出ると、周囲が黙ってその言葉を待つように聞き入った。
「俺は最初、この医者に対してあまり信頼を置いていなかった。ティアナのような難しい病気を治せるなんて、正直思っていなかったんだ。しかし、見てみろ。この子は元気を取り戻した。まさに、颯太の腕のおかげだ。彼の医療技術がなければ、ティアナは今、ここにいなかったかもしれない」
ガルスの言葉に、会場が一瞬静まり返った。颯太は驚いた表情でガルスを見上げ、言葉が出なかった。
「だから、俺は今、颯太という医者を認めることに決めた」
その瞬間、ガルスは杯を高く掲げた。
「颯太、君の腕を、そしてその覚悟を、ここにいる者全員が認めるべきだ!」
会場中が一斉に拍手をし、颯太はその熱い視線に圧倒されながらも、何とか顔を上げた。
「ガルスさん、ありがとうございます」
その言葉には、颯太の中で徐々に溢れ始めた自信が感じられた。
ガルスの発言に続いて、他の連邦の人々も立ち上がり、颯太に祝辞を述べてくれた。レオンもにこやかに頷きながら言う。
「お前がティアナを救ったんだ。俺は何も言うことはない。誇りに思うよ」
「ありがとう、レオン」
颯太はその言葉を受け止めながらも、心の中でこれまでの辛い時期を振り返っていた。王国で無能だとレッテルを貼られ、命を救えなかった自分を責めていた時期もあった。しかし、今ここで、ティアナを救ったという事実が、自分にとって何よりの証となっていることを実感した。
宴会が進む中、颯太の周囲での評価が急速に変わっていった。最初は彼の能力を疑い、冷たい目を向けていた者たちも、ガルスの言葉を受けて態度を改め、颯太に対して感謝の気持ちを表すようになった。
「颯太、あなたの治療に感謝します。ティアナの回復は本当にすばらしい」
「僕もあんなに元気になれるなんて、信じられませんでした。ありがとうございます」
颯太はその言葉を一つ一つ丁寧に受け止めていった。最初は自信がなく、周囲から疑われることばかりだったが、今やその評価は逆転していた。
宴会の最中、颯太は静かに庭に出て外の空を見上げた。遠くに見える星空が、彼の心を穏やかにさせる。
「僕は……医者として、ここで命を救うためにやってきた。それが、こんなにも評価されるなんて、思ってもみなかった」
自分を評価してくれる人々の笑顔に、颯太は再び自信を取り戻していった。
「これからも、もっと多くの命を救っていこう」
その決意が、颯太の心に力強く刻まれた。自分の選んだ道が間違いではなかったことを、改めて実感した瞬間だった。
その日、颯太は初めて、他者から評価されることで、自分の価値を実感し、未来に向かって進む力を得ることができたのであった。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。
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