第17話 力と呪いの差異

ティアナの回復を祝う宴会は、笑い声と賑やかな話し声に包まれていた。人々がグラスを交わし、ティアナが元気になったことを心から喜んでいる様子は、颯太にとっても感慨深いものだった。


その一角で、颯太はミレイアとレオンに囲まれていた。二人の視線がただの祝福とは違う鋭さを帯びていることに気づき、颯太は少し居心地の悪さを感じながらも、逃げ場を見つけられなかった。


「颯太、お前に聞きたいことがある」

レオンが低い声で切り出した。彼の真剣な表情に、颯太は身構えた。


「なんでしょう?」


「お前の能力のことだ。俺がお前を森で見つけたとき、あの魔獣の死に方は普通じゃなかった。それに、ミレイアからも話を聞いた。お前が能力を使った結果、魔獣が動けなくなったと」


颯太は眉をひそめた。ミレイアが静かに口を挟む。

「レオン、颯太が能力を使ったのは、私たちを守るためだったわ。命を救うために仕方なく使ったのよ」


レオンは頷きながらも、視線を逸らさずに続けた。

「俺が聞きたいのは、具体的にその能力が何なのか、そしてどれほど危険なものなのかってことだ。部隊長として、連邦に報告する義務があるんだ」


その言葉に、颯太の胸がざわついた。王国の貴族会議で能力を理由に追放された記憶が、頭をよぎる。あの時と同じように、能力が恐れられ、再び居場所を失うのではないか――そんな不安が押し寄せる。


ミレイアが颯太の肩に手を置き、優しく声をかけた。

「大丈夫よ、颯太。ここでは誰もあなたを無下にはしないわ。レオンもきっと理解してくれる」


颯太は深く息を吸い込み、覚悟を決めて口を開いた。

「僕の能力は、『病魔の呪い』です。名前の通り、病気を引き起こす力……それも、僕がそのメカニズムを知っている病気に限ります」


その言葉にレオンの眉が動いた。彼はさらに問いを重ねる。

「具体的にはどういうことだ?」


颯太は苦しそうに顔を歪めながら説明を続けた。

「例えば……僕がインフルエンザの仕組みを知っているから、その症状を相手に引き起こせるんです。魔獣に使ったのは、それでした。でも、これは……僕にとっては呪いのような力なんです。命を救うために医者になったのに、こんな力で相手を殺すなんて、本末転倒ですから」


ミレイアは黙って聞きながら、颯太の言葉に深く頷いた。一方、レオンの表情は険しくなっていく。


「その力、攻撃にも使えるってことだな?」

レオンの問いは、鋭く核心を突いていた。


「はい。でも、僕はそのために使いたくありません。命を救うことが、医者としての使命ですから」


その言葉に、レオンは目を細めてしばらく考え込んだ後、少し声を落として呟いた。

「連邦は今、王国に攻められている。奴隷狩りで民を奪われ、抵抗する力を求めている。もし、お前の力を戦場で使えば、大きな力になるだろう……だが、それでも拒むのか?」


その問いに、颯太は迷いもなく答えた。

「はい。僕の使命は命を救うことです。たとえ王国が相手でも、人を殺すために力を使うことはできません」


レオンはその返答をじっと見つめていた。彼の目には苛立ちとも言えない、複雑な感情が揺れているようだった。


「お前の決意はわかった。でも、それが現実と折り合わないとき、お前はどうするつもりだ?」


その問いに颯太は少し答えに詰まったが、ミレイアが間に入った。

「レオン、彼を追い詰めないで。颯太の信念は正しいわ。命を救うための力を戦場で奪い合いに使うなんて、それこそ本末転倒よ」


レオンは溜息をつき、グラスの中の酒を一口飲んでから静かに言った。

「わかった。報告にはお前の力の存在だけを伝える。だが、使い方については、俺が何も聞いていないことにしておく」


「ありがとうございます……」

颯太は深く頭を下げた。その姿を見て、レオンは微かに微笑む。


「まぁ、お前の力が本当に役立つかどうか、これからだな。俺としては、お前が命を救うために使い続けることを期待しているよ」


宴会の喧騒が少しずつ戻る中、颯太は胸の内で自分の信念を再確認していた。命を救う――それが、どんな状況でも自分が背負うべき道だと。


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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。


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