第6話 呪われた医師
颯太と翔太が異世界に召喚された際、彼らにはそれぞれ特別な能力が授けられていた。翔太はすぐに自分の能力――「雷霆の力」を理解し、その強大な破壊力に胸を躍らせていた。一方、颯太も自分の能力――「病魔の呪い」の存在を知った。しかし、その能力の性質に愕然とした。
「病気を知れば知るほど、その病を敵に与えることができる……」
その説明が颯太の脳裏に焼き付いていた。医師として人命を救うことを信念としてきた彼にとって、それは忌まわしい呪い以外の何物でもなかった。
「……こんな力、誰にも知られるわけにはいかない」
颯太は胸の内でそう誓った。能力を使うことで命を奪えるという事実が、彼の信念を根本から揺さぶり、異世界における自分の存在意義を否定するように感じられた。
翔太は「雷霆の力」を存分に発揮し、その破壊力を周囲に見せつけていた。青白い稲妻が空を裂き、大地を焼き焦がす様子に、見物していた貴族や兵士たちは喝采を送った。
「素晴らしい!これが異界の力か!」
「雷を自在に操るなど、王国にとって大いなる助けとなる!」
翔太はその賛辞に満足そうな笑みを浮かべ、颯太を見つめた。彼の目には、どこか挑発的な光が宿っている。
「先生も何か力を授かったんだろ?どんな能力なんだ?」
翔太はにやりと笑いながら、わざと周囲に聞こえるような大声で尋ねた。
颯太はその問いに動揺した。自分の能力を知られることで、どんな反応が返ってくるかは想像に難くなかった。しかし、翔太の視線と、周囲の人々の注目を避けることはできなかった。
「……『病魔の呪い』だ」
意を決して告げたその言葉に、周囲が一瞬静まり返った。次の瞬間、ざわざわとした不穏な声が広がる。
「呪い……?」
「名前からして不吉だな」
「もしかして、この場で災いを振りまくような力なのか?」
貴族の一人が睨むように颯太を見つめ、冷たい声で言い放った。
「異界の者に頼るのも考え物だが、呪いを持つ医者など、王国に災いをもたらすだけではないのか?」
「先生、呪いを持ってたなんて……」
翔太はわざと驚いた表情を作り、芝居がかった仕草で後ずさった。
「先生、俺を助けるどころか、呪いで苦しめるつもりだったのか?いやー怖いなぁ」
その言葉に周囲が笑い出し、颯太は顔を歪めた。翔太の挑発的な態度と、人々の嘲笑が彼を包み込み、押しつぶしていく。
その日を境に、颯太は「呪われた医者」として扱われるようになった。
食事の場で周囲が離れていく、兵士たちが嫌悪感を露わにした視線を送る、貴族たちが彼の存在を避ける――そのすべてが颯太にとって耐え難い屈辱だった。
夜、ひとり部屋に戻った颯太は、己の手を見つめた。その手は命を救うために使われるべきだった。それなのに、異世界に来た瞬間から、この手に宿ったのは「命を奪う呪い」。
「俺は……間違っているのか?」
自分自身に問いかけながらも、答えを見つけることはできなかった。ただ、翔太の嘲笑や王国の人々の拒絶が、彼の胸に深い傷を残し続けていた。
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