第5話 翔太と颯太の再会
その日、宮殿の魔法訓練場では特別訓練が行われるとの知らせを受け、颯太は見学に向かった。王国に召喚されてから、彼は少しずつ医師としての立場を築こうとしたが、どうしてもこの国の支配的な価値観には馴染むことができなかった。魔法が支配する世界で、医療技術や知識が無価値だとされることを日々実感していた。だが、この訓練場に集う者たちの中に、颯太がかつての患者を見かけることになるとは思ってもみなかった。
宮殿の魔法訓練場に足を踏み入れると、そこはまるで異世界のようだった。広大な広場に立てられた魔法陣がいくつも並び、空中で魔力が渦巻いている。王国の兵士や貴族、魔法師団の精鋭たちが集まり、各自が技を披露し、互いに競い合っていた。その中で、颯太が最も驚いたのは、一人の青年が放つ圧倒的な力だった。
その青年が雷の魔法を操り、魔力を集めるたびに空気が震え、空中に放たれた雷撃はあたりを照らし出し、見る者全員を圧倒していた。颯太は、その青年が誰なのか、最初は気づかなかった。しかし、その力を感じ取った瞬間、胸が締め付けられるような感覚が湧き上がった。――間違いない、あれは。
「翔太……?」
颯太は信じられない思いで声を上げた。目の前に立つ青年が、かつての翔太であるはずがないと思ったからだ。翔太の姿は、もはやかつての病弱な少年の面影を微塵も残していなかった。背丈も、力強さも、全てが違って見える。それでも、颯太はその目に宿る冷徹な瞳にすぐに気づいた。あの目は、もはや翔太ではない――復讐を誓った者の目だった。
翔太は颯太の声に気づき、少しの間静かに立ち止まった。そして、ゆっくりとその顔に冷たい笑みを浮かべ、颯太を見つめ返した。
「先生、久しぶりだね。俺のこと、覚えてる?」
翔太の声には、どこか懐かしさと、冷徹な感情が入り混じっていた。颯太は言葉を飲み込んだ。目の前にいる翔太は、かつて彼が救おうと必死になったあの少年ではなかった。強い体、冷たい表情、そしてその姿には、怒りと憎しみが込められているように感じられた。
「覚えてるに決まってる。だが、翔太、お前……こんなに変わってしまって……」
颯太は言葉を続けようとしたが、翔太が手を振り上げ、言葉を遮った。
「先生、俺を救うって言ったよね?あれは嘘だったの?」
翔太の声が、次第に感情を込めて響いた。颯太はその言葉に何も言えなかった。あの時、翔太に向けた誓い――「必ず治す」と言った言葉。それが、今となってはどれだけ虚しいものだったのかを痛感せずにはいられなかった。
「嘘じゃない!俺は――」
颯太は必死に言い訳をしようとしたが、翔太がそれを許さなかった。
「じゃあ、なんで俺を救えなかったんだ!?」
翔太の怒鳴り声が、訓練場に響き渡る。周囲の見物人たちが一斉に息を飲み、場の空気が張り詰める。翔太はその手を振りかざすと、空中に雷の魔力を集め、手のひらから放った。雷撃が空を裂き、轟音が響いた。
その瞬間、颯太は完全に言葉を失った。目の前の翔太が、かつての病弱な少年であったことが信じられないほどの力を持ち、力強く立ち向かっていた。翔太の手から放たれた雷は、まるで彼の怒りそのもののように感じられ、空間を震わせるほどだった。
「こんなにも強くなった……」颯太は心の中で呟いた。翔太が、どれだけの努力と苦しみを重ねてきたのか、その痕跡がこの力に込められていることは明白だった。だが、颯太がそれを認めようとするほど、胸の奥で何かが引き裂かれるような感覚が広がっていった。
その時、訓練場の後方から声がかかった。
「翔太、見事だ!」
「まさに我が王国の誇りだ、これほどの力を持つ者は他にいない!」
周囲の貴族たちが翔太を称賛し、次々に拍手が起こった。翔太はその声に答えるように冷たく笑みを浮かべ、颯太に向かって挑戦的な視線を送った。
「先生、俺の力を見せてやったよ。これが、俺の力だ」
その言葉に、颯太は胸を突かれる思いだった。彼が何もできなかった、あの時から翔太は力をつけ、今や王国で讃えられる存在になっていた。自分が彼を救えなかったことが、こんなにも深く自分を苦しめるとは思わなかった。
「お前は強くなったな。だが……」
颯太は口を開こうとしたが、翔太が先に言葉を遮った。
「俺の力を見て、また何か言いたいことがあるんだろう?」
翔太は冷徹な目で颯太を見据えた。その目に宿るのは、かつての信頼ではなく、今や自分を裏切ったと感じる怒りと復讐心だった。
「お前は、俺を見捨てた。俺を救うと約束したのに、何もできなかった。じゃあ、今度は俺がどうするか、見せてやる」
翔太の言葉には力がこもっており、その目には確固たる決意が感じられた。颯太はその視線を受け止めることができなかった。自分がかつて誓った言葉が、今では翔太の復讐の炎に変わっていた。
その時、王国の高官が颯太に向かって冷ややかな言葉を投げかけた。
「篠宮颯太、貴様は何もできない者だ。医者として無能であり、無力でしかない」
その言葉に、颯太は心の中で激しく反発した。だが、その反発が言葉にできないほど、彼の胸を締め付けた。
「貴様がどれだけ努力しようとも、今の王国では魔力のない者は無力でしかない。だから、お前の存在に価値などない」
王国の高官は、言葉を続け、冷ややかな目で颯太を見下ろした。周囲の貴族たちも同様に、颯太を無能な者として一蹴していた。
颯太はその言葉に耐えきれず、深い苦悩とともにその場を離れるしかなかった。彼が見ているのは、かつての信頼と希望を抱いた翔太ではなく、今や復讐者となった冷酷な青年だった。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの作品を楽しんでいただけたなら、ぜひ評価とコメントをいただけると嬉しいです。改善点や気になる部分も遠慮なく教えていただけると幸いです。今後もさらに面白い物語をお届けできるよう努力してまいりますので、引き続き応援いただければと思います。よろしくお願いいたします。
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