第9話 追放の決議
壮麗な大広間に、貴族たちの重々しい足音が響く。天井に吊るされた巨大なシャンデリアが、まるで冷徹な目のように下を見下ろしていた。
中央には、エルヴェンテリア王国の高官たちが集まり、貴族会議が始まろうとしていた。席にはリリス・エルヴァルド、グレゴリウス・バイン、エリアス・フォンデル、カミラ・ロッソンも座っている。会場の空気は張り詰め、誰もがこれから下される決断の重みを感じていた。
その場に颯太もいたが、視線を向ける者は誰もいなかった。彼はただ一人、椅子に座りながらその空気を耐えるしかなかった。
一方、フィオナは会議に参加することを強く希望していた。
「お願い、私も会議に出席させてください!篠宮先生のことを知ってほしいんです!」
だが、その訴えはアリステア・ノートンによって冷たく拒絶された。
「フィオナ様、これは貴族会議です。あなたの感情を持ち込む場ではありません」
フィオナは悔しさに震えたが、それ以上の反論はできなかった。彼女の小さな手は無力感で握りしめられ、ただ颯太の無事を祈ることしかできなかった。
会議が始まると、王国軍指揮官のグレゴリウス・バインが重厚な声で口火を切った。
「篠宮颯太、貴様の存在はこの王国にとって利益をもたらすどころか、災いを招いている。呪いの医者としての汚名は、すでに王宮中に知れ渡っているのだ!」
颯太は静かにグレゴリウスを見返したが、何も言葉を発しなかった。
「食中毒事件の後、死者が出たのは周知の事実だ。その原因が貴様の忌まわしい呪いによるものだと、平民たちは信じている!」
グレゴリウスは席を立ち、颯太を指差す。
「この国において、魔法こそが全てを癒し、救済するという秩序を保ってきた。だが、貴様の存在はその秩序を乱す不浄そのものだ!」
颯太は歯を食いしばり、冷静を保とうとしたが、心の中には怒りと無力感が渦巻いていた。
リリスとカミラは成り行きを静かに見守っていたが、どちらもこの場を止めようとはしなかった。リリスの目には一抹の憂いが、カミラの目には冷徹な計算が垣間見えた。
その時、大広間の扉が乱暴に開かれた。
「先生が救うだと?冗談も休み休みにしろ!」
颯太の顔がこわばる。現れたのは翔太だった。貴族たちはざわめき、その場の緊張がさらに高まる。
翔太は堂々と歩み寄り、颯太を指差して嘲笑を浮かべた。
「異界で俺を助けるって言ったくせに、先生は俺を見捨てたんだ。救うどころか、自分が過労死する始末でな!」
その言葉に貴族たちは驚き、ざわつきを隠せなかった。
「どうして、こんな無能な医者を信用する?先生が何をしたか、俺が証人だ!」
翔太の言葉が会場に響く中、グレゴリウスはにやりと笑い、すかさず言葉を繋いだ。
「篠宮颯太、お前がいかに無能で、この国に不要な存在であるかが証明されたな」
「待ってください!」颯太は立ち上がり、声を張り上げた。
「私は命を救うためにこの異世界に来たんです。医療は、魔法では救えない命を救える可能性を持っています!」
だが、貴族たちは冷たい視線を投げかけるだけだった。翔太が肩をすくめながら言った。
「だったら、なんで俺を救えなかったんですか?」
その一言が、颯太の心を深く抉った。
翔太が去った後、グレゴリウスが高らかに宣言する。
「篠宮颯太、この場の全員が一致している。貴様のような呪われた存在をこの国に置いておく理由はない!」
リリスが何かを言おうとしたが、唇を噛みしめ、言葉を飲み込む。カミラも静かに目を閉じた。
「追放だ!」
その一言が響き渡り、颯太は深く項垂れた。
翌朝、颯太は牢のような薄暗い部屋から連れ出された。目の下には深い隈ができ、ろくに飲食も与えられないまま意識が朦朧としていた。
王国兵に連れられた颯太は、荒れ果てた道を運ばれ、やがて国境付近の深い森に放り出された。
「命を救えるというなら、まずは自分の命を救ってみせろ」
兵士たちの冷酷な声を最後に、颯太はその場に倒れ込んだ。
冷たい地面に横たわり、かすかな意識の中で自分の拳を握りしめた。
「……俺は、まだ負けていない……」
その呟きが森に吸い込まれ、颯太は意識を手放した。
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呪医の復讐譚 タミフル・カナ @ru_tora
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