第4話

菜奈はファミレスのバイトをしているので、帰りは夜の9時過ぎだ。

駅を出た先にいつも歌っている2人組がいる。

1人はギターを弾きながら歌い、もう1人は熱唱している。

歌を聴いているうちに胸がドキドキして来た。

真冬なのに身体が段々と熱くなって来た。

小雨の中、まだ2人は歌うのを止めようとはしない。

今まで聴いていた人々も足早に駅の中へと消えて行く。

そんな中、菜奈だけはその場を動けずに最後まで歌を聴いていた。


歌が終わると菜奈は拍手した。

「あ、ありがとう。雨の中聴いてくれて」

ボーカルの少年が言った。

「素敵だったから…… 」

菜奈はスポーツバッグの中からマイボトルを出すと、紙コップにコーヒーを淹れて2人に渡した。

「寒いから」

「あ、ありがとう」

冷え切った身体にコーヒーの温もりが染み込んで行く。

「な、名前訊いてもいいかな?俺は北川臨」

ボーカルの少年が言った。

「俺は黒木悠真」

ギターを弾いていた少年が照れ臭そうに言う。

「私は樋口菜奈です。聖風高校の1年」

「聖風?俺らもなんだ。2年」

「毎日、此処で歌っているんですね」

「笑わないでな。俺ら、歌手になるのが夢なんだ」

臨が言うと菜奈は柔らかな笑顔を見せた。

その瞬間、臨の心に天使が舞い降りた。

「今日はもう無理だな。土砂降りになって来たから」

「私ももう行かなきゃ。頑張って下さい。応援しています」

こうして菜奈は駅の奥へと消えて行った。

「明日も頑張ろうな!悠真」

臨はそう言って悠真の肩を強く叩いた。

「ところでさ樋口菜奈って何処かで聞いた事ないか?」

臨が言った。

「さあ、知らないけど…… 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る