第6話

愛梨は週に一度、作曲家の滝野道治の元へ行き、歌の指導を受けている。

愛梨は滝野の門下生だ。

愛梨の歌の資質を見出し、プロの演歌歌手になるための指導をしたのが滝野である。

16歳になって更に声に艶が出て来た。

滝野は愛梨の歌の素質を高く評価していた。

「愛梨、やるからには全力で取り組むんだ。その事もきっと歌に出て来る」

滝野は愛梨が若いうちに様々な事を経験するのはいい事だと思っていた。

その全てが必ず歌に生きる。

愛梨は歌い始めた。


「問3間違ってるぞ」

「えっ!本当?」

愛梨は数学の問題集を解いていた。

居間のテーブルで勉強道具を広げていた。

向かいに座っているのは幼なじみで、同じクラスの常盤拓音である。

愛梨は仕事が忙しく学校を休む事も多かった。

そんな時はいつも拓音が教えてくれた。

愛梨は消しゴムで答えを消した。

「拓ちゃん、教えて。分からないよ」

「しようがないな」

そう言いながらも拓音は説明した。

拓音は産まれた病院も一緒のお隣さんだ。

物心着く前から一緒に遊んでいた。

愛梨が民謡を習い始めて忙しい日々を過ごすようになっても変わらず仲が良かった。


拓音が初めて愛梨を意識したのは12歳の時だった。

愛梨の着物姿はこれまでも何度も見ていたが、歌う前の凛とした眼差しと美しい姿に拓音は一遍に心を持っていかれたのである。

普段のトレーナーとGパン姿の時は小学校6年生なのに、着物を着た瞬間に、妖艶な美少女になる。

そのギャップが堪らなかった。

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