第5話

「そうじゃないんだ……!」

ドラマの撮影が終わった後、後部座席に座った瞬間に大河は頭を抱えた。

「何が気に入らないんだ。大河。監督もOK出してるじゃないか」

「俺はあいつのように演じたいんだ!」

車は劇団あすかに向かっていた。

大河は稽古場に入ると、そこは明日の役者を目指している若者達で溢れている。

熱気が凄くてまだ春なのに暑くてたまらない。

真樹の出番が来た。

真樹はよく通る声で台詞を言っている。

悲しみを身体全身で表している。

その声も、小さく涙を浮かべた目も、指先の動きまで大河は惹きつけられてたまらない。

そのどれも大河にはない。

どんなに人気スターになったとしても、俺は本物の役者ではない。

イミテーションだ。

7歳の時から一度も勝った事がない。

大河は唇を噛み締めた。

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