第2話知る真実【表】
あの後、天音は無事シャーンに助けられた
本人に詳しい記憶はない
だが、シャーンが自分を救ってくれたことは、どれだけ時間が経っても記憶から消えることはないと思えるほどの出来事だった
「ひまだな…」
天音は1人孤独に病院にいた
2人の戦闘に巻き込まれ、怪我をしてしまったからだ
シャーンは謝罪をしてくれて、天音はもちろん許した
『謝らなくても大丈夫。シャーンは僕を助けてくれたから』
8歳とは思えない冷静な対応だと、テレビで大きく取り上げられた
しかし、天音はそんなことに興味は示さず、シャーンの活躍を見るようになった
****
「僕!シャーンみたいに、ヒーローになる!」
両親は、天音の変化に驚いたが快く背中を押してくれた
「天音ならなれるわよ。きっと」
「父さんたちにできることなら、何でもするからな」
その言葉は本当で、天音は習い事に通うようになった
かなり大変だったが、胸の中のシャーンが天音が潰れそうになっても守ってくれているような気さえした
「これで僕も、シャーンに近づけたのかな?」
自分の行なっていることは、本当にヒーローに必要なことなのか
自分の行動を疑って、それでも続けて…
ヒーローになることを、ただ純粋に願った
****
中学2年生になったある日の冬
天音は毎日の勉強が、少し早く終わり外へジョギングしに行こうとしていた
「天音もそろそろ受験よ?ヒーローなんてならないって言わないと…」
「だが、それで受験まで勉強しなくなったら元も子もないじゃないか!」
リビングの扉を通った時に聞こえてきた
扉越しで聞こえにくいが、両親が喧嘩をしている声だ
「あの子にも新しい夢を持たせないと!」
「受験に成功しないとその新しい夢も叶えることができなくなるんだぞ!」
どんどん声量が大きくなる
そのせいで、両親の喧嘩が自分のせいだと気づいてしまう
「…なんで……」
何もかもがわからなくなり、音を立てないように静かに家を出る
家は一軒家で数分先に公園がある
そこまで一度も止まらず走りきる
「はぁはぁはぁ…」
普段ならこのくらいどうってことないが、今は肩で息をしてしまう
走って体に冬の寒い風が当たるが、頭は冷えない
頭の中で同じ思考がぐるぐると回り続ける
「なんで、なんで…」
何度考えても、どんな答えが出ても、天音の頭には疑問しかなかった
「………」
頭を落ち着かせる為にブランコに乗る
懐かしいという気持ちが、崩壊寸前だった天音の心を繋ぎ止めていた
誰かに相談したい
この重みを誰かに一緒に背負ってほしい
だが、その誰かが天音には存在しなかった
「…だれか、いないのかな……」
「よんだ?」
心の弱さが招いた孤独感溢れる呟き
誰かに返してほしいが本当に来るとは思わず、つい口からこぼれ落ちた独り言
驚いたが、声や表情に表せるほど天音の心に余裕はない
「…誰ですか?」
ブランコの後ろからおじさんと表すのがちょうどいい声が聞こえてきた
しっかりと発音しないので言葉が聞きづらくて、声が掠れている
「おりやぁりゅーやっちゅーんだがぁ、おめぇさんどしたんだー?」
俺はりゅうやっていうんだが、お前さんどうしたんだ?
ゆっくり話すおかげで、何となくだが分かる
「僕は、両親の喧嘩を見て少し家出を」
家出のつもりではなかった
だが、言葉にすると家出してやりたい気持ちにもなった
「しょーかぁ。おめぇさんがぜぇぁたくなぁなやみぃしてそーやけぇ、こいつぁあずけたりゃー」
そうか。お前さんが贅沢な悩みしてそうだから、こいつをあずける
こいつと言いながらダンボールを運んでくる
天音は自分の話は流されるのに、すぐに出てくるダンボール
彼の言動に違和感を覚え始める
だが、少し遅すぎた
「こりゃひろっとっちゃんやけぇど、おりぇの飯もこいつぁの飯もねえからおめぇにやる。だいじにゃーそだてろ」
これは拾っとったけど、俺の飯もこいつの飯もないからお前にあげる。大事に育てろよ
出てきたのは白い塊
動いているので生きているのは分かるが、何の生き物かは判断できない
「とりあえず、僕が預かったらいいんだね?」
仕方なくダンボールを受け取る
「んーにゃ。やるから大事にゃーしとけよ」
いーや。やるから大事にしとけよ
そのまま公園の木が密集しているところへ消えていく
「…人と話して、少しスッキリしたなぁ」
おじさんが去って行った方向を見る
そこには何もない
だが、おじさんがいたという証拠がこのダンボールが証明してくれていた
「持って帰るかー。まあ、子供の意見無視して喧嘩するような奴にバレないか」
親を侮辱し、また少しスッキリした
天音は今日のことは忘れて、すっかり寝てしまった
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