自分の正義のために
黒丸
表のヒーロー
第1話夢見る少年【表】
“ヒーロー”
少年は皆、自らなることを望んだ
少女は皆、助けられることを夢見た
しかし、彼は他と違った
****
ヒーロー、シャーン。皆がシャーンに希望を抱く中、天音は現実を見ていた
天音は他の子と比べて背も伸びず、体が小さかった
顔も綺麗で、声も可愛らしい
小学校に上がってから、女みたいだと避けられるようになった
ついには、遠くから石を投げるなど身体的に攻撃されることもあった
「助けて!シャーン!!」
天音は何度も何度も、シャーンに助けを求めた
それでも、シャーンは天音の前に姿を現すことはなかった
「どうせ、シャーンはこない。
ヒーローだというのに、僕を助けてくれない。
そんな人に僕はなりたくない。」
天音は、いつになっても助けてくれないシャーンに絶望していた
****
——2年後
ある日、天音は母と買い物に出かけた
いつものルートでいつものスーパーへ向かう
しかし、いつもと違うことがあった
「ママ。今日はお菓子買っていい?」
母と手を繋ぎながらお願いする
「100円までならね」
「やったー!」
そう聞き、天音は喜ぶ
100円で何を買おうか考えている時に、悲劇は起こった
「パリーンッ!」
突然、外に面している窓ガラスが割れたのだ
ここは3階、普通ならありえない光景に天音と母は固まってしまう
「ハッハッハツハッハ!!俺様完全ふっかーつ…」
灰色の髪、黒の服に黒の帽子、腰につけた嫌な気配を持つ白い袋
楽しそうに笑い窓からブラックサンタのような人物が登場した
見定めるような気持ちの悪い視線、そして不敵な笑み
彼は、見ているだけでおぞましい表情で天音と母を見た
「ッ!!」
天音はとっさに、母を守るように前に立った
「おう、ガキ。お前、親を守るか…」
「あ、当たり前だ!」
相手に怖がっていることを悟らせぬように虚勢を張る
ただ、彼はこの世の悪を知り尽くしたような男だった
全く通用しない
彼はさらに口角を上げ、天音のそばに寄った
「なあ、ガキ。かあちゃん傷つけられたくなけりゃ、俺について来い」
彼はアゴでついてくるよう天音に言う
「……」
ついていこうとする天音に、母は止める
「行っちゃダメよ!お母さんは大丈夫だから。お願い、行かないで…」
母に腕を掴まれながら泣きつかれた
その行為で、天音の中の正義の心が揺れる
(ママが行かないでいいって言うなら、大丈夫なんじゃ…
けど、ヒーローが助けてくれないなら、僕がママを助けないと…)
天音は、彼の方へ足を進めた
母が後ろからやめてと叫ぶが、天音はそれを聞かないふりをして足を早めた
****
「ここなら、ちょうどいいか…」
連れてこられたのはショッピングモールの最上階、屋上だ
「…なんで、ここに、?」
天音は、疑問に思ったことを聞いてみた
「…シャーンの野郎を倒すためだ。俺はあいつに倒されてから、何年も動けず思考だけが残ってた…。けど、同じく敗れた他の奴らとは違う。俺は復活した」
怒りと殺意のこもった重い言葉が、天音の心に突き刺さる
天音は、何も言えなくなった
「…お前はシャーンを呼び出すための人質だ。せいぜい俺を怖がってろ」
そう言い放って、彼は準備運動を始めた
その後は、しばしの沈黙が流れた
「ザザソダ」
突然の彼の言葉に、天音は驚く
「ザザソダ。俺の名前だ。シャーンを殺す唯一の悪者だ。後世に必ず伝えろ」
彼、ザザソダはシャーンを殺す気のようだ
「…何のために、シャーンを殺すの?」
天音はしばしの沈黙の後、ザザソダにそう伝えた
「俺たちの任務を遂行するために、邪魔なやつを殺す。それ以外に理由はない」
ザザソダはこれまでと違い、真面目で端的にその言葉を発した
「…そう」
天音はその言葉に、しっかり答えれずにそんな簡素な
****
それから30分もしないうちに声が聞こえてきた
『警察だ!直ちに凶器を捨て、投降せよ』
メガホン越しにくぐもった声が屋上まで聞こえてくる
「警察って、こういう時は突っ込んでくるんだっけか?それはめんどくせぇな」
そう言いながら、ザザソダはあぐらを解いて立ち上がる
「えー。警察さんよー、聞こえっかー?」
彼は、何かの能力でメガホンを作り出し、警察に話しかける
「俺が望むものはヒーロー、シャーン。1時間以内に呼び出せ。じゃなきゃ人質を殺す、以上だ」
一方的に話しかけて、終わるともう一度座って集中し始めた
天音は、冷静に絶望していた
(シャーンが、くるはずない。だから、僕はこのままあいつに殺されるんだ)
天音の心には母を救えてよかったという思いがあった
そのことが、死の恐怖から天音を守っていた
(僕の余命はあと1時間、か…。あー、もっと生きてたかったなぁ。あのいじめも、どうにかできてたのかな?どっちにしろ、僕にはもう関係ないなー)
天音は諦めたように空を見上げる
(僕は、ちゃんと天国にいけるのかな?それより、天国ってどんなとこなんだろ)
そんな、本当かも分からない天国に死後を想像するほど、シャーンが来ることを期待していない
「おい」
ザザソダの声に肩を震わす
「な、なに…」
精一杯低い声で答えるが、小2の声変わり前の声では一切の恐怖はない
「シャーンは…」
ザザソダは、何か伝えることを
「シャーンが、なに?」
「いや、ガキにんなこと言っても信じねぇか。…いや、何でもない。聞かなかったことにしとけ」
小声で何かを呟き、その後は何もないと誤魔化した
ザザソダは、天音に不信感だけを残して会話を終わらした
天音がもう一度空を見上げると、影が見えた
「…まさかっ!」
テレビで何度も見たシャーン
来るとすら思わなかったヒーローが自分を助けるために来た
その事実が、裏切られてきた心を震わせた
消えかけていた希望の火が、再び燃え始めた
「来たかッ!シャーン!!」
先程まで感情の起伏が薄かったザザソダが大声で叫ぶ
先程までなら天音は驚いていただろう
だが、今は違った
自分を救ってくれるシャーンに意識が釘付けになっていた
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