出会い

忙しない東京の摩天楼に辟易しながら人混みに紛れ、いたずらに時間を浪費する毎日。

僕はいつも通り朝7時40分に行きつけのコンビニでおにぎりとコーラを買い、見慣れた交差点で信号が変わるのをただひたすらにボーッと待っていた。

よく見かけるくたびれたスーツを着たサラリーマンや幼い子供をママチャリに乗せている主婦もどこか不機嫌そうだ。

何らかの不満を抱えた彼、彼女らもしっかりと信号を守り、会社に出勤し、子育てしている。

そんな社会の歯車でしかない自分を含めた信号待ち中の人間に何とも言えない趣を感じながらも僕はおにぎりに齧り付いた。

「美味しいな」

幾千も前である小5の時に僕の中の絶対的な正義は父に蹂躙されて死んだ。

いや、あの家庭に生まれた時点で全ては無意味で、所詮杏夏への依存心も刹那的なものに過ぎなかったのかもしれない。

兎にも角にも最高の価値を失った今、僕は自分自身の無価値さや世間の非情さを受け入れ、日和見主義になるでもなく、それらを無視することにした。

「やべ」

なんて、大学一年生のくせに朝っぱらから痛い郷愁に耽っていると、信号が青色に切り替わり、人々の足も機械仕掛けに動き始める。

僕はさっさとおにぎりを口に詰め込んでしまい、横断するべく駆け足で前方へと進んで行った。

その刹那、痛みにならない解放感が身体を駆け巡る。

僕なんかの美辞麗句じゃ形容出来ないような快感が押し寄せてくるのだ。

しばらくして、僕は信号無視した車に轢かれ、身体が勢いよく吹っ飛んでいるのだと察した。

異常な脳内麻薬の放出も勢いが衰えていき、だんだんと意識が遠のいていく。

僕は抵抗するでもなく、ただゆっくりと目を閉じた。

「……」

次に目を覚ますと、そこは地獄でもなければ無でもなく、僕が死んだはずの交差点だった。

勢いよく僕の身体を引きちぎったはずの車も、ギリギリ僕をかすめるような形で真横のガードレールに突っ込んでいる。

そして、右隣に見覚えのある同い年くらいの少女がいた。

状況証拠的におそらく彼女が僕が轢かれそうになっていた所を助けてくれたのだろう。

「久しぶり。秀くん…」

少女は艶かしい声色で呟いた。

「……杏夏?」

あの時死んだはずなのに生きていたり、身体も無傷で意味のわからない事ばかりだが、今目の前にいる少女が杏夏であるという事だけはわかった。

根拠はないが、本能的がこの清涼な少女はかつての友であると訴えかけてくるのだ。

「あの時はごめんね。私に償わせてくれないかな?」

この時、僕は神が生き返ったとは知る由もないのだった。


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