第四話
にしても、今日はよく分からない一日だったな。
「ただいま〜」
俺が家に帰ると。道着姿の晴美が玄関先で俺を仁王立ちして待っていた。
「もう!遅いっ!」
「いや。なにが遅いんだよ……」
玄関先でギャーギャー言う晴美を無視して、俺はリビングへと向かった。
♢
「だ〜か〜ら〜! 和兄っ!今日は私と組み手をしてくれるって約束したじゃん! 忘れたの!?」
「そうだったか……?」
冷蔵庫の牛乳を取り出す俺に対して、晴美が背後から大声をあげた。
「そうだよっ! もぅ〜!じれったい! 早く行くよ〜!」
「あ、こら!待てって!晴! は、離せ!牛乳がこぼれるだろうがよっ!」
「そんなの!知らない!」
俺は晴美に腕を掴まれると、そのまま稽古場まで連行された。
♢
道着に着替えた俺を見ては、晴美がニコニコと嬉しそうに呟いた。
「和兄〜、今日はフルコンなんだ〜?」
「まあな、一応俺達は極真空手だからな。さぁ。早いとこ終わらせて、撮り溜めてたアニメでも観るかな〜」
「もぅ〜!アニメは後! 今は目の前の私に集中してよね!」
乗り気じゃない俺に対して先ほどまでニコニコしていた晴美が瞳を閉じると、瞼を開くと同時に真剣な眼差しで俺を睨んでくる。
「和兄っ! これでも私! 全国チャンピオンだから! 和兄!白帯だからって今日は手加減しないからね!」
「おーう!期待してるぞ〜!」
よく言うよ。いつも手加減してるのは "どっち" だっての……。
面倒だけど仕方ない。晴のためにも少し気合いを入れ直してやるか。
俺は深く息を吸い込んでは、そのまま大きくゆっくり吐き出した。
「晴!これは実戦だ。女は男に力では決して敵わない。だったら男をテクニックで超越しろ! 本気で来い!」
「望むところよ!和兄っ! では、始め!……」
♢
「押忍、ありがとうございました!」
俺は一礼をしては、床に倒れた晴美の腕を軽く引っ張った。
「おーい大丈夫か〜?晴?」
「だ、大丈夫……」
晴美の瞳は少し潤んでいた。
晴美は俺の腕に掴まると、ゆっくりと起き上がった。
「でもさ。以前に比べて攻撃のスピードや技を繰り出す思考の速さ、成長したね。晴?」
「あ、ありがと。和兄に比べたら、私なんかまだまだだけどね……」
「はっはっは。まっ!そりゃそうだな。謙虚でよろしい!」
「あっ、今!褒めたのに!!」
「ん? 何か言ったか?」
晴美は俺にそっぽを向いては、静かにつぶやいた。
「な、なんでもない……\\\」
♢
弘和の部屋にて。
その後、風呂とご飯を済ませた俺たちは、兄妹の日課である撮り溜めたアニメの鑑賞をいつも通り行うのだが、今日は中々見るアニメが決まらないでいた。
理由なら簡単。
撮り溜めていたどの回もとてもグウカワなヒロインが出ているのだが、俺と晴美の好みがわかれてしまって、最初に見るアニメが決めきれなかったからである。
ちなみに俺は "貧乳でツンデレのヒロイン" が好きなのに対して、晴美は "巨乳で眼鏡っ子でジミー" が好きと来た。
それでは、決まるものも中々決まらないものである。
これを例えるならば、目玉焼きにかけるのは "ソース" か "しょうゆ" かを聞かれているようなものだ。
ちなみに俺は断然 "ソース派" だ! 異論は認めない!
と。俺が一人、脳内お喋りをしていると晴美が電光石火の如くリモコンを俺の手前から奪い取った。
どちらが早く目の前のリモコンを取れるか、取った方が主導権を握れるという約束の下、公平だが凄くくだらないゲームをしていたということをすっかり忘れてしまっていた俺は、余計な脳内お喋りのせいで完全に反応が遅れてしまった……。
「隙ありっ!! 勝負ありだね! 和兄っ!」
「し、しまった! や、やめろぉおぉおぉ〜!」
結局。俺は見たくもないアニメを四時間も見る羽目になってしまった……。
「あぁ〜面白かった〜! じゃあ私もう寝るね! おやすみ〜!」
「……お。おやすみ」
時刻は25:00を回っていた……。
寝不足……不可避だった。
to be continued……。
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