第三話

「ど、どうかなっ!?」 


 俺は今、女の子と二人きりで教室にてお菓子の試食会をしている。


 しかも、その女の子がカースト上位であるはずの『佐山可憐』と来たもんだ……。


 いや。どゆこと……?


 突然、彼女佐山から廊下で声をかけられたかと思うと教室に入るように言われたので、言われるがまま従ったらこういう展開に繋がったと言うわけである。


 これには、流石の俺も動揺するほかなかった。


 やがて俺の脳細胞たちは考えることをやめたようで、その証拠に俺自身、何が起きても全て受け入れようとする姿勢を無意識で取った。


 その流れで今現在に至ると言うわけなのだが、彼女は俺の正面の椅子に腰をかけては、俺の表情をまっすぐ見つめたまま机上で何度も指を交差させてはソワソワしている。


 要約すると。


 彼女が作って来たお菓子を「食べてくれ」と言われたので、俺は食べてあげた。


 そして今、彼女は俺の感想を待っているというわけなのだが……。


 これは、正直に言ったほうがいいのだろうか。


 俺は無心になるため、念のため20数えてから彼女の様子を伺った。


 彼女は相変わらず、机上で指を何度も交差させてはソワソワしている様子だ。


 うーん。まいったな。


 俺は咀嚼と嚥下を終えた後、深呼吸を一つしてから彼女のほうを見ては、様子を伺いつつゆっくりと言葉を発した。


「佐山さん?」


「な、なにかなっ!?」


 俺の言葉に彼女はビクッと身震いをする。


「その、さ? ここは、正直な感想を言ったほうがいいんだよね?」


「も、もっちろんっ! OK! 覚悟なら出来てるさ! さぁ!しまって行こう〜!」


 いや。覚悟どころか……ほとんどキャラ崩壊してんじゃん。


 俺は哀れむように小さく笑みをこぼした。


 すると、彼女が俺のほうを見るなり口を開いた。


「自分では分かってはいるんだよ……うん。大丈夫! だから!」

「不味いっ!」


「へ? ま、不味い……? あ、ははは……」


 突然出て来た俺の感想に、彼女は硬直してしまった。


「そ、そうなんだ。やっぱり不味いんだ……」

「佐山さん〜? もしも〜し? お〜い大丈夫〜?」

「やっぱり、私に手作りなんて最初から向いてなかったんだ……」


「あ、ダメだこりゃ」


 俺は彼女が落ち着くまでしばらく待つことにした。


 五分が経過した頃。


「代永君。今日はなんかごめんね。また、お願いすることになるかもだけど……」


「いや。俺は別にいいんだけどさ……」


 落ち着いた彼女が教室を出て行こうとした所で、俺は気になっていた質問を投げかけてみることにした。


「あ。それより、佐山さん?」


「ん? 何かな?」


 彼女が教室のドアを開けようとした手をぴたりと止めては、こちらへ振り向いた。


「いや。どうして、俺なんかに味見をお願いしようとしたのかなって?」


「え?」


「ほら? 佐山さん人気だから俺以外にも味見役を引き受けてくれる人とか、いっぱいいたんじゃないのかなって?」


 彼女は頬を赤らめると、そのまま俺に近づいてきた。


「〇○〇たからっ!\\\……」


 キーンコンカーンコーン〜。


「え?」


「あっ!もうこんな時間だ! じゃあまた明日! 放課後にここでね!」


 ガララ〜!バン!


「あっ!ちょまっ!」


 それだけ言い残すと、彼女は教室から走って出て行ってしまった。


「さっきのチャイム……幾らなんでもタイミングが悪すぎるだろ」


 結局俺は、彼女の言おうとした言葉を何一つとして聞き取ることが出来なかった。


 to be continued……。


 ♢


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