第二話

「ただいま〜」


 帰宅後、俺はリビングで着替えると、そのまま稽古場へと向かう。


 ちなみに、リビングから道場へは一枚の引き戸で繋がっている……おっと。先客がいたようだ。


 俺が道場へ行くと、一人の金髪の女の子が先に型の練習に励んでいた。


 コイツは妹の晴美はるみ。中学一年生。


 この前あった中学の全国大会では、伝統ある空手には似つかない "金髪" というとても奇抜な選手として注目を浴びながら、自分よりデカい三年生も出場している中で見事、"優勝" という有終の美を飾ったことで先週の有名なスポーツ誌の一面を『最強の空手ガール! ここに現る!』とデカデカと飾っていた。


 やがて、晴美は俺の存在に気がつくと動きを止めると同時、上体をこちらに向けた。


「あ、和兄かずにい帰ってたんだ。何かよう?」


「ただいま。晴。いや、別に用はないけど。やっぱり型だけじゃ、晴も退屈だろ?」


 俺の言葉に晴美の目が光り輝く。


「な〜に〜和兄? 久しぶりに私の練習に付き合ってくれるのぉ〜?」


 軽く挑発気味な態度で煽ってくる晴美を横目に、俺は倉庫から二人分の防具を取り出しては、その内の一つを晴美に渡した。


「え? 防具ガード、着けるの? 邪魔にならない?」


 少し驚いた表情をしている晴美をそっちのけで、俺はせっせと防具を自分の身体に装着していく。


「練習なんだから、あったほうがいいと思ってね?」


「ふーん。まあ、和兄が良いなら私はいいんだけどさ……」


 晴美はそう言いつつ、面倒くさそうに防具を装着していく。


 ……。


 ようやくお互いに準備が出来た所で、晴美が俺に対して気合いの入った表情で睨みつけてくる。


「どうした晴? そんな怖い顔して?」


「和兄! 手加減なんていらないから! 私、一応全国チャンピオンだし!」


「確かにな。だけどそれは、晴の実力を見た上で俺が決めさせてもらうよ」


「上等よ! だったら! 和兄がやる気を出さざるを得ない状況まで追い込むだけよっ!」


「期待しているよ。晴……」


「行くよ!和兄! じゃあ、始め!」


 晴美が合図をすると同時に、練習と言う名の兄妹同士の組み手が始まった――


 ……。


 組み手を終え、防具を外しては大の字で寝そべった状態の晴美が、俺のほうを見ては声を大にして言った。


「和兄さぁ〜? そんなに強いのになんで表にもっと出て行かないわけ〜? なんで陰気臭いキャラなんて演じているの? てかなんでオタクなんかやってんの? 超ダサいじゃん!」


 グサグサと胸に突き刺さる晴美の言葉に、俺は不覚にも少し動揺してしまった。


「だ、ダサくないし! ほ、ほっとけ! それにアニオタは関係ないだろ! アニオタは! それに晴だってアニメ好きじゃないか!」


「そ、そりゃあ? 確かに嫌いではないけどさぁ〜? ほら!? 私のloveは、和兄で言うところのlikeくらいだから! ぜ、全然違うから!」


 そう言い放つや晴美は起き上がると、恥じらいを隠しつつシャワー室の方へとスタスタと歩いて行った。


 ったく……。


 俺は床に散らかっている、防具を再び集めると倉庫の中へと戻した。


 ♢


 その翌日。学校にて。


 今日も俺は誰にも干渉されることのないように、静かなキャラを演じていた。


 これも毎日の放課後に訪れる、誰にも邪魔されることのない平和で安寧な時間を守るためだ!


 しかし。神様は俺のことを、放っておいてはくれなかった。


 それは俺が昼休みになると同時に、購買部へと向かうために渡り廊下を歩いていた時のこと……。


『……代永君、だよね?』


 いきなり背後から聞こえて来た、透き通った優しげな異性の声に俺は不覚にも耳を貸してしまった。


 っ!?


 俺が振り返ると。そこに立っていたのはクラスカースト上位に君臨する――『佐山可憐』だった……。


『……ねぇ?悪いんだけどさ。ちょっとだけ、付き合ってくれない?』


 to be continued……。


 ♢


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