第9話 暴走
「あそこまで冷たい人だとは思いませんでした」グリューネローゼは急ぎ足で歩きながら、うつむいている。「命を狙われている相手だとはいえ、一緒に旅をしてる仲間なのに」
「あの人らしい、と言えばらしいけど。確かにちょっと期待外れね」ヴィオレッタは、肩に担いでいる十三年式村田銃をちらりと見た。「いくらなんでも、誘拐された未成年の女の子を放置するなんて」
三日月の紋章が入ったカードの裏には簡単な地図と地名が書いてあった。しかし黒騎士が向かったのは、それとは別の方角だった。
――俺には関係ない
黒騎士は、そう言って歩き始めた。
「私たちだけで救えるでしょうか」
「難しいでしょうね。でも、放ってはおけない」
黒騎士はひとり、
道しるべが見えた。このまま進めば次の町に着く。とりあえずの目的地だ。そこには新しい
左に
俺はまた、なにもしないのだろうか。黒騎士は自分の手を見た。かつてそこに抱きしめた者たちの温もりを探した。
顔を上げた。一歩、前に踏み出した。
「もう一回、言ってくれるか」
凶暴に
荷台の中央に立てられた
「サクラちゃんを解放してあげて欲しいの。まだ十六歳よ」
ヴァイオレット・ブルーの瞳が真剣な眼差しで男を見上げている。
「私からもお願いします」
緑のディアンドルの
「その代わりに、おまえらが黒騎士をおびき寄せるエサになる、という話か」
男は
「めんどくさいじゃないですか、キャプテン」ニワトリのように
「そうはいかん。サクラは奴の親友の妹だ。助けに来る可能性はゼロじゃない。
「でも、あとのふたりはまったくの他人ですよ。そうなんだろ、お嬢さんたち」
「ええ、まあ」
「そう、だけど」
ヴィオレッタとグリューネローゼは、困り顔でうつむいた。
キャプテンと呼ばれた男はうなずいた。
「たしかに、あとから捕まえたふたりはじゃまなだけだ。だからな、ガッロ」
「ああ、はい。分かりました。了解です」
三人の女のまわりに目つきの良くない男たちが集まり始めた。最初に手をかけられたのはサクラだ。
「なによ。なにする気」
「なにもしないよ、お嬢ちゃん」キャプテンが、やさしい声を出そうとして失敗した。「大事な人質だからな」
「やめ、やめなさいよ」
サクラは
「よし、やれ」
ガッロが命じると、残りの男たちは一斉にヴィオレッタとグリューネローゼに襲いかかろうとした。
「待て。おまえら、なにか忘れてないか」
キャプテンが笑いながら両手を合わせた。
「よーしみんな、声をそろえろ」ガッロが
いただきます。
男たちは、
「待て」
声とともに荒れ果てた大地に爆音が
「来てくれたんですね」
グリューネローゼの明るい声が風に流れた。
「来るに決まってるでしょ」ブラウはウィンクしながら親指を立てた。「だって俺たち、騎兵隊だから」
三色のスタジアムジャンパーにリーゼントの騎兵隊が、女たちを救いに駆けつけた。
「なんであの子たちが来るのよ」
ヴィオレッタは眉を寄せた。
「私の
花のような笑顔を広げて、グリューネローゼは騎兵隊に親指を立てて見せた。
ブラウはニューナンブM60をホルスターから抜き、
「おい、やばいんじゃないか」ロッソが顔をひきつらせた。「このあと、どうするんだ」
「どうしよう」
ブラウは苦笑いしている。
混乱したジャッロが腹を叩きながら高笑いした。
一斉射撃が三人を襲う。バイクをバリバリ撃ち抜かれて、リーゼントの騎兵隊はあっけなく後方に転がっていった。
「ああ、やっぱり……あの子たちじゃ無理か」
グリューネローゼは頭を抱えた。
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