02-05
廊下を奥に向かって進むと、左手に中庭が見えた。
玉砂利の敷き詰められた、二畳ほどの幅の庭だ。よく手入れされた盆栽が美しい。
右手には障子が並んでいる。中庭から入る光が、障子によって柔らかくぼんやりと散乱する様は幻想的にすら思えた。
いずれの部屋もきっちりと戸が閉められていたから満室なのかと思ったら、そうでもないらしい。イナバさん曰く、今日泊まる客は僕たちを除けば一組だけだとのことだ。たしかに人の気配は感じない。
廊下の突き当り、丸型の窓の下に壺が置かれている。建物の内装の新しさに比較して、随分と古めかしいそれは、自身がこの建物の主とでも言わんとばかりに堂々としている印象を持った。
イナバさんは、その主の右側の木製の引き戸に手を伸ばした。突き当りの壁すれすれに持ち手のある、なんとも開けにくそうな戸だ。その戸の向こうは、六畳ばかりの畳の部屋だった。部屋の真ん中にちゃぶ台が置かれている。
「一旦こちらでお待ち下さい。今お茶をお持ちしますので」
イナバさんはそう告げると、また忙しくぱたぱたと玄関の方まで走っていった。
姿が見えなくなるまでぼんやりとそれを眺めたところで、中の部屋に入り、荷物を下ろした。
ユウカは部屋の前で立ち止まり、手を部屋の中に向けてかざしている。目をつむり、眉間には皺を寄せている。
「大きな気配は感じるが……すぐさま害をなすようなものでもないのがまた不思議だな……っておい。勝手に入るんじゃない。何があるか分からないだろ」
「はぁ……」
そうは言われても。
何も感じないのだから危機感も何も持てるわけがない。
「お前はいま不死なんだから。妙なものに当てられて下手に気が狂ってみろ。誰にも止められないバーサーカーの出来上がりだろうが」
妙なもの。
いわゆる悪霊とかそういう霊的な類のものだろう。
憑依とかそういうのがもし本当にあるのなら、たしかにそのとおりだ。僕を殺してでも止めるという選択肢はない。僕は死なないからだ。
「悪霊による憑依とか、本当にあるんですか」
「……結局は気持ちだよ。人間の思いの強さ。それが強ければ強いほど現し世に影響を与えるのさ」
「つまり悪霊とは、死んだ人の強い思いの発露?」
「理解が早いじゃないか。そう。祈祷もそう。――もっと言えば……言霊なんだよ」
ユウカの言葉の全てを理解できた訳ではないが……思いの強さが現実に影響を与えるとは……。
この目で観測したことはないが、そういった類のプロの人がそう言うのなら――神話に近い話だと思っていたが――日本三大怨霊の話もあながち御伽噺というわけでもないかもしれないな。
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