01-07

「……僕の身体が不死になったことは理解したが、どうしてこうなってしまったんだ?」


 素直に疑問が口から出た。

 百歩譲って不死になったという超常現象を受け入れたとして、そこには何らかの理由があってしかるべきだ。理由なくこんなことが起きるのは気味が悪い。


 あわよくばこの不可解な身体の状態をもとに戻したいとさえ思う。

 死んでないだけの人生なのだ。

 そんなもの、無為に未来永劫続けて何になる。ただの拷問ではないか。

 人並みに死にたいものだ。

  

「さあね。だからこうしてユウカのもとに連れてきた」


 セリナはテレビの電源を落として、音もなくユウカの隣に歩み寄った。おもむろに上げた左手をユウカの肩に乗せる。

 嫌そうな顔でその手とセリナの顔を交互に見ながら、ユウカはぼやく。


「…………祓うのならお前の方が得意だろうがよ」


「ボクはボクのことで精一杯だし、それにもともと因果の解明は専門外だ。だからここに来たんだ。それを生業としてるキミのもとに」


「そうは言ってもだな」

 

「霊障コンサル。キミが掲げている看板はハリボテということかい?」


 セリナは挑発的な口調でユウカを詰める。

 ユウカは苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向いた。

 

 霊障コンサル。たしかにそんな文字がでかでかと書かれたチラシが、この部屋の入口のすりガラスに貼り付けられていた。

 目隠しか何かと思ったが違ったようだ。

 全く聞き馴染みのない単語だが、字面から察するに、霊障に対する相談事を請け負っているのだろう。

 つまるところ、僕の身体に起きている事象の原因を霊的な方面で探ろうとしているようだ。

 そして、文脈から察するに、ユウカさんはその霊障コンサルという事業の長なのだろう。個人事業主かもしれない。


 ……しかし、セリナもその方面が得意というのは初耳だった。

 なにやら得意不得意の話をしていだが、ユウカにできてセリナにできないこと、またはその逆もあるということだろうか。


「あーもう。はいはい。受けりゃあ良いんだろう。受けりゃあ。……報酬は?」 


「ボクからのハグ」


「帰れ」


「冗談。……うーん、ではこれはどうだろう。報酬分だけ、コウタ君を扱き使う権利」


「え?」


「……おお、それは悪くないな。ちょうど次の案件は人手が欲しかったところだ」


 セリナとユウカは微笑みながら握手を交わしている。

 まてまて。勝手に僕の人権を切り売りしてもらっては困る。


「なんだい、纏まりかけた話に水を差して。キミはもう一回死んだ身じゃないか。いまさら人権なんて大層なことを宣うんじゃあないよ」


 悪魔かおのれは。

 先程の反省の素振りはどうしたんだ。

 けれど事実そうであるから反論に困る。


「それに、キミ一人で解決できることじゃあないだろう」


 それはそうだ。否定できない。

 この不可解な不死の謎を解かない限り、僕の未来には拷問のような人生が待っているだけだ。

 ……ここはこの話を飲むしかないようだ。



「決まりだね」


 僕の顔から、決意が見て取れたのだろう。

 セリナの顔は、満足そうに見えた。



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