01-05


「まあ、座りな。飲み物は……その缶コーヒーでいいね。あんまりたくさん飲むとトイレが近くなるから」

 

 目の前の女性はぶっきらぼうにそう言って、年季の入った革のソファーにどかりと腰掛けた。

 ところどころひび割れた表面にシワが寄り、ギィと悲鳴を上げている。


「はぁ……ありがとうございます」


 ホコリまみれの応接セットを挟んで向かい側、女性の座るソファーと色調もデザインも異なる、けれど同様にヒビまみれのソファーに腰掛ける。

 思ったよりも体が沈み込む。左手の缶コーヒーの汗が舞った。

 セリナはテレビを観ている。くつくつと笑いながら、深夜のテレビショッピングを観ている。


「さて、今晩は良いとして、これからだよな。問題は」


 女性はガサゴソとジーンズのポケットを漁って煙草を取り出した。慣れた手つきで1本取り出し咥えると、蛍光色の安物に見えるライターで火をつけた。

 部屋に甘く、苦い香りが広がる。


「朝になったら自宅に帰りますよ。引き取ってくれてどうもありがとうございました……ええと……」


「ユウカだ。そこのセリナの従姉妹。よろしくな」


「コウタです。こちらこそよろしくお願いします」


 つり目気味の目が少しだけ柔らかくなったように見えた。

 薄めの化粧、白いTシャツにジーンズというラフな格好は、その口調とこの部屋の乱雑さと相まって、豪快な気質の持ち主なのだろうと余計な推測を抱かせた。

 そのくせ、ゆったりとまとめられた団子のような黒髪には艶があり、くびれの目立つスタイルの良さは、いやでも目を引かれてしまう。

 気質やら、その身体のラインやら、セリナとはまるで正反対で、本当にセリナと従姉妹なのか疑わしい。

 疑念のこもった目線に気付いたセリナは笑っている。


「くくく、本当に従姉妹だよ。ボクとユウカは。キミが見とれていた部位は、遺伝子的にはボクにも可能性があるはずだから楽しみに待っていたまえ」


「……見とれてなんか」


「くくく、キミも男だ。なに、気にすることはない」


 思わず目を奪われていたことを指摘され、顔が熱くなってくる。軽蔑されてはいないことが救いだった。


「……やりにくいんだが……まぁ良い。なぁ、セリナ。お前、どうするつもりだ?」


「何がだい?」


「お前と、コウタの身体のことだよ」


 セリナと、俺の身体?

 どういうことだ?


「……ボクはなんともないよ。気にすることじゃあない。コウタ君はそうだなぁ……」


 セリナがにやにやと怪しく微笑っている。

 美しい顔だった。


「何が起きているんだ?」


 素直な疑問だった。

 当たり前だ。あの高さから落ちてピンピンしている方がおかしいのだ。

 かといっていま僕が見ている世界があの世というわけでもなければ、夢というわけでもないらしい。

 あれを経てなお、真に僕が現世に生きているというのなら、当たりどころが良かったなどという次元ではない。傷ひとつ見つからないし、痛みすらないのだ。全く説明がつけられない。何か特別なことが起きているとしか考えられない。


「コウタ君。キミの身体には特別なことが起きている」


「……何が」


 セリナの口の歪みがひときわ大きくなった。

 白い肌に真っ赤な唇。喉の奥は暗い。

 線のように細くなった目に、妖しさが灯る。


「キミの身体は、不死になったのさ」

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