恋人だったはずの女性に『役立たずだ』と罵られパーティから追放された僕。最弱スキル扱いされた《調整》が実は万能で、どん底からの逆転で本当の幸せを手にした。その裏で元のパーティは僕が原因で崩壊したらしい
こまの ととと
追放男の逆転と新たな幸せの日常
僕の名前はカイン。
かつて「銀狼の旅団」というそれなりに名の知れたパーティの一員だった。
でも、今となってはその名を聞くだけで胸がざわつく。
理由は簡単だ。僕は不当な理由で追い出されたのだから。
あの日、リーダーのエドリーは僕を一瞥し、冷たい声で告げた。
「カイン、あなたの《調整》は役に立たない。もうパーティには必要ないの」
淡々としたその言葉に、一瞬理解が追いつかなかった。だが、周囲の仲間たちが目をそらす姿を見て、すぐに状況を悟った。
「……役に立たない、か」
「そうよ、あなたは役立たずなの! 男としても三流以下! いままでお情けでここにおいていたけれど……、もう我慢の限界。どこへでも行って、私達の知らないところでさっさと野垂れ死ねばいいのよ」
幼馴染で、恋人……だったはずの女性が感情を露にしながら罵倒してきた。
それも、パーティで一番の剣の腕前を持つ男、ベーブルに寄りかかりながらだ。
下衆な笑みを浮かべて、あからさまに見下してくる二人に何か言い返そうとしたが、言葉は喉の奥で固まってしまった。
(いつの間に、そんな関係になっていたんだろう……)
僕のスキル《調整》は、物や魔法の効果を微調整するという地味なものだ。
華やかな攻撃力もないし、目立った派手さもない。でも、僕はそれなりに自信を持っていた。
剣の耐久力を高めたり、回復魔法を長持ちさせたり。
それでも、彼らの活躍を支えてきたのは僕の《調整》だったはずだ。
けれど、誰も僕をかばってはくれなかった。
「ほら、とっとと目の前から消えて! ああやだ、ただ気まぐれで粉を掛けて上げただけなのに。恋人面してた時から反吐が出そうだったのよ!」
背中からそんな言葉を浴びせられながら、何も言い返せずに立ち去るしかなかった。
(そっちから告白してきたのに。結局、それも利用する為だったんだな……)
夜道を歩きながら、僕は何度も頭の中で彼らの言葉を繰り返した。
「結局、僕はどこまでもただの役立たずだったのかな……?」
空は曇って、月明かりさえ見えない。余計に惨めな感覚だ。
追放されてからの数日は、ただ漫然と歩き続けるだけだった。
だけど、その中で僕の《調整》の可能性に気づき始めたのは偶然だった。
旅の途中で立ち寄った小さな村で、壊れかけの井戸を見つけた。
そのまま放っておけず《調整》で木材を強化すると……なんと井戸は元通りに機能を取り戻したのだ。
村人たちは驚き、そして心から感謝してくれた。
「こんなことができるなんて、あなたは聖者さまか!?」
「え? い、いやそんな……」
初めて心から感謝された瞬間だった。
あのパーティにいた頃が偽りなら、間違いなく覚えのない経験だった。
その後も僕は、旅の中で自分の能力を試し続けた。
粗悪品のポーションを効能倍増の薬に変えたり、壊れかけた武器を蘇らせたり。
《調整》は思っていた以上に万能な力だったようだ。
そしてその過程で、僕自身も少しずつ前を向けるようになっていた。
「僕は役立たずなんかじゃない! この能力には、まだ可能性があるはずなんだ!」
自分でもわかる。この声には張りがあった。活力が体の中で生まれてくるのを感じずにはいられない。
転機が訪れたのは、森の奥での出来事だった。
グアアアアアッ!!!!
魔物の咆哮を聞きつけた僕が駆けつけると、そこには若い女性が魔物に囲まれていた。
彼女は深い傷を負いながらも懸命に抵抗していた。だが明らかに限界だった。
「あ、危ない!?」
咄嗟に声を上げ、僕はポケットから小さなナイフを取り出した。
ナイフの刃を《調整》で一時的に鋭くし、的確に魔物を狙う。
「グオオオ!?」
「や、やった!? これなら!!」
数分後、全ての魔物が地に伏した。
「助けてくれて、ありがとう」
彼女は傷だらけの体で僕に微笑んだ。
その顔を見た瞬間、僕の胸に何か温かいものが灯った。
彼女の名前はリナというらしい。
旅の途中で魔物に遭遇し、逃げ場を失ったところだった。
彼女の傷を癒すために手持ちのポーションを《調整》で効力を増し、飲ませると、彼女は驚いたように目を見開いた。
「こんなすごいポーション、初めて……あなた、一体何者なの?」
初めて僕の《調整》が明確に誰かの命を救った瞬間だった。
◇◇◇
一方その頃、「銀狼の旅団」は徐々に崩壊していた。
カインが抜けたことで、戦闘のたびに剣が折れ、魔法が狙った通りに効かない。
仲間たちは疲弊していった。
誰も気づいていなかったが、カインの《調整》が裏で彼らの戦闘を支えていたのだ。
「なんでだ、こんな簡単な戦いに負けるなんて!」
ベーブルの怒声は日に日に荒れ、メンバーたちは次第に彼から距離を取るようになった。
残されたのはエドリーとベーブルの二人だった。
「あなたがこの程度だったなんてね! まったくがっかりだわ!!」
「なんだと!? 少し顔がいいから遊んでやっただけの女が! 偉そうな口をきくんじゃねえ!!」
最後は一人になって全てを失い、追い詰められたエドリーはようやく気づく。
「カインがいなくなってから、全てがおかしくなった……」
だがその気づきはあまりに遅すぎたのだ。
◇◇◇
ある日、僕は街中でエドリーと再会した。
「カイン! やっとわかったの! 私にはあなたが必要だったわ! お願い、 戻ってきてくれるわよね? 私達、あんなに愛し合っていたじゃない。もちろんベーブルとは縁を切ったわ。というより、最初から何もなかったのよ。あっち言い寄ってくるから仕方なく相手してあげたの! ねぇ? 私達、寄りを戻せるわよね?」
彼女は涙ながらに懇願したが、僕の心はまったく揺らがなかった。
「もう過去には戻れないよ。君達が本当はどういう関係だったとか、そんな事自体もう興味が無いんだ。頼むから、もう顔を見せないでくれ。お互いの事は忘れた方がいい。じゃ、僕はもう行くから」
「ちょっと待って!? ねえ待ってよ! お願いだから一人にしないで!!!」
そう告げて背を向けた僕に、彼女が必死になった何かを叫んでいたけど……もう聞き取る気にもなれなかった。
その数日後の事だ、エドリーが魔物の大群に襲われ、命を落としたという噂を耳にした。
だが僕は何も感じなかった。それが彼女が選んだ道の結果なんだ。
それだけのことだった。
今、僕はリナと共に新たな人生を歩んでいる。
とある村で人々を助けながら、穏やかで満ち足りた日々を送っている。
「カイン、今日はどんな調整をするの?」
「さてね、リナの料理をもっと美味しくするのも悪くないかも」
二人の笑い声が、暖かな家の中に響いた。
冒険者こそ止めたけれど、追放されたあの日こそが、僕の新しい人生の始まりだったのだ。
恋人だったはずの女性に『役立たずだ』と罵られパーティから追放された僕。最弱スキル扱いされた《調整》が実は万能で、どん底からの逆転で本当の幸せを手にした。その裏で元のパーティは僕が原因で崩壊したらしい こまの ととと @nanashio
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