幕間(涼風 雪 視点)③ 気づきと怒りとやっはろー

「…は?司堂純平が自殺未遂?なんで?」



2年生になった私は理系コースへと進み、司堂純平は文系コースへと進んでいたため、まあ自分の気持ちにも整理をつけられるから好都合だと捉えていた。


最初の方で出席日数を稼いで後半は行かないという方法を選択し、かつコースが違い、更に授業中も全て睡眠にあてている私は、この時の司堂が置かれている状況に全く気づかなかった。


夏休み3日前。私は夏休みに出るであろう課題を取りに行くために久々に登校したところ、司堂が自殺未遂を図ったという話を隣の席の…誰だっけ、この人。


まあ、とにかく隣の席の人がそんな話をしていたので、思わず声をかけた。


「うおわっ、涼風さん!?」


…そんなに驚かなくてもいいじゃないか。なんかデジャヴだな。


まあそんなことより司堂のことだ。


「…ああ。涼風さん学校来てないから知らんよね。なんかあいつ、彼女のことレイ…襲って、その罪悪感から自殺しようとしたって話だぜ。マジで許せねえよな。」


…司堂が相良を強姦?なんだそれ?


正直、モラトリアム期の少年の性欲はとてつもないものであるから、まあ無い話ではない。


が。


というのが真っ先に出てきた疑問だった。ただ、人を盲信しすぎるのは馬鹿のすることだ。


とりあえず、休み時間あたり文系コースに忍び込んで情報を集めるか…。



「チッ…ったくよー、まじで面倒なことしてくれたよな、あいつ。」

「いやまじでそれな。レイプなんてしたアイツが悪いのによ。……ってかさ、医者とかで俺らがいじめてたとか分かったりしねえかな?」

「大丈夫だろ。なんか聞かれても落ちた時についた傷なんじゃないですかねーとか言っときゃバレねえよ。」


「あいつさー、マジで最悪だよね。相良ちゃんにそこまで迷惑かけたいのかって話。」

「そーそー!いっそあのまま死ねばよかったのに!」



…なんだこれは。


文系コースに忍び込んで聞き耳を立てていた私はその光景の異様さに絶句した。


…とりあえず、適当なやつに声をかけて話を聞いてみるか。


「ねえ、ちょっと。」


「…?誰ですか?」


質問に答えを返さず、私は続ける。


「司堂純平はなぜこんなに嫌われているの?」


「は!?あんたあの事件知らねえのかよ!?…まあいいや、ちょっと大声では言えないんだけどな、あいつの元彼女――ほら、あそこにいるだろ、あれが相良さんって言うんだけど、……相良さんのことを襲ったみたいなんだ。」


やはりあの噂は2学年の生徒共通と捉えて良さそうだ。


火のないところに煙は立たない。ここまでとなると、私も少しばかり司堂に疑惑の念を抱かざるをえない。


「…それはやっぱり、なにか決定的な証拠を見せられたからみんな信じてるってこと?」


「ああそうだ。―――ある日な、涼風さんが泣きながら教室入ってきて、襲われたって言ってたんだよ!」


ん?


「ええと、その。例えば、襲われる時の音声とか、訴える準備を進めてるとか…」


「??いや、そういうのは特になかったけど…ああ!そういえば、あの山下先輩も『そんな酷い事をした奴がいるなんて許せない』とかめちゃくちゃ怒ってからな!それに、相良さん訴えるとかは考えてないって言ってて…優しすぎて涙が出てくるぜ!」


どの山下先輩だよ。知らねえよ。


「…分かった。ありがとね、話聞かせてくれて」


そう言って私は足早に立ち去る。



人は他人をレッテル貼りすることを強く好む。「陰キャ」「陽キャ」「イケメン」「ブサイク」「不良」「模範的な生徒」etc…。


確固たる証拠もないのに、司堂純平を「犯罪者」とレッテルを貼り、暴力の対象とするのをよしとするこの状況に心底うんざりした。



私は少し気になることがあったため、相良のことを少し観察してみた。


彼女は―――そうだな。一言で言い表せば、「まるで何かに怯えているよう」だった。


活発でみんなから人気があると評判の彼女の面影はどこにもなく、いつも机に突っ伏して――と言うよりは、耳を塞いで何も見ない、聞かないようにして、震えていた。



ここまでの話や状況を総括して、いくつかの疑問点が残る。


まず第1。なぜ司堂は学校に来ていた?


もし私が女を襲った側であれば、とても人の前に姿は現せないはずだ。恐らくひっそりと転校するだろう。


にも関わらず、司堂は毎日学校に来ていたそうではないか。一体なぜか。



第2。訴えないなんて選択肢あるのだろうか。


仮に私が襲われた側だとしよう。いくら仲のいい友人や彼氏とはいえ、そいつにレイプされたら私はそいつを一生恨むだろう。


それこそ、法で裁いてもらおうとする。


しかしながら泣き寝入りしたり、あまり大事にしたくない人がいるのも事実。だが、相良かまそんな性格ならばわざわざ学校で大事にするか?


今の時代、学生のネットの拡散力と言ったら、下手なマスコミよりあるのでは無いかと疑う程のものだ。そんな学生達に噂を広げるなんて、大事にしたくないとすれば悪手の極みでないか。


しかも、本人が隠すよう望んだとしても、(普通の)両親ならばそれを許さないだろう。せめて示談金くらいは取ろうとするはずだ。


第3。これが一番気がかりである。


――


グルーミングか。はたまた、自分を慰みものにしたとはいえ元は好きだった幼なじみがここまでの仕打ちを受けていることにが辛いのか。


そういう線も考えられたが、彼女の仕草からはまるで何かに対する「怯え」が感じられた。


これはあくまで勘であるが、どうしても腑に落ちなかった。


私は襲われたことがないので、実際に襲われた人がどういった行動に出るかなんてわからない。


人は理屈じゃ動かない時もある、というのはもちろん理解している。




―――会ってみるか。


暴漢魔、司堂純平に。


話してみて、彼の本質と言い分を見てみたいと思った。


もしそこで襲われたら…それは私の人を見る目がなかった、ということで。


そして何かしらの確信があった。


司堂純平は、これからも学校に来るだろうと。




そうして夏休みが明け、予想通り司堂は登校してきた。


私は見たから。朝、教師と生徒数名にタコ殴りにされている司堂の姿を。


ひとまずそれをバレないようスマホに収める。


止めなかった私は薄情だろうか。



なら、そこで「やめなよ!!」と正義感を振りかざして間に入ったとしよう。


結局、怒りの矛先が私に向くか司堂へのいじめがより悪化するかで何もいいことがない。


…まあ、殺しそうな勢いだったらさすがに止めに入るつもりだったが。……言い訳か。


彼のしたことが冤罪であれ事実であれ、それは私刑をする理由にはならない。


自分を正義だと信じ込んで裁きを下す、法律の代弁者モドキが本当に多くなったなーと呑気なことを考えつつ、ふと気になった相良の様子を見る。


彼女は机に突っ伏して…いない。ただ司堂が虐められている現場をみて、誰にもバレないように、静かに涙を流していた。


口パクで「違う」やらなんやら言っていた…気もする。別に読唇術なんて使えないのであくまで推測だが。



さて、教室に戻った私は少し考える。彼は自分のことを殴った担任の授業なぞ受けたくないだろうから、必ずどこかで時間を潰すはず。


じゃあ彼が時間を潰す場「いやーあいつまじざまあねえよなwww」


隣で男3人が司堂についての話をしているようだ。


……うるさいな、考え事をしてるんだから黙ってて欲しいのに。


「いやほんとにな。てかあいつよく学校来れるよなほんと。メンタルバケモンだろwww」


「マジそれなwwwてかさ、レイプ魔なんだからあのまま死ねばよかったのに!」


「どうせ死んでも誰も悲しまねえよな!てか文系コースのヤツらに殺されるだろあの調子じゃwww」



「……あのさ。司堂純平が暴漢魔ってどうしてみんな思ってるんだい?」


しまった。思わず声をかけてしまった。ほら、男子も驚いてる。これで三回目かあ。


「……あぁ、涼風さんか。いやだって、相良さんが泣きながら……」


「うん、そっか。もういいよ、ありがとう。」


男子生徒はポカーンとしながら去っていく涼風の後ろ姿を見つめていた。



なるほどね。やっぱりみんな「一方だけ」の情報を信じているわけか。それが集団心理でここまで大きなものになった…と。


人は理屈ではない。いかにその情報が不確定なものでも、普通の男子と泣いている女子だったら当然女子の言うことを真実と受け取るだろう。



……まあ、いい。誰かが現場を見たとかでは無いことに少しホッとしている。


ホッとしてる――か。そうだな。もういい加減認めよう。


私はどうしても司堂がそういうことをしたと思えない。これは私の感情的な部分だ。


そして、どんな人が犯罪を犯すかなんて私にはわからない。だから、司堂のことを信じ切ることは絶対にない。これは、私の論理的な部分だ。



「さてさて、授業をサボるやつってのはどこに行くのかね〜…」


保健室?いや、養護教諭という「人」がいる。


恐らく人がいるところには寄り付かないだろう。


校舎外? そんな目立つことはしないはずだ。


空き教室は基本鍵が掛けられているし、教科別の教室は授業で使われている。


なら…図書室か。唯一いつでも鍵が開いていて人が来ないところ。


………これで来なかったらだいぶイタいな、私



そうして図書室で授業時間にして2時間ほど過ぎ、3時間目が開始したとき。


図書室の扉が開かれて、お目当ての人物が入ってきた。


…うわ、なんだあれ。今にも死にそうじゃないか。霊感なんてこれっぽっちもないが、死相が出てるぞ、死相が。



うーん、とりあえずどんな状況でも空気を和ませてくれるあの人の名言を使うか。


そうして、私に気づかずに目の前に座った彼に声をかける。



「やっはろー?」




---------------

呼んでくださりありがとうございます。


ひとまずここまで!あとは三ヶ月後に楽しみにしててください!さすがにざまあ無しでエタルなんてことはしませんでぇ!


追記する部分があるとしたら、参考にしたアニメキャラの名前を書くことぐらいだと思うので、とりあえず追記に関しては気にしなくていいでやんす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る