幕間(医者 視点)①
「――はあ。最近は多いなぁ。こういうの。」
小さい頃に大事故に遭って、「一生手が動かせないかもしれない」と医者から説明されたことがあった。
ふざけるなと思った。
小さい子供ながら、僕の将来の可能性を狭めるようなことを言った医者に対して酷い怒りを覚えた。
今思えばだいぶ見当違いな怒りだったと思うが、それでも当時の僕はそう思ったんだ。
それからの僕の回復はまさに奇跡としか言いようがなかった。あれから40年ほど経った今はもう後遺症もほとんどない。
そこから僕は医者を目ざした。
「大丈夫。安心して。僕に任せてくれればどうとでもなるから。」
そう言って患者を安心させられるような医者になりたかった。
結局大学受験の時は4…いや5浪したっけ。
なんとか国公立医学部の中では偏差値のいちばん低い所へと進学できた。
大学での6年間も辛いことは多かったが、理想の医者になるためと思ったら苦ではなかった。
国家試験にも受かり、地方の病院へと配属された。
これから僕の理想の医者になれるように頑張るんだ!と、当時若僧だった僕はウキウキだったな。
しかし、手術を担当していくうちに、こういう感情が芽生えてきた。
「こんな辛いことが起きる前に、どうにかしてあげられなかったのか」
もちろんただの傲慢であることは分かっている。が、患者の痛々しい容態を見るとどうしてもそういう考えが頭をよぎるようになった。
今回担当した子も、きっと死にたくなるような辛いことがあったんだろう。
「…はぁ。」
「またお人好しなこと考えてるんですか、先生。ひとまず『患者が助かった、喜ばしいことだ』。それでいいじゃないですか。」
看護師長が僕に言葉をかける。
「まあ、本当にその通りなんだがね。どうしても『こうなる前に』って考えがね…」
「はいはい、わかりましたから。……でも本当に良かったですね、助かって。あれ以上血を失っていたら本当に危なかったですから。」
そうなのだ。今回助かったのは救急車を呼んだのが非常に早かったから。
救急隊員の人の話を聞くと、何やら女の子が叫びながら通報してきたらしい。本当にその子に感謝だな。
だが、彼の傷について少し気になることがある。
「あのな、彼の体の痣。どう思う?」
僕はその疑問を看護師長にぶつける。
「……当然、木にぶつかりながら落ちていったらしいのでそこでついた…とも考えられますが……なんて言えばいいんでしょうか。」
「……わかるよ、そういう可能性もあるって。でもなあ―――」
あまりにも痣が多すぎないか?
まるで、長い間そういう傷を負っていたような…
私と看護師長の間には、無言の時間が流れた。
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