幕間(涼風 雪 視点)② 〇〇さん「私、気になります!」

「…あれ?こんな人、前までいたっけ?」


私は高校1年生最後の某残酷模試の結果の順位が張り出された紙を見ていた。


天才だの化け物だと言われているが、私の実力はれっきとした努力の塊である。つまり、本質はそこらへんの高校生と何ら変わらないため、当然順位表をみて圧倒的な1位である自分に喜びを覚えるし、当然他の人の順位や点数だって気になるお年頃なのだ。


だからいつも1桁第の奴とかの順位が落ちていたりすると1人でゲラゲラ笑っていたりするものだ。我ながら気持ち悪い。


私の通う高校では300人中上位50名が成績上位者として張り出されるが、まあほとんどそのメンツに変化はなかった。


しかし、ある名前に私は違和感を覚えた。


「司堂 純平 302/600 24位」


私は入学当初、どんな人と友達になったり付き合ったりしてアニメのような青春を送ろうか決めるために、色んな人から話を聞き、全校生徒の情報を紙にまとめていた。(まあ、そんな紙すぐ必要なくなったんだけど。)


「んー…と。あ、あったあった」


司堂について書かれた紙を見つける。


「司堂純平。身長は平均より少し下で、ヒョロッヒョロのもやし。中学生の頃からカーストは低く、運動はもちろん勉強もできず、噂によると高校入試は最下位。相良志保と交際中…か。」


うーん…。この高校は私という外れ値を除いても、全国的にそこそこ名の知れている進学校だ。当然生徒のレベルも相当高い。


そんな環境で、わずか1年足らずでここまで順位を上げるなんて(私には到底及ばない量ではあるが)相当努力が必要なはずだ。


千反○さんでは無いが、勉強をしすぎたせいか気になることや分からないことがあるとどうしても解決したくなってしまう性分になってしまった私は、早速クラスメートに司堂について聞いてみた。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」


「え!?涼風さん!?」


……まあそりゃ驚かれるか。いくら隣の席とは言っても1回も話したことない人から話しかけられたらそうなるのが普通だよねー…。


気を取り直して、司堂についての情報を聞き出す。


「え?司堂君?いい人だよねー!勉強も運動も出来るし話も面白いし!…大声では言えないけど、相良さんがいなかったら狙ってたって女子、結構多いよ。」


はて。やはり私の調べた司堂についての情報とだいぶ乖離があるようだ。


「なによりもさー、あの真摯さ!正直、司堂君最初の方はぱっとしてなかったでしょ?でも、『相良さんに釣り合えるような人になりたいんだ。』って言って、必死に努力したんだってー!!!すごいよねー、彼女のためにそこまでできるなんて!」


…なんだそれは。私の思い描いていた青春を謳歌しているではないか。そんな私の憧れみたいな人物が実在したのか!


「あっほら、あれが司堂君だよ」


セットされた髪に程よく鍛えられた筋肉、顔も決して悪くない。そんな彼の周りでは、司堂の友人らしき面々が司堂の話に大爆笑している。


とてもついこの間まで陰キャだったとは到底思えないような雰囲気であった。


この時私は、初めて司堂に興味を持った。と言っても、恋愛的な意味はまだなく、本当に単純な知的好奇心であった。



初めて司堂を認識してから数日後、スマホを学校に忘れていることに気づいた私は、放課後の学校へと足を運んだ。


部活動をしている生徒の声に混じって、司堂の声が聞こえてきた。


「――いえいえ!大丈夫ですよ!このくらい当然のことですって!」


「いやしかしなあ、司堂。本当にお前には助かってるんだぞ。」


「いえいえ、大変な作業を手伝うなんて当然のことですから。」


隠れて様子を見てみると、どうやら司堂が用務員の人の手伝いをしていたようだった。


「じゃあ、またな。司堂。手伝ってくれてありがとうな。何かあったらワシも力になってやるから、遠慮なく言えよ。」


「はい!こちらこそ、いつも学校を綺麗にしてくださってありがとうございます!」



――ふむ。 正直、私は少し嫌悪感を覚えた。


今までアニメ視聴と勉強と読書しかしてこなかったせいでだいぶ捻くれた性格の私からすれば、それは内申点のための大人への媚びとしか捉えられなかった。


両親の影響で「大人に頼る」ことを知らない私は、大人に対して媚びを売ったり可愛がられたりする人間が嫌いであった。


――まあ、言い換えてしまえば嫉妬やないものねだり、というのは自覚している。伊達に全国1位の頭脳はしていない。


…見損なったぞ、司堂純平!



顔も知らない人に勝手に憧れられて勝手に失望された事は(当然ながら)微塵も知らない司堂は、満足そうな笑顔で帰路に着いた。



嫌いなものであればあるほど気になってしまうのは人の心理で、それから3ヶ月程司堂の動向を観察していたところ、ある事実に気づいた。


(…あれ?あいつ、単純に性格が良い奴じゃない?)


司堂が善行をするとき、必ずしも周りに大人がいるとは限らなかった。…いや、周りに誰もいないことの方が圧倒的に多かった。


日直が消し忘れた黒板を消す。

委員会の人がやり忘れた花の水やり。

他人がやりたがらない仕事を率先してやる。

教師や用務員の手伝い。

道で転んでしまった子供の手当。

重そうな荷物をもった老人の手伝い。

etc…


うん、もう認めざるをえない。こいつはただの善人だ。大人に媚びを売っている訳ではなかったのか。


恐らくは、元からの自己肯定感の低さと優しさ、謙虚さが相まってこのような性格になったのだろうと私は推測した。


というか、そんなこと《司堂が単純に良い奴だってこと》本当は1ヶ月目くらいで分かっていた。


え?じゃあなんで3ヶ月もこんなストーカーまがいのことをしてたのかって?


…乙女に聞くなよそんなこと。野暮だぞ。



いつの間にか彼の順位は1桁第に突入していき、私との点数の差は3ヶ月前250点だったのが100点くらいには迫ってきていた。



初めて3次元の人間のことを尊敬した。


愛する人のためにここまで努力でき、性格は根っからの善人。まさに全世界の女子高生が望むような誠実な彼氏ではないか。


あーあ、本当に―――いや、なんでもない。心の声とは言え、これを文字に起こすのはやはり野暮であるし、なにより彼の彼女相良 志保に申し訳ない。


しかし。本当に羨ましいな。相良は。


しょうがない、私は来年入ってくる適当な後輩を捕まえて、少年呼びするダウナー先輩お姉さんキャラを目指すか。



なんて呑気なことを思っていた、高校2年生の4月。



事件は、まだ起きていなかった。




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読んで頂きありがとうございます!


恋愛漫画だと、「あー!お前あの時の!」とか、「○○君、覚えてる…?ほら、小学生の頃隣に住んでた…」とか。運命的な出会いから恋をするものですが、現実はそうじゃない。


だんだんと、だんだんと好きになっていくものなのです。


それでいて、恋愛はそこまで複雑じゃない。


「一緒にいて心地いいな」とか、「顔が良くてずっと見てられる」とか。そんな単純なもんなんです。人が人を好きになる理由って。


まあ今回はそこまで山場はなかったですね。強いていえば涼風ちゃんが可愛いことくらい?


とりあえずあと1個だけあげて、今度こそ3ヶ月間のお別れです!こんなさいねほんと。

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