前編(2)

――1週間、学校に通った。


俺はまだ虐められていた。


証拠が残らないように体を殴られた。教科書は捨てられた。陰口では「性犯罪者」「レイプ魔」という単語がどこにいても聞こえた。


両親が弁当を作ってくれなくなったので、コンビニで買ってきた弁当を食べようとしたら、机を蹴り挙げられた。弁当は床に落ち、面白がった男子がそれを食わせようと髪を掴んでくる。それを見て「汚いwww」と女子たちは笑っていた。


志保はそんな俺を見て、ただ黙って下を向いて、震えていた。


――2週間、学校に通った。


先生に相談もした。彼らは自身の学校の評判を気にしてか、「いじめをした瞬間の証拠はあるのか」「お前の考えすぎだ」と相手にされなかった。


――3週間。


隠しカメラを持って殴られている瞬間を撮ってやった。それを先生に見せた。「なんだ、友達同士でじゃれあっているだけじゃないか。」


なかったことにされた


両親にも見せた。久々に両親の顔をしっかりと見たが、どこか疲弊しきったような顔をしていた。


「……自業自得だ。」


とても、これまで自分を愛してくれていた両親の言葉とは思えなかった。


――1ヶ月。


虐められていると、本当に俺が志保を襲ったのでは無いかと錯覚してくる。


襲うまでは行かなくても、彼女に対してなにかとてつもないやらかしをしてしまったのではないか。だから復讐としてみんなに俺のことを虐めさせているのではないかと。


そう思考を巡らせつつ、放課後に1人残り教室のゴミ箱を漁り、いつものように自分の教科書を探していた。そんな時だった。


――神の悪戯か。志保が教室へ入ってきた。


「…あっ、」


志保は俺に気づくと、小さい、悲鳴のような声をあげた。


――彼女に、謝らなくては。申し訳ないが、何をしてしまったのかわからないと。俺の事をこんなに追い詰めるくらい酷いことをしてしまってごめんと。


そう、口に出そうとした時。俺の口から出てきたのは謝罪の言葉ではなく、吐瀉物であった。


…俺はそのまま気を失って、病院へと運ばれた。


――2ヶ月。


妹から心配されることが増えた。学校で気を失った出来事は勉強でのストレスだと妹には説明した。


「…あんま無理すんなよ、純平」

「1日位学校休んでも大丈夫じゃないか…?」

「今日は私とサボってどっかいこーぜ?…え?学校行くって?…そっか。まあ、気晴らししたくなったらいつでも言ってな。」


妹から心配される度に、俺はなんとも言えない気持ちになった。感謝で胸がいっぱいになった。


…それでも、唯一の味方と言える妹には、いじめのことを話さなかった。


いや、のか。


今思うと、なぜ相談しなかったんだろうと思う。おかしいのは自分でもわかっていた。


まあおかしくなっている時の行動に理由などないのかもしれないが、会えて理由をつけるとするなら。


――裏切られたくなかったんだろう。唯一の味方である妹に。自分の本心を晒して、今の状況を晒して。「こんな惨めな奴が兄だなんて…」と思われたくなかったんだろう、と思う。


そんなこと妹が思うわけないのだが、おかしくなっていた俺にとって、そうなる可能性が0.1%でもあれば相談すると言う選択肢はもはや無いのと等しかった。


――3。


人の噂は七十五日の迷信を信じてみたが、全くもっていじめは無くならない。


それどころか悪化している。


だんだんと顔の方にも被害が出てきた。


学校では暴行。家では両親と言葉を交わすことなく、3日に1回1000円札が俺の部屋の前に置かれるだけで、飯は3ヶ月前から1回もつくってもらっていない。


妹は「子供にご飯を食べさせないで、何が親だ!!!」と怒鳴り散らして、両親とよく喧嘩をしていた。


その頃には、もう医者や警察に頼ろうという考えはなかった。


馬鹿げた話だが、学校に行っていじめられることが義務であると錯覚していた。


妹には心配をかけたくなくて、なによりこれ以上何かをさせるというのが心苦しくてたまらなかったから、なるべく顔を合わせないようにした。


――4


その日はなぜかいつもより調子が良かった。家を出るときも声を張り上げて「いってきます!!!」と元気に挨拶をして登校した。


とても気分が良かったので、スキップで通学路を駆け抜けた。


「えー、来週から夏休みですがー。学生として気を抜かないように〜」


何気ない先生の話がとても面白く聞こえた。一言一句聞き逃さないようにノートにすべて書き留めた。


友人達とのおふざけも楽しかった。ちょっと痛いけど、みんなとまたこうやって仲良くなることができてとても嬉しかった。


昼休みのことだった。コンビニ弁当に水をかけられ、髪をつかまれそれを食べさせられた。


志保の方をちらりと見ると、彼女は泣いていた。


――何か、やらなきゃいけない事があったような。


「ああ!思い出した!そうだったそうだった」


急に大声を張り上げた俺に友人たちは驚いていた。


そんな友人たちに脇目もふらず、屋上へと向かう。


最近は屋上へ入れないようにドアに鍵がかけられているため、ドアのガラス部分を近くにあった金属バットで破る。どうやら屋上前の広間は野球部が使っていたらしい。


金属バットや割れたガラスの鋭い先端をみるとなぜか体が震えるが、その理由はわからない。




そして、屋上にたどり着いた俺は。


「うわー今日曇りかー…」





      そう言って、鳥かごの中から抜け出した。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

この話を書く上で一番苦労したのは主人公の奇行のシーンです。

結局そういう病気になったことがない人が書けるのはあくまで想像上のもの、偽りのものに過ぎないというわけですね。


なるべくリアルに近づけたかったので、友人の学生時代の行動(当時は精神的な病気を患っていた)を織り交ぜてみました。(ちゃんと許可は得ています)


今でも仲がいいので時々話すんですが、「当時は自分の行動がおかしいなんて一切思ってなかったと思うんよなー。てかぶっちゃけ治療開始してから?記憶がおぼろげだし。」と、まあ話のネタにできる程度には過去のこととして捉えられているんだと思います。


今の時代何で炎上するか分からなさすぎて怖いです。特にこういった病気を扱うもの。


なので物語中でもあとがき中でも「ここ不謹慎やろがい。じゃけん、(炎上)行きましょうね」みたいな部分あったらどんどんコメント残してください。都度修正します。(あとこうしたほうがいいよみたいなコメントも、反映するかはわからないけどめちゃくちゃ参考にはしますんでどうぞ気軽に。)

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