冤罪で学校での立場を失った俺と不思議な彼女
@haruri456
前編(1)
「くそっ、くそっ、くそっ!!!!」
…俺の名前は司堂純平。高校2年生。1か月前に飛び降り自殺未遂事件を起こした問題児だ。
理由は俺が自分の彼女をレイプしようとした罪の重さに耐えきれなくなったから。
――というのがみんなが信じ込んでいるカスみたいな理由だろう。
俺は、そんな事してないのに。
ひとまず、自殺しようとした理由を説明しよう。
俺には幼馴染の彼女がいた。名前は相良志保。彼女とは小学生からの付き合いで、家が近所だったこともあり、遊ぶ時にはいつも彼女とセットだった。
少女漫画とかラブコメみたいな「恋に落ちる瞬間」みたいなのはなかったけれど、年頃の男子にとってずっと一緒にいる異性と言うだけで徐々に恋に落ちていくのには十分な理由だった。
高校生になって、彼女に告白した。OKされた時は、天にも登る気持ちだった。
正直、内気でヒョロヒョロ、頭も良くは無い俺と、常にクラスカースト上位に君臨している彼女とでは釣り合いが取れないと思った。
――だから、俺は彼女に釣り合う男になるために高一の1年間、必死に努力した。内気な性格を直そうと友達を沢山作り、死にものぐるいで勉強して成績は常に10位以内。1つ年下の妹の瀬奈に頼んで服装や髪型も整えた。筋トレも毎日欠かさずやったおかげで中学生の頃までの俺の面影はもうなかった。
彼女に対する接し方も気をつけた。愛していることを恥ずかしがらずしっかりと伝え、デート中の気遣いも忘れなかった。
彼女の要望にはできるだけ答え、恋人としてのスキンシップも欠かさないよう、それなりに身体も重ねた。
そんな彼女の口癖は
「純平といるとほんと楽しいな。周りのみんなが彼氏の愚痴ばっかり言ってるのに、私は愚痴なんて出てこないもん!」だった。
それを言われる度、俺の努力が報われた気がして、何より彼女の素敵な笑顔が見れてとても嬉しかった。
そんな幸せな日々は、高二の5月に終わりを告げた。
彼女の浮気現場を見てしまったのだ。本当に偶然だった。彼女と男の人がホテルから出てくるところに鉢合わせてしまった。
男の方は確か…男子の間では女遊びが激しいで有名な新城先輩だったか。…もう名前すら思い出したくもないが。
彼女は慌てた様子で「ちっ違うの!」「話を聞いて!」とか何とか言ってたがもうどうでもよかった。
「――せめて、別れてからにしてほしかったな。」
そう言って、俺は彼女たちから逃げた。
逃げる瞬間、新城の気持ち悪い笑みが見えた。
……ここで逃げなければよかったのかな、とか今では思っている。
その次の日、憂鬱な気分を抱えつつも学校に向かった。両親から「顔色が悪いから休んだ方が…」と言われたが、ここで休んだらあいつらに負けた気がして休めなかった。
玄関を開く時、「純平、何があったか知らんけど、無理すんなよ。」といつもはぶっきらぼうな瀬奈にも心配されつつ、家を後にした。
そしてクラスに着いて、吐きそうな気分を覚えながら友人たちと話していると。
志保が、泣きながら教室に入ってきた。
泣きたいのはこっちだよ、と心の中で悪態をつきながら彼女のことを気にしないよう友人たちとの会話を再会しようとした。
その時だった。
「「「はーーー!!!!????」」」
志保といつも仲良くしている3人組が大声をあげた。どうやら彼女に話を聞きに行ったらしい。
少しでも友人に責められてしまえ。とまた心の中で思っていると、3人組のうちの一人が突然こちらに向かってきて、俺をビンタした。
「司堂!!!あんた最低だよ!!!!」
意味がわからなかった。叩かれるべきは彼女だって言うのに。
「…は?俺なんかした?」
「とぼけないでよ!あんた志保ちゃんに酷いことしたんでしょ!!!」
困惑していた頭の中が余計ショートしそうになった。
「俺が?志保に?…ふざけたこと言ってんじゃねえよ!!酷いことされたのは俺の方だろ!!!!」
「あんたっ…!…今まで良い奴だと思ってたけど、こんなクソ野郎だったなんてね。」
そう彼女は吐き捨て、志保の元へと戻って行った。
友人たちが「お前なんかしたん?」と聞いてきた。ここであいつが浮気していたとぶちまけてしまいたかった。
でも俺は「わからん」と言って何も話さなかった。…いや、『話せなかった』のか。
それを言ってしまうと志保が学校での立場を失ってしまう。下手したら彼女が虐められてしまうかもしれない。
酷い目にあって欲しいとは思ってはいた俺だけど、そこまでは望んでいなかったから。
この時の俺は甘かった。
本当に。心の底から甘かったっ!!!!
事態が悪化したのはそれからすぐだった。
―――俺が、志保をレイプしたと、噂がまわっていた。
高一での1年間しか友情が育めていない俺に、「俺はお前のこと信じてるぜ!」という物語の中のような大親友はいなかった。
この時点でもう辛かった。苦しかった。
だから俺はみんなの前で、「俺はそんなことやっていない!しかも志保は浮気をしていたんだ!!」と叫んでしまった。
それが悪手だった。
「お前志保ちゃんに罪を被せんなよ!!」
「私たちこんな人と仲良くしてたんだ…」
「お前警察行った方がいいぜ!このクズ!!」
あの時の光景は今でも忘れない。生ゴミを見るような目、怯えるような目、哀れんだ目。
目。目。目。目。目。
俺はその空気に耐えきれず、「…俺は、やって、ない…·。」と言い残し、学校を早退した。
それが悪手だったのか。どこで選択を間違えたのか。今ではもう分からない。
家で布団にくるまり泣いていると、両親が帰ってきた。
吐き出したい。甘えたい。家族なら、信じてくれる。そう思った俺は部屋を出て、家族の元へと行こうとした。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。なんだかすごく嫌な予感がした。
「はーい…あら?志保ちゃんとこの!お久しぶりですねー!」
母が玄関を開けると、志保の両親が立っていた。
「…純平くんは、いますか。」
志保の父親が俺の事を苦々しく呼ぶ。この時の俺は謝罪されるかもと安易な考えを持っていた。そんな希望は一瞬で打ち砕かれた。
「…うちの娘に、何をしたっっっ!!!!」
左頬を殴られた。2回目ともなると慣れてしまったのか「デジャヴだなあ…」とか呑気に考えていた。
思えば、もうこの時点で俺の心は壊れていたのかもしれない。
急に何をするんだとうちの両親が志保の両親に詰め寄ると、志保の両親は学校での嘘の噂を話し始めた。彼女は泣きながら家に帰って来て、部屋に閉じこもっていたらしい。様子がおかしいと思っていたら、学校から電話がかかってきて事情を説明されたと。
「…本当に、申し訳ありませんっ!!!」
父に引きづられて、無理やり土下座させられる。痛いよ、親父。俺、やってないんだよ。
そう言おうと思っても、口がパクパク動くだけで、言葉が出てこなかった。俺の頭を押さえ込んでいる父の手を振り払おうと思っても、体のどこにも力が入らなかった。
結局俺と両親で土下座をして、慰謝料やらなんやらは後日またとの事らしい。
「なんで何も喋らないんだ!!志保ちゃんのご両親に謝罪もせずに!!!お前がやった事は一生をかけても償いきれない事なんだぞ!!」
父にもぶたれる。母は泣いている。俺の頭の中はもう真っ白だった。
そんな状況の中、妹が帰ってきた。
「ただいま〜っと…パパ!?何してんの!?」
妹が急いで父と俺を引き離す。父が泣きながら妹に事情を話す。話す。話す。話す。
妹が俺に詰め寄り、両肩を掴む。
もう、どうでもいい。どうでも。
「…純平。辛いと思うけど、嘘偽りなく答えて。」
うるさい。うるさい。うるさい。
「―――今パパが言ってたこと、本当にしたの?」
瀬奈の目が力強く輝く。もう何をする気力も起きない。でも、ここだけは。これだけは、何とかやらなくてはいけない。ここで何もしなかったら、本当に終わってしまう。そう思った俺は。
――――ゆっくりと、時間をかけて、首を横に振った。
瀬奈は無表情のまま、「ん、ならよし」と言い、父と母に向かって言う。
「純平はこう言ってるけど、なんで相手の言い分ばっかり信じるの?…はっきり言って、異常だよ。あんた達。」
「…志保ちゃん本人も、ご両親も泣いていた!!!それが、何よりの答えだ。瀬奈も、そんなやつを庇うんじゃない。」
「……話にならない。あんた達のこと、尊敬してたけど。幻滅したよ、パパ、ママ。」
そう言い放つ瀬奈の声は淡々としていて、それでいてとてつもない怒気をはらんでいた。
瀬奈は自室に戻る際、「…事実は私にもわかんないから、100%信じるとは断言できない。ごめん。でも、うちは純平を信じてるから。…それじゃ。」と俺に声を掛けた。
涙がこぼれた。
100%は信じていない?そんなの当然だ。そんなことどうだって良かった。俺の事を、頭ごなしに罵倒しなかった。
もうそれだけで、救われたと思った。
俺は部屋に戻り、泥のように眠った。
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