第63話 追放した人達は今(5)

「チッ、何で俺達がこんな仕事を」


「こんな汚れる仕事をさせられるなんて。私この後人と会うのよ。これじゃあお金をかけて、クリーンをしてもらわなくちゃいけないじゃない」


「詩音、しっかりそっちを探してください。遅れていますよ。それじゃあ、いつまで経っても帰れないじゃないですか」


「くそっ、こんなに下っ端の仕事だろう!」


 俺達は今、あるダンジョンに来ている。普段あまり一般のプレイヤーが来ないダンジョンだ。


 どんなダンジョンかといえば、毒の沼や、ヘドロのような物が浮かんでいる湖、魔獣の死骸がすぐに分解されず残り、そこら中に死臭が漂うような、本当の酷いダンジョンで。

 しかもここに存在している魔獣は、皆レベルが高く。最低でもA級よりのB級レベルの実力がなければ、すぐに殺されてしまうし。


 自然に生成される罠も、ダンジョンの知識をしっかり持っていないと、すぐに罠にかかってしまうような危険な物ばかりで。これでもすぐに命を落としてしまう。

 

 だが、こんな危険で最悪なダンジョンでも、ここにしかない特別な素材や、珍しい魔獣がいるため。何か必要な物があれば、高ランクのプレイヤー達が仕方なく来るような場所だから、一般のプレイヤーはまず入らないんだ。


 そんな最悪な場所に、どうして俺達が居るからと言えば。それはこの間のブラッドベアーの件での罰として、ここでの素材採取を命じられたからだ。


 川上さんがあの件を処理した後、一応普段通りの生活に戻った俺達だったが。最初の罰として、まずギルド内でのランクを下げられた。これにはもちろん納得できなかったさ。しかし川上さんが下した結果は覆ることはなく、俺達はそれを受け入れるしかできず。


 そしてその後にすぐに、今回のことが他の者達に伝えられると。俺達は人の手柄を横取りする奴らだ、今までの手柄も横取りした物に違いないと、陰でこそこそ言われるようになり。時には面とむかって、俺達の事を揶揄ってくる奴らまで現れた。


 まぁ、そんな奴らはすぐに潰したが。それでも俺達のギルドでの立場は、かなり落ちてしまい。また最初の頃のように、レベルの低い仕事しか受けられなくなってしまった。


 武には、俺達のような出来事が起きてすぐは、今のようなレベルの低い仕事しか与えられなくなるけれど。川上さんはすぐに俺達の力を再確認して、また特別な仕事を与えてくれるようになるから。今は言われた通りに、仕事をするしかないと言われた。


 長いことこのギルドにいる武の言うことだからな、きっとそうなんだろう。だが、短期間でギルドの上にまで上り詰めて、俺達の計画は確実に進んでいたのに。赤西のおかげでこんな事に。


 そうして今回、新たに罰として与えられた仕事が、この最悪なダンジョンでの仕事だった。特別な装備を装着し、毒にかからないようにしてから毒の沼に入り、ここでしか生成されない、特別な毒の石を回収してくる。これが今回の仕事内容だ。


 これだってオジットギルドでは、ようやくレベルが上がったような。上のランクに入って来たが、その上のランクの中ではまだ下っ端だからな。そういう奴らに、やらせる仕事なのに。レベルが高く優秀な俺達が、罰としてやる事になってしまった。


「ねぇ、修也。この匂いどうにかならないかしら」

 

「黙って手を動かせ! 文句を言ったって何も変わらないんだぞ!!」


「何よ、怒鳴らなくたって良いじゃない」


「さっきからうるせぇんだよ!! これ以上ブツクサ言うなら。後の仕事はお前だけにやらせるぞ!!」


「なによ……」


「はぁ、だから静かに探せば良いのに」


 毒にならない、特別な装置を装着しているとは言え、このゴミダメのような、生ゴミが腐ったような臭いまでは消せないからな。そのせいで詩音はここに来てから、ずっとグズグズ言いっぱなしだ。


 この後買い物と人と会う約束があるから汚れたくないだと? まったく俺達の仲間でなければ今頃ぶん殴って、この仕事のすべてをやらせているところだぞ。人と会うのだって、何人も付き合っている男のうちの1人に会うだけだろう。


「おい、緑川。こっちに石がかたまってあるぞ! お前の魔法で集めてくれ」


「だから政則、自分で集めてくださいって言ってるじゃないですか」


「良いからやれよ。その方が早く終わるだろうが」


「あなたが早く終わるだけで、そのせいで私が遅れるんですよ。はぁ、集めるのにあいつらが使えないのは面倒ですね」


 緑川が毒沼の淵で待機させている魔獣達を見る。俺が契約ているビックファイヤーモンキーと、キックバード、メッセージバード達だ。


 いつもだったら毒耐性のあるビックファイヤーモンキー達にも、こういった面倒な作業をやらせるんだが、今回は魔獣の力を使わずに、自分達達だけで仕事をしてこいと言われてしまったからな。


 川上さんは絶対に今の仕事姿を、誰からに見晴らせているはずだ。だからもしも魔獣達を使えば、すぐに報告されてしまい、今よりも酷い状況に追いやられてしまうだろう。ここは言われた通りにするしかない。


 が、俺でも気づくことができない、陰で動けるようなレベルの奴らが、オジットギルドにはいるという事で。俺は自分のギルドを立ち上げる時、こいつらも自分の元へ連れていけたらと思っている。これでいて影で行わないといけない仕事は、けっこうあるからな。

 だからなるべくなら、こういう連中にも俺達の実力を、しっかり見せておきたいんだが。


 それにしても……。俺は作業をしながら魔獣達を見た。




     *・゜゚・*:.。..。.:*・'.。. .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゚・*

【あとがき】

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