第64話 追放した人達は今(6)

 俺の魔獣契約のスキルでは、ここまで強い魔獣と契約できるとは思っていなかった。契約できても最高でもB級の魔獣だっただろうと。


 だが戦闘好きだったビックファイヤーモンキーとキックバードは、俺達の戦いを見て、戦うことができるのならば、契約してやっても良いと。まさかの契約をすることができ。

 メッセージバードはキックバードと共にいて、一緒に付いてきたという感じだが。それでも戦闘と連絡手段を手に入れられて、俺にとっては予想外の戦力を手に入れることができた。


 が、ここ最近魔獣達の様子が変わったように思える。そう思うようになったのは、赤西達との出来事が起こる前だ。


 ギルドのその日の仕事を全て終え、あとは自由に動けると。俺達は素材採取のために、B級ダンジョンに入ることに。


 そしてダンジョンに入ってから2時間ほどすると、そのダンジョンでは最強とされる魔獣の群れが現れたため。素材採取に忙しかった俺達は、ビックファイヤーモンキーと、キックバードに戦闘を任せた。


 そこでいつもと違う事が起こった。いつもならダンジョンの最強魔獣ともなれば、1匹だろうと、さすがに何度か攻撃をしないと倒せない。それが群れともなれば、全ての魔獣を倒すのに、それなりの時間がかかる。


 だがその時は違った。ビックファイヤーモンキーもキックバードも、複数の魔獣を一撃で倒したんだ。これには俺も驚いた。契約をしてから、特に強くなったようには感じていなかったのに、いきなり複数の魔獣を倒したんだぞ?


 ただ驚いたのは俺だけではなく、本人達もだったようで。最初の攻撃の後、なんともいえない表情をして、倒した魔獣達を見ていた。


 だが考えている暇はなかった。すぐにまた魔獣達が襲ってきて、ビックファイヤーモンキー達はすぐさま戦闘に戻り。が、そこでも不思議なことが。いつもよりも、動きにキレがあるように見え。


 そうしていつもよりも、簡単に魔獣達を倒したビックファイヤーモンキー達。そんなに動けるならば、どうして今までそれをやって動かなかったのか。

 まぁ、本人達も驚いていたから、自分達でも気付かぬうちに、何かが起きた可能性が高かったが。


 それでもあのキレの良い動きで、強力な攻撃ができるようになったのは、俺にとっては良いことでしかないからな。これからはもっと使ってやろう。と、その時はそう思っていた。


 しかしその後は? どんどんキレも力も元に戻っていき。今では完全に元に戻ってしまった。何故少しの間しか、力を維持することができなかった? 絶対に何か原因があるはずだ。


 俺はビックファイヤーモンキー達に、力が強くなった時の事を、そして力が強くなる前に、何か変わった事はなかったかを、思い出させようとした。

 しかし戦うことしか能のないコイツらが、何かを思い出せるはずもなく。結局何も知る事はできず。


 しかし変わった事は戦闘だけではなかった。それは戦闘とは関係のない場所で起きたのだが。ダンジョン帰りに協会へ行くと何故か必ず、協会の職員の契約魔獣に、話しかけるようになり。


 いつもコソコソと話していたから内容は分からずに。後で何を話していたのかを聞いても、大したことではない。今日はどんな魔獣と戦ったのか聞かれたらだけだと言ってきたり、他の話しをしてきたり。

 まったく、話している感じから、そんな話しはしていないと。俺が気づかないとでも思ったか。


 だがまぁ、それが分かっても、本当の内容までは分かる訳もなく。そのままこちらに関しても、元に戻ってしまった力ではないが、様子を見ることにした。


 そうして赤西の出来事が起こる2日前。もしかしたら魔獣達の内緒も話しに関係あるのでは? と思われる話しを、ギルド職員から聞く事に。


「魔獣達に、癒しかマッサージをしてあげるのはどうでしょうか?」


 今まで1度も、こんな言われた事はなかった。それどころか魔獣の話さえ出た事はなかったのに。

 協会の職員は、よほどのことがない限り、魔獣達の個人的な話しはしない。皆それぞれ、魔獣達との関係が違うからな。


 俺はもちろんきちんと、魔獣がどんな存在か分かっている。さっきも言ったが、魔獣は力ばかりで能のない生き物だ。コイツらが人間以上などという事は絶対にない。

 が、世の中には、家族や友人、相棒などと、馬鹿な事を言っている奴らがいる。その中の1人が役に立たなかったあいつだが。


 まぁ、こんな風に、考えが違うからな。あまり協会の人間は口を出してこない。だがあの日は。ずっと頑張ってきた魔獣達に、癒しをあげるのはどうか、とわざわざ言ってきて。


 俺は周りを観察した。これは協会の人間が、勝手に言っている事なのか。それとも誰かにそう言えと言われているのか。

 そうして俺は魔獣達を見た。皆、いつもと変わらない様子だった。が、職員が自分の方へと、俺の意識を戻そうとしてきて。


 そこで俺は思った。もしかして癒しを頼んだのは、うちの魔獣ではないかと。今まで職員の魔獣と話したことがなかった魔獣達。しかし数回話しを交わした後の、職員の俺への提案。タイミング的には合っている。


 うちの魔獣が癒しを求めたと仮定する。何故俺の魔獣は癒しを求めた? 職員の魔獣達と話しを始めたのはいつだ? ちょうど力が元に戻った頃だ。

 なら力を上げるために、癒しを求めたのか? 何故? 力を求めるなら、癒しでなく力その物を求めれば良いはずだ。


 癒し、力、魔獣達への接触、癒しの提案。これら全ての最初の出来事、それは……。あの癒ししかできな、役立たずとの再会したことか?


 もしかしてあいつの癒しを受け、何か体に変化が起きた? そんなわけがない。癒しなどで力が上がるなど、そんな事は絶対にない。だが、癒しと関係あるのは奴だけだ。もしかしたら奴が何かを吹き込んで、それを馬鹿なコイツらは信じた可能性がある。


 何を聞いたかは知らないが、こんな忙しい時に。はぁ、まったく、余計な事をしてくれた。やはり疫病神と関わるべきじゃなかったんだ。あの時は使えると思い、奴に魔獣を預けてしまったが……。


 早くこの罰を終わらせ、バカなこいつらの教育をし直さなければ。

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