第45話 合う合わないは別として魔獣は魔獣
誰も動かず何も言わないまま数秒が過ぎる。と、現実に引き戻されたのはラビ達が動いたからだった。
ラビがボクシング選手並みの、パンチとステップを繰り出し、ビックファイヤーモンキー達相手にファイティングポーズを見せると。
それを見たププちゃんがラビの真似をして、体を伸ばしそれを腕と手のように変形させ、シュッシュッ!! とジャンプをしながらパンチを繰り出した。
またそれを見ていたクーちゃんが、2匹の前ねをして、小さな手で頑張ってパンチを繰り出し、あまり威力がないところは、口でシュッシュッ!! と言ってカバー。ステップは完璧だったぞ。
そしてブーちゃん。ブーちゃんはドンッ!! と。本当はチョンだが、力士が四股を踏むような格好をして相手を威嚇。
が、すぐに後ろに転がってしまい。慌てて立ち上がると普通に立って、ぬにょおぉぉぉと相手を威嚇した。そして短い前足で引っ掻く仕草だ。
そのみんなの何とも言えない、でも頑張って相手を威嚇してくれている姿を見て、現実に戻った俺は。
みんなの威嚇には申し訳ないが、ここで魔獣バトルでも始められたら大変な事になると、急いでラビ達を止めながら。ラビ達の挑発に、ファイティングポーズをとった向こうの魔獣達に声をかけた。
「ほらほらみんな。そんな今にもバトルしそうな感じを出してないで、向こうへ移動するぞ。こんなど真ん中で、他の人達がきたら邪魔になるからな。それにお昼だ。みんなでご飯でも食べよう」
「何だよ、こいつらにも食べさせるのか?」
「仕方ないだろう。俺達だけ食べるわけにいくかよ。それで暴れられたらどうするんだ」
「そうだけどさ」
魔獣大好きの晴翔も、修也の魔獣って事があるのか、あまり向こうの魔獣をよく思っていないようだ。でも、仲間外れにもできない。
まだ向こうを挑発しているラビ達を連れて、俺は壁の方へ移動。ささっとシートを敷き、みんなの食器を出した。
そんな俺達の様子を、その場から動かずに見ているビックファイヤーモンキー達。何か3匹で話している。
「クーちゃん、あいつら何て言ってるんだ?」
『なにしてるんだ? どうしてあんなところにあつまるんだ? あれはにんげんがつかってるどうぐだろ、あれでなにするんだ? こうげきできるっけ? だって』
どうやら俺達が攻撃すると、まだ思っているらしい。いや、座ってくれたとはいえ、ラビ達はまだ攻撃するつもりではいるだろうけど。そこは何とか我慢してくれ。それに食器で攻撃なんかしないよ。
「クーちゃん、伝えてくれるか? 何もしないからこっちへ来て座れって。修也達が帰ってくるまで、お前達は俺に預けられただけで、俺達は攻撃するつもりはない。すぐに修也達は帰ってくるだろうから、それまでここで座って待つぞって。ラビ達も、嫌かもしれないけど、みんなが戦うと大変な事になって、誰かが怪我をするかもしれないから、今は静かにしててくれ。でも、戦おうとしてくれてありがとう」
俺の言葉に、ラビ達は顔を見合わせた後、まだちょっと睨んでいたが、体から力を抜いてくれた。その変化に、眉を顰めるビックファイヤーモンキー達。
そしてすぐにクーちゃんが俺が言ったことを伝えてくれると。今度は向こうが顔を見合わせた後、あちらも睨んだままだったが、それでも力を抜いて。そろそろと俺達の方へ来ると、ちょっと離れた所に座ろうとした。
「待て待て、今シートを敷いてやるから」
クーちゃんに通訳してもらい、みんなが座ろうとしていた場所にシートを敷いてやると、戸惑いながらも座る3匹。俺はうんうん頷いた後、今度は皿を置いてやり、ラビ達から順番に、多めに持って来ていたご飯を、それぞれのお皿の上に乗せてやる。
「よし、じゃあ食べるぞ。匂いで他の魔獣達がくる前にな。いただきます!!」
俺の言葉にラビ達がご飯を食べ始める。が、横を見れば、とても複雑そうな顔をしたビックファイヤーモンキー達が。何だ? 食べないのか?
『ねぇ、タクパパ。あっちのまじゅう、ダンジョンでこんなごはんたべたことないって。まえにたべようとして、おこられたみたい。おまえたちはいえにかえってから、そのへんのものでもたべてろって。だからこれをたべたらまたおこられるって、こまってる』
「は? 怒られた? 修也にか? ご飯を一緒に食べるなんて、当たり前のことだろう。はぁ、やっぱりあいつ、昔からの考えから変わってないのか。魔獣は人間以下の馬鹿な生き物だって。まったく」
『じぶんたちもにんげんも、たたかえるからけいやくしただけ。ほかはどうでもいい。さいしょはきょうみがあったけど、べつにいまは。たべなくてももんだいない。っていってるよ』
「そんなの、一緒に暮らしてるんだから、今度から文句言って食べさせてもらえよ。それか協会に相談すれば、きっと仕方なく奴らは従うはずだからさ。って言っても、そうか力だけの関係だから、割り切っちゃってる感じか。まぁ、とりあえず、俺は別に怒らないから、修也達のいないうちに食べれば良さ。ほら、美味しいぞ」
全てをクーちゃんが伝えてくれると、困った顔をするビックファイヤーモンキー達だったが。ラビ達が食べるのを見て、そっとサンドイッチを手に取り、メッセージバード以外の2匹はひと口で食べ終えてしまった。そうして目を輝かせる3匹。
俺はその表情に少し笑いながら、おかわりを置いてやる。するとそれもすぐに食べ終えてしまい。メッセージバードも夢中で食べている。
そうしてご飯を食べ終える頃には、ピリピリしていた空気が消え、柔らかな空気になっていた。
「さて、後はこれだな」
少しは打ち解けたところで、俺は次の行動に移る。クーちゃんに動かないように言ってもらうとご飯が効いたのか、ビックファイヤーモンキー達は動かずにいてくれて。俺は3匹に、リフレッシュとヒールをかけてやった。
すると体が軽くなったんだろう、3匹は立ち上がり。驚いた表情のまま、パンチングをしてみたり、蹴りをしてみたりと体を動かした。
「どうだ? 疲れが取れただろう?」
『ぐおぉぉぉ?』
「何て?」
『なんで、げんきにしてくれたのかって』
「だいぶ疲れていたみたいだからな。今日は特別だ。でもまた、あんまり疲れるようなら、修也に言った方が良いぞ……。と、言ったところで、修也が何かしてくれると思えないけど」
実はさっき、ご飯の時に3匹を調べたら、何もかもが、真っ赤に表示されて。あまりの真っ赤具合に驚いてしまった。そして思ったこと。……いつか限界が来るんじゃないかって。
人と魔獣の契約は、1度契約したらそう簡単には契約破棄できない。いや、お互いがきちんと理解し破棄を望めば、何事もなく契約破棄できる。だけどもしも片方が、無理やり契約解除をしようとすると、どちらかが契約破棄の反動で大怪我をする可能性があるんだ。
ただ、お互いが納得していなくとも、命の危険がある場合なんかは、協会の人がある装置を使って、契約破棄をさせることができる。
その時は無理矢理に解除する時よりも、ダメージは少ないらしいが。それでもかなり苦しむと。でもそれで命が助かるならな。
ほとんどの人と魔獣は、しっかりと絆を結ぶから問題ないけど。年に数回はこの装置が使われるらしい。何でそんな奴らが出てくるんだか。
それでだ、俺が思った事は、もしかしたらこのビックファイヤーモンキー達もそうなりかねないってことで。
こいつらも修也と同じ、戦闘が好きということで、契約を結べたんだろう。だが、こちらの世界で暮らすうちに、他の魔獣達と人間達の関係を見てきているはずだ。
そしてもし、その関係が良いなと思うようになれば? 言っちゃ悪いが、修也とは俺とラビ達のような関係は望めないだろう。
そしてその後に起こる事は? 理解してもらえるかは分からないが、一応伝えておいた方が良いだろう。
「良いか、今から言うことをよく聞けよ。もしも疲れた、もう無理だと思ったら、必ず協会へは行くだろうから、迷わず協会にいる魔獣達に訴えろ。そうすればその魔獣と契約している協会の人が、必ずお前達を助けてくれるはずだからな」
首を傾げるビックファイヤーモンキー達。でも何とか分かりやすく説明していくと、何となくだが分かってくれたのか、最後には何度も頷いてくれた。
本当は全ての人と魔獣が、良い関係を作れると良いんだけどな。
*・゜゚・*:.。..。.:*・'.。. .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゚・*
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