第44話 嫌なことは続くもの

 ……俺は今、最悪な気分だ。なんで気分転換に来たダンジョンで、こいつらに会わないといけないんだ。


 俺達は今、C級ダンジョンに来ている。配信の時のバタバタ、お風呂でのバタバタ、母さんのお風呂へのは突撃で、かなり気持ちが沈んだ俺。俺と違い、お風呂からはすこぶる元気になったラビ達。そんなみんなを見て、また余計にテンションが下がり。


 そんなテンションダダ下がりの俺を見て、晴翔が何も考えずにダンジョンを楽しもうと誘ってくれた。

 それでこの前問題が起こったダンジョンで以外では、何も起きていなかったため。晴翔の誘いに乗り、みんなで楽しめるようにと。そんなに強い魔獣が出てこない、C級ダンジョンへ遊びに来たんだ。


 が、そこに思わぬ人物らがいて、俺のテンションはまた下がることに。俺を追放した修也のパーティーが、何故かこんなにレベルの低い、C級ダンジョンにいたんだよ。まったく、この前からずっとついていない。

 俺、自分で気づかないうちに、何か悪いことしたのか? それでそれを神様が見ていて、俺に罰を与えてるとか。


 ダンジョンに入って半日。ラビが牙ネズミとの戦闘に勝った所で、そろそろお昼ご飯にでもするかと、準備をしようとした所に、修也達はダンジョンの奥からこちらへ歩いて来た。

 そして俺達を見ると、一瞬凄く嫌そうな顔をしたが、すぐにニヤニヤ顔になり、仲間と何かを話すと、俺達の方へ近づいて来たんだ。


「よう、久しぶりだな。大した力もない役立たずが、こんなと所で何してるんだ?」


「はぁ、別に俺達の勝手だろう?」


「はっ、一丁前に魔獣なんか従えて。それで強くなったつもりか? いや、その弱い魔獣達に助けてもらわないといけないくらい、お前は弱いし、役立たずなんだもんな」


「そうよねぇ、私達の所にいた頃から、ずっとお荷物だったのだから。今だって変わりないわよね」


「まったくです。あの頃どれだけ私達が迷惑をかけられたか」


「吹っ飛ばされてどれだけ回復薬を使ったか。今考えると、そのまま放っておけば良かったな」


「それで死んでも、誰も困らなかっただろうからな。ハハハハハッ!」


「おい、用がないならさっさと行けよ!!向こうから来たって事は、もう帰る所なんだろう!」


「はっ、いつもそいつに助けてもらうのも相変わらずか! やっぱり相変わらずの役立たずで弱虫だな」


 晴翔が俺と修也達の間に入ってくれる。はぁ、別にこいつらがどう言おうが、俺としてはどうでも良いんだけど。俺が気にしない分、いつも晴翔が気にして、俺の味方になってくれる晴翔。本当にいい奴だよ晴翔は。俺は晴翔が幼馴染で本当に良かった。


 しかし、晴翔にばかりに庇われてばっかりじゃな。それにラビ達も、俺と修也達も関係に嫌なものを感じたんだろう。ラビとププちゃんはファインティングポーズを。ブーちゃんとクーちゃんは唸ってくれている。


「お前達が俺をどう思おうと、俺にはどうでも良いことだ。晴翔の言う通り、何も用事がないならさっさと帰れよ」


 俺の答えが気に食わなかったらしい。一瞬嫌な顔をした後、チッと舌打ちをした修也。だが、すぐにあのニヤニヤ顔に戻り、面倒な事を言ってきた。


「まぁ、俺も方も、お前達なんかどうでも良いが。何しろお前を追放してから良いことばかりで、次の試験ではついに階級を上げられそうなほど、レベルを上げる事ができたからな。そのおかげでオジットギルドにも誘われ、さらにレベルを上げることができた」


「本当にあんたは疫病神だったのよねぇ」


「ですが追放した今、私達の害になる事はないでしょう」


「お前は相変わらず、ちまちました、大したことのない毎日を送ってるんだろう?」


「おい、お前ら、そう言ってやるな。これでも協会で使われてる人間なんだから。が、やっぱり大した仕事をしていないんだろう? そんなお前達に俺が仕事を与えてやるよ」


「は?」


「ちょっと行きたい場所があったんだが、こいつらが大きすぎて邪魔でな。お前さ、役に立たない魔獣限定のスキルを持ってたんだろう? ちょうど良い、こいつらを少しの間ここで預かって。魔獣専用スキルがあるんだから楽だろう?」


「お前何言ってるんだ? 俺のスキルを何だと思ってる。大体自分が契約した魔獣は……」


「お前の言うことなんかどうでも良いんだよ。契約した魔獣は自分で管理しろって言われてるってか。だが相手が了解すれば預ける事は可能だろ? じゃあ、俺達は今からもう1度、ある場所へ行ってくるから、その間こいつらを頼むぞ」


「お、おい!!」


「おいおい、マジかよ」


 俺達の返事を聞かずさっさとスキルで、再び洞窟の奥へと消えて行ってしまった修也達。俺達の前には修也が契約したと思われる、ビックファイヤーモンキーと、キックバード、それとメッセージバードが残された。


「おいおい、何でこうも、面倒で嫌なことが続くんだよ」


「タク、どうするよ」


「こいつらを置いて、勝手にどこかへ行けないだろう。協会の見回りがきたら預けられるから、それまで待つしかない」


「何てこった」


 ビックファイヤーモンキーは北極グマの2倍はある、大きな猿のような魔獣でレベルはA級。その体格から、かなり強力な攻撃をしてくる。が、物理的な攻撃だけではなく、名前に入っている通り火の魔法も得意で。その合わせ技は、ヘタをするとS級並みになることも。


 キックバードはダチョウに似ていて、大きさはダチョウの1,5倍くらいのA級寄りのB級魔獣だ。こちらも名前の通り、蹴りが得意な魔獣で、蹴りが掠っただけでも、人なら何百メートルとふっ飛ばされてしまう。

 蹴りだけではなく、踏みつけ力も凄く。もしも踏まれれば人間など簡単につぶれてしまうほどだ。


 そしてメッセージバード。雀よりも少し大きな茶色い鳥で、遠くにいる仲間の元へ、メッセージを届けてくれる。かなり早く飛ぶ鳥で、本気で飛ばれると残像しか残らないことも。

 それでも早く飛びすぎると自分がどこかにぶつかり、大怪我では済まなくなるため、自らスピードを調節して飛んでいる。それでも人がその姿を見るのは、なかなかに難しい。


 置いて行かれた3匹の魔獣。そうして俺達。お互いがお互いを見たまま、数分後誰も動かなかった。

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