第4話 鼠の尻尾 狸の皮 猫の耳

 今日の朝は、実に目覚めが悪い。

 

 悪夢を見たのだ。


 黒い人影が5つ、司を見つめ続けている。

 司がそれに気が付くと、その人影共は、一斉に、司に向かって走ってきた、


 司は、必死に腕を振り、走った。


 影を振り切り、見えなくなる、遥か遠くまで…


 そのせいで、いつもより早く目が覚めてしまった司の脳は、朝一番だというのに疲れ切っていた。


 司は、この感覚に覚えがあった。


 『こりゃぁ、予知夢だな。』


 司は目覚めの一服をかますと、まだだるい体で起き上がり、日課の散歩に向かった。


 外はまだまだ冷え込んでいる。


 息を吸うたびに、冷気が咽頭を凍えさせたが、それが気付となり、目が覚めた。


 司は道すがら、あの夢を事を思い返す。


 最近の身の回りの状況から考えて、あの人影は、まず間違いなく警察だろう、と推察された。


 坂崎とか言う刑事は、司の同行を監視しているのではないかと思われるほど、行く先々で現れる。


 警察に目をつけられたとなれば、仕事に関しても慎重を期したほうが良さそうだ。


 いくら、人間の死と司とを結びつけることができないとはいえ、日常生活でも気を使うのはごめんだ。


 司は、熱いコーヒーでそんな思考を洗い流すと、首を横に振って気を取り直した。


 今日はそんなことを考える日ではない


 今日は、オフの日なのだ。


 司の仕事は不定期だが、頭の片隅では、常に仕事のことについて考えている。


 その為、定期的に仕事から離れ、自分の為だけに生きる1日を設けているのだ。


 気を取り直した司の顔には、笑顔が戻った。


 【おいおーい。今日は随分と『気』が緩んでるじゃないか。

  さては、『おふ』の日だな?】


 相棒には、全てお見通しらしい。


 司の左側上空、突如として現れたそいつは、「走り高跳び」で丁度、バーを飛び越えた時のような格好で、宙に浮きながらご機嫌に話しかけてきた。


 司の相棒、猫童だ。


 見た目だけ見れば、猫耳のカチューシャをつけた人間の子供。


 だが、その童顔に似合わず声が大きいし、野太い。


 【待ってたぜ、今日という日を!

  今日は何するんだ?】


 猫童が歓喜の声を上げると、司は答える。


 「そうだな、新しくできたショッピングモールに行く。映画を観て、買い物をして、銭湯に行って1日を締めることにしよう。」


 【いいねいいね!

  もちろん、『お供え』もよろしくな!】


 そう言うと猫童は、薄暗い景色の中に飛び込むと、消えてしまった。


 自宅に戻った司は、部屋の隅っこに目をやる。


 そこには神棚が設けられており、その上には、猫童を模した木彫りの形代が置かれている。


 この神棚に『お供え』をすることで、猫童は、それを飲んだり食べたりすることができる。


 もっと言うと、その形代に憑依することにより、現世こっちでも、奴はその姿のままで行動できるようになる。


 もっとも、人に見られるわけにはいかないので、その行動範囲は、この狭いアパートの一室に限られる。


 なんだかんだ、あいつには世話になっている。


 一族を滅ぼすために、17人呪殺した時も、今の仕事のやり方も、あいつがいなければ、成し得ないことである。


 たまには感謝を伝えるために、今日は奮発してやろう。


 司は、店が開くまでテレビを見て時間を潰し、支度をすると、軽自動車のエンジンをかけた。


〜〜


 午前9時、ここは、県警本部6階。


 6階には、刑事部が身を構えている。


 その廊下を、2人の刑事が軽い足取りで歩き進める。


 「いやあ、岩井もついに昇進して本部刑事になったとは、俺も鼻が高いよ。」


 横の刑事に向かって豪快な声で話しかけたのは、坂崎である。


 「いえ、これも全て坂崎係長のおかげです。

  自分が刑事になれたのも、係長が目を掛けてくれたおかげですから。

  また同じ部署で働けると聞いて、嬉しいですよ。」


 岩井と呼ばれた若い刑事も、明瞭に返事をする。


 岩井はこの時期にしては珍しく移動を命ぜられ、坂崎が席を置く、特別捜査本部の所属となった。

 

 「特別捜査本部」、その言葉の圧力に負けぬよう、岩井はいつにも増して、胸を張って歩き続けた。


 その部屋は、廊下の隅っこにある。


 その部屋を見た時、岩井は拍子抜けした。


 その部屋は、長机4つを向かい合わせただけの、こじんまりした、なんと言うか、とても地味な部屋だった。


 『この部屋が特別捜査本部?』


 岩井は目を疑ったが、中ではすでに、2人の刑事がパソコンと向かい合って仕事を始めている。


 「ここが、新しい仕事場だ。」


 坂崎がそう言うと、2人はその小さな部屋に入った


 「坂崎、新人を連れて参りました!」


 坂崎が豪快な挨拶を決めると、2人の視線が集まる。


 1人は白髪頭の明らかなベテラン刑事、もう1人は岩井より年上に見えた。


 「あ、今日からお世話になります!

  岩井和彦です!

  よろしくお願いします!」


 岩井もビシッと挨拶を決めると、坂崎が話し始める。


 「紹介するよ、あの方が、野村課長」


 白髪の刑事を指して言う。


 「そしてあちらが松井くんだ」


 もう1人の刑事も紹介される。


 「本当はもう1人いるんだけど、ちょっと別件でね。すぐに戻ると思うから。」


 そう言うと坂崎は、岩井のために空けられていた席に案内すると、いくつかの書類を手渡した。


 「そいつが、今追っている、上神司だ。

 その資料、読み込んどいてくれよ。」


 そう言われた岩井は、資料に目を通す。


 上神司、現在36歳、配偶者は無し。

 同人が16歳の頃、上神家関係者17名が一斉に死亡。

 その時刻、死因も全く同じ。

 所轄刑事の検視によれば、死因は皆病死。

 全ての遺体に司法解剖が施されたが、病死判定は覆らず。

 唯一の生き残りであった同人は、未成年だった為養子に出されたが、成人すると同時に独り立ちし、現在は町外れのアパートで暮らしている。


 謎が深い経歴だな。


 浅はかだが、岩井はそう思った。


 「どうだ怪しいだろ。

  しかもだ、ここ数年間の事故死者、犯罪被害者、病死者及びその関係者を調べると、なぜか上神と連絡を取り合っているんだ。

  妙だろ?それまで関わりがなかった上神と知り合った途端、数日後に人が死ぬんだ。

  これはまさに-」


 「呪いですね。」


 坂崎を遮り岩井が言う。

 

 「つまりこの部署は、20年前に発生した上神家関係者16…もとい17名の不審死について。そして、近日発生している上神司と大勢の死についての関連を捜査する部署ってことだ。

現在確認されているだけで11名、上神と関係を持った後に死んでいる。」


 坂崎の力説を遮り、ドアが開かれた。


 「12人に増えましたよ。」


 比較的若い刑事が、クリアファイルに挟まれた資料を掲げて部屋に入ってくる。


 4人の顔が一斉に驚きを露わにする。


 資料を持った刑事、山田が書類を机に並べながら続ける。


 「一週間ほど前、交通事故で亡くなった男性、長嶋歩。その妻、長嶋裕美の携帯に、上神との通話履歴がありました。」


 「そんな…、あれは完全な事故だと、交通課の奴も言ってたぞ。

  それに、目撃者も山ほど…」


 驚きを隠せない松井が、思わず口を開く。


 「松井くん、それはどの事案でも同じことだろう?」

 

 突如、野村課長が叫んだ。


 「岩井くん、山田くん、その妻と接触し、話を聞いてきて来てくれ!」


 命じられた2人の刑事は、「はい!」と返事をすると、部屋を飛び出して行った。


 「で、坂崎くん、上神司とはどんな男なんだ?」


 2人の刑事が去った後、野村課長は坂崎に問う。


 「そうですねえ…」


 坂崎は顎に手を当てて少し考えると。


 「『怪しすぎるのに、何も怪しくない男』ですかね。

  全く、掴みどころのない男で、全然尻尾を見せません。」


 「やはり、一筋縄ではいかんか…」


 それを聞いた野村課長は、頭を抱えた。


 その小さな部屋のドアの外側には、A4用紙がセロハンテープで雑に貼り付けられ、


 [上神家関連不審死特別捜査本部]


と書かれていた。


〜〜

 

 映画館から流れ出る人波の中に、1人と1匹もいた。


 今日観た映画は、筋肉山盛りのイケメンが、悪の組織を叩き潰すという、王道アクション映画だ。


 【そこだ!やっちまえ!】


 【いいぞ!ぶっ放せ!】


 他の来場客に声が聞こえないのをいいことに、猫童は司の頭上で叫び続けていた為、司は映画の内容が頭に入ってこず、若干イラついていた。


 しかし、コイツがやかましくて空気が読めないことはいつのもことなので、潔く諦めることにした。


 【面白かったなあ!実に痛快だった!】


 映画館を出て1番に放たれた猫童の言葉に、司は反抗する。


 「おい、お前がギャアギャア騒いでたせいで、こっちは吹き替えが何にも聞こえなかったんだよ。

  俺は2時間かけてポップコーン食ってただけだけど、お前が楽しんでくれたなら何よりだよ!」


 この反応に、猫童はしょんぼりした顔を見せた。


 こいつには、こう言うところがある。


 普段は図々しくて口やかましいくせに、時折しおらしい態度を見せる。


 司は一瞬謝罪しようと思ったが、


 【おい!今度はあっちだ!あっち行くぞ!】


と、また騒ぎ出したので、謝罪の言葉は飲み込むことにした。


 猫童が連れてきたのは、ショッピングモールの一角に店を構えるシュークリーム屋だった。


 【これ、前食ったよな。うまかった。また供えてくれ。】


 「いいだろう。」


 司はシュークリームを二つ買うと、右手に袋をぶら下げて、その後も猫童に言うままに店を回った。


 ひとしきり歩き、流石に足が疲れたし、このままでは袋が指に食い込んで鬱血しそうだったので、一度家に帰ることにした。


 家に着くと、司は形代の前に猫童が所望した品物を供えた。


 【ありがとよ】


 空間の波紋と共に現れた猫童が形代に触れると、形代がほのかな白い光を発しながら、徐々に肥大化していった。しばらく経つと、木彫りだった形代は手足が独立して動き出し、猫童そのものの姿へと変わった。


 【かぁ〜、やっぱりこれが1番だなぁ】


 あくびをしながら背伸びをする猫童は、身長1m50cm程度で、頭の猫耳がなければ、人間そのものである。


 もっもと、その服装はほつれた古い着物である為、現代社会には馴染まないが。


 猫童はあぐらをかいて供物の封を切ると、ガツガツと食べ始めた。


 【お前も食えよ】


 司も、差し出されたクッキーに齧り付くと、ずっと抱いていた疑問をぶつける。


 「現世こっちにいる間のお前は随分と楽しそうだが、幽世あっちでは何をして過ごしてるんだ?

 お前のホームだろ?」


 呆れたように猫童が答える。


 【お前、幽世あっちを天国か何かだと勘違いしてねえか?

  あそこにあるのは、暇と、無駄だけ、何にもないぞ。

  俺のは、20年前、お前のせいでみんな死んだしな。】


 猫童はクッキーを口に放り込んだ。


 人間と式神が契約関係にある間にその人間が死ぬと、式神も消滅する。


 上神家では、「生命のいのちのくだで繋がっているんだ」と教わっていた。


 「それは、申し訳なかったな」


 そう言う司の口調は、どこか他人事である。


 【まあ、いいってことよ。

  結局手を下したのは俺だしな。

  俺はお前に従う、それが俺の仕事だ】


 クッキーをバリバリと咀嚼しながら、猫童は答えた。


〜〜


 「うえがみ?さあ、知らない人ですね。」


 長嶋裕美は、2人の刑事を前に首を傾げると、平然と言ってのけた。


 「知らないと言われましても、あなた、上神と携帯で連絡を取り合っていますよね。

 旦那さんが事故で亡くなる前日にもね。」


 山田は、頑とした態度で詰める。


 この威圧的な刑事の問い詰めにも、長嶋裕美は屈しない。


 「まぁ、刑事さんたち、まさか私を疑っているの?私がその上神という人にお願いして、夫を殺したと?」


 「そもそも、警察は一般人の通話履歴を覗き見しているの?一体なんの権限があってそんなことをするんです?」


 長嶋裕美の嵐のような質問攻めを、岩井が防ぐ。


 「奥さん、落ち着いてください。

  実はこの上神という男が、いくつもの事件に関わっているという疑いがあるんです。あくまでもまだ、疑いの域をでません。

  ですから奥さんを疑っているわけではないんです。

  もしもこの上神という男について知っていることがあれば、どんなことでもいいので教えていただきたいだけなんです。」


 岩井は丁寧に、穏やかな口調で説明した。


 それを、長嶋裕美は軽く突っぱねる。


 「そうだったんですか。でも、知らない人について、話せることはありませんよ?」


 刑事とは人の話を聞くプロである。


 これ以上この場にいても進展が無いことを理解した2人の刑事は、


 「そうですか。

  いきなり伺って申し訳ありませんでした。

  もし何かあれば、警察にご協力をお願いします。」


 と告げて一礼すると、路上に停めていた黒色のセダンに乗車した。


 「口が硬いな、あの女」


 「ですね。

  それに、1週間前に旦那が死んだにしては、へっちゃらそうでしたね。」


 「ますます怪しいが、これ以上あの女に執着しても意味はない。

  ひとまず帰るぞ。」


 「手掛かりなし、か。

  帰ったら、何言われるかわかりませんね。」


 山田はギアをドライブに入れると岩井の方を向く。


 「安心しろ。

  この部署で手掛かり持って帰ってきたやつなんて、1人もいないからな。」


 そう言って苦笑いすると、車を走らせた。


 『とんでもない部署に飛ばされたな』


 車窓の外を流れる住宅街を眺めながら、岩井は思う。


 刑事達は未だに、逃げも隠れもしていない鼠の尻尾を掴めずにいた。



 家の前に停められていた車が発進して行くのを見届けると、かつての依頼者、長嶋裕美は少しだけ開けていたカーテンを閉める。


 突然自宅に訪れた2人の男が刑事だと知った時は、思わず声をあげそうになった。


 刑事との押し問答は15分以上に渡ったが、長嶋裕美はしらを切り通した。


 上神司、それは、自分と娘を地獄の苦しみから解放してくれた、まさに命の恩人。


 言えるはずがなかった。

 

 言うはずがなかった。

 

 警察が、その命の恩人を探している。


 『大丈かな…上神さん…』


 心配とは裏腹に、どうすることもできない長嶋裕美は、ただ祈るだけだった。


〜〜


 1人と1匹は、銭湯までの山道をのんびりと歩いていた。


 【なんでいつもの銭湯じゃねえんだ?】


 「あー、今から行くとこの爺さん、もうすぐ死ぬからな。」


 【なるほどね、最後の挨拶ってわけだな】


 それもあるが、目的はもう一つあった。


 その露天風呂から見る夜景が、たまらなく美しいのだ。


 山の中腹に店を構えるその銭湯は、知る人ぞ知る名店と言える。


 あいにく今日は曇り空だが、見下ろした街の明かりだけでも、拝んでおきたかった。


 歩く司の頭上で、猫童は、風に煽られる風船のように、自由気ままに宙を舞っていた。

 

 「今日はずいぶんとご機嫌さんだな」


 司は視線だけ上に向けて声をかけた。


 【当たり前だ、こんなに長く現世こっちに居るのは久しぶりだからな!

 さっきも言ったろ?幽世あっちはつまんねえんだよ。やっぱ俺の居場所はここだ!】

 

 かなり上空まで舞い上がっていった猫童は急降下したかと思うと、司の顔の真横でぴたりと急停止して見せた。


 【そんで何より面白いのはな?

  『成仏できなかった仏様』達とお話しす ることなんだよ。

  あいつらは「あの人に会いたくて…」 とか、「まだやり残したことが…」とか、 出来もしないことに縋り続けてやがる。

  正に空虚!そう思わないか?人間は死んでも人間ってわけだ!

  いいこと教えてやるよ。

  『田舎の電車と輪廻転生には乗り遅れるな』だ。】


 やはり、司の相棒は性格が捻り曲がっているらしい。


 「だったら、お前が成仏させてやれよ。

  出来るだろ?」


 呆れる司をよそに、猫童は止まらない


 【あいつらを見てるとな?何というか…

  あれだ、「自己肯定感」、自己肯定感が爆上がりだ。

  自分より下の存在を認識するっていうのは、気持ちが良いもんだからな!】


 「おまえも、だいぶ人間だな」


 司は、鼻で笑った。


 

 しばらく歩くと、銭湯に着いた。


 古びた外観だが、内装は綺麗に装飾され、立派な露天風呂を有している。


 前払いの会計を済ませて脱衣所に行き、シャワーへ向かう。


 あまり有名な店ではないからか、人影は少ない。


 身を清めたあと、夜景の見える露天風呂に浸かった。


 やはり、美しい。


 店に入る前は、曇り空に憤っていたが、雲が星空に蓋をしているおかげで、天地が逆転したように、街の明かりが輝いていた。


 『これもいいもんだな』

 

 普段から頭の中でやかましい声が響いていることに加え、仕事の苦労で疲弊した心身を癒すのには、この一瞬だけで十分だった。


 しばらく景色を眺めた後、ふうっ、と一息つくと、風呂から上がり、コーヒー牛乳を一気に飲み干した。


 【もういいのか?早かったな】


 「ああ、満足だ。」


 司が、ありがとう、とカウンターの前を通り過ぎると、「またよろしく」と弱々しい声が帰ってくる。


 【おっさん!身体には気をつけなよ!】


 司は実に穏やかな気持ちで、先ほどまで見下ろしていた街に戻って行った。


〜〜

 

 自宅に戻った司は、ベッドに寝っ転がりたかったが、仕事用の椅子に座っていた。


 形代に憑依してその姿を露わにした猫童が、司のベッドを占領していた。


 【いいな〜これ。人間はいつもこんな物の上で寝てんのか〜】


 猫童が珍しく、腑抜けた声を吐き出す。


 いつも仕事のやり方に文句を垂れつつも、やり切ってくれている相棒が満足そうだ。


 司は大の字でうつ伏せになり、布団に沈み込んでいる猫童を眺めていた。

 

 その時、携帯が鳴った。


 司は、もう慣れっこだ、というように電話に出る。


 「仕事の依頼か?」


 「え?あ、はい。そうです!実は…」


 電話の向こうからは、若い男の声。


 「いや、俺は眠いから話は明日だ。

  朝10時丁度に駅前の喫茶店。

  時間厳守だ。」


電話を切断すると同時に、猫童が反応する。


 【お〜お、明日は仕事かぁ。

  早く寝ないとなぁ。

  悪いが、今日は床か、その辺で寝てくれよなぁ】


 猫童は、そこだけ切り取れば可愛らしい猫耳を、ピクピクさせながら言う。


 相変わらず、大の字でウトウトしている猫童を尊重してやることにして、司は仕事机に突っ伏して、夜を越すことにした。


 

 


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