第22話 選べる生き方と選べない生き方


昼食を済ませて、外に出る。

もう少しすればタルボが来るだろう。

それまで少し素振りでもしていようか、それともノンビリと待っていようかと考えていると、


『こんにちは。カリス』


『あ、どうもこんにちは。』


この村にある道具屋の奥さんだった。

道具屋のご夫婦には僕より2つ歳上でスピノという息子さんがいる。

たしか神託は【商人】と出たって話だ。

後を継げるから良かったよね。


『スピノくんは元気してますか?』


『どうかねぇ?たぶん元気にしていると思うけど、旅に出てからは全く連絡がないね』


と心配そうな顔で言った。


『え?旅ですか?』


『そうなの。あの子、何を思ったのか魔王討伐の旅を選んだのよ』


『え!?【商人】なのにですか!?』


『変わってるでしょ?【商人】て町や村の商人として登録すれば、いずれどこかの店に配属されるのだけど、戦闘職として旅に出ることも選べるのよ』


『それは知っていましたが…実際に選ぶ人はいないと思ってました』


『普通はそうよね。ましてや商人の息子に生まれたら特にそう思うわね。私たち夫婦も必死で止めたんだけど、どうしても旅に出たいときかなくて…』


『そうだったんです。いつ頃旅に出たのですか?』


『そうねぇ。そろそろ1ヶ月になるかしら?』


『そうですか』


スピノくんは2歳歳上だから、神託を受けて旅に出るまで、最低でも1年以上は空いていたことになるな。


『カリスは?もう神託を受けたの?』


『受けましたよ。戦闘職でした』


『まぁ、そうだったのね…無理や無茶はせず、健やかにね』


『はい』


道具屋の奥さんはきっとスピノくんがすごく心配なんだ。

今の言葉も本当はスピノくんに言いたい言葉なのだろう。

僕に向けて言ってくれているのに、こんなふうに思うのはおかしいかな?

でも不思議と嫌な気持ちは全くしなかった。


『こんにちは〜』


『あら、タルボ。こんにちは。

これから2人でどこかへ出かけるの?』


『うっす。カンブリア帝国まで買い物に行こうと思って』


『そう。気をつけて行ってらっしゃいね』


『うん、ありがとう』


『それじゃあ私は行くわね。またね』


『はい。それではまた』


『うん、またね』


挨拶を交わすと、道具屋の奥さんは自分の店の方向に歩いて行った。


『何を話してたんだ?』


『あぁ、スピノくんが【商人】と神託を受けて、討伐の旅を選んだんだって』


『マジでか!?商人で討伐とは…根性あるなぁ』


『うん。僕なら絶対に選ばない』


『で、スピノくんはもう旅に出たのか?』


『うん。1ヶ月くらい前らしいよ』


『なるほど。そう言われると最近見てないもんな』


『まぁね。ねぇタルボ』


『ん?どーした?』


『なんで自分で職業を選べないのかな?』


『そうだな。これがこの世界の仕組みだし、生まれた時からそういうもんだって言われ続けてきたけど、やっぱりどこか納得はいかないよな』


『そう考えるとさ、スピノくんは少なからず自分で選ぶことができる職業だったわけで、親の気持ちを押し切ってまでやりたいことを選んだ。そんなスピノくんが羨ましいよ』


『スピノくんが本当になりたかったものは、オレたちにはわからないけどな。もしかしたら本当は全く違う何かかもしれないぞ?』


『まぁそうだけど…それでも羨ましい。僕も少しの選択でいいから、自分の人生を自分自身で決めたかったな』


『オレはさ、夢は諦めたけど…好きなことを諦めるつもりはないぞ。好きなことしながら、旅にも出る。いつか討伐の旅を引退したら…』


『…したら?』


『なぁカリス。討伐に出た人って引退とかあるのかな?年齢やケガとか病気、色々な理由は考えられるけど、旅が続けられなくなったらどうなるんだ?』


『カンブリア帝国に討伐を引退した人がいるってのは聞いたことあるけど、会ったことはないなぁ。後で探してみる?』


『そうだな。武器屋に行ったらついでに聞いてみるか』


『うん』


『じゃあ行くか。今日はカリスの武器がないし、馬車で行こうな』


『ありがとう。タルボ1人でも大丈夫だとは思うけど、何かあるといけないしね』


2人は馬車乗り場に向かって歩いていった。

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