第14話 それぞれの道
馬車は村に到着し、家に向かって歩いていく。
『あ!!カリス!!』
突然呼び止められ、声のする方向へ振り向くとそこには、、、
『ミナ。どうしたの?』
同じ村でひとつ歳上のミナだった。
『ミアを知らない!?最近どこかへ行って、どこにいるのかわからなくなる時があるの。前はこんなことなかったのに、、、』
『いや、見てないよ』
『そう、ありがとう。呼び止めて悪かったわね。もしミアを見かけたら、私が心配していた事を伝えてほしいな。』
『わかったよ』
そう伝え、再び家に向かって歩きだした。
それにしてもミアはどこに行ったんだろう?
ミアはミナのひとつ下の妹で、僕と同じ歳。
神託を受ける年齢だ。
もしかしたらその結果で苦しんで、1人になりたいのかもしれないな。
もしそうだとしたら、気持ちはよくわかる。
次会ったら少し話してみようかな。
家の前に到着したが、中には入らず家の裏手へ回った。
家の裏には薪が置いてある。
薪割りのために斧を振るスペースがあり、剣の練習にとっても十分すぎる広さがある場所だ。
さっそく練習してみよう。
僕は購入した木刀を握り、まずは最初の一太刀。
とにかく目一杯振ってみた。
『えい!!!!!』
ブンッ!ガッ!!
勢いで身体がもっていかれ、地面に木刀が当たる。
木刀を持つ手が痛い。
2回目を振るためには、まず体勢を整える必要があった。
これじゃあ、、、もしこれが戦闘ならこの隙にやられちゃうな。
よし、もう一度。
『えぇい!!!!!』
ブンッ
さっきよりも少し力を抑えることによって、勢いで身体がもっていかれるまでにはならないが、それでも体勢は崩れてしまう。
よし。まずは100回素振りをするところから始めていこう。
その日は100回どころか300回まで素振りすることとなった。
次の日、全身が筋肉痛で辛かったが、
それでもと自身を奮い立たせて、なんとかやりきった。
そしてその次の日も、、、
こうしてカリスの木刀での素振りは毎日の日課となっていった。
そんなある日。
日課の素振りをしようとしていると、、、
『何してるの?』
『ミアか。今からこの木刀で素振りをするところだよ。』
『カリスは戦闘職だったの?』
『まぁ、そうだね。それよりさ、この前ミナがミアがいないって心配して探してたよ。大丈夫だったの?』
『あぁ、うん。大丈夫。1人になりたい時だってあるでしょ?お姉ちゃんは心配しすぎなんだよ』
『そうだね。1人になりたい時もあるよね。その気持ちは理解できるよ』
『ありがと。それで、カリスが神託を受けたのはどんな戦闘職だったの?』
『【勇者】だったよ。僕が【勇者】だなんて笑っちゃうでしょ?』
『マジ!?【勇者】なの!?笑ったりはしないけど、さすがに【勇者】は驚いたなぁ』
『本当にね。その点で言うと、僕自身が1番驚いたと思う。』
『だよねぇ。。。』
『ミアはもう神託受けたの?』
『受けたよ。。。』
『そっか。その反応だとあまり良い結果ではなかったのかな?』
『そうだね。願っていた結果とは違っていた。』
『そっかぁ。。。僕も同じだから気持ちは痛いほどわかるよ』
『ほんと?カリスは【勇者】だなんて、普通は自慢するくらいすごい職業なのに、それでも?』
『そうだよ。僕がなりたかったのは、、、今でも本当はなりたい職業は【勇者】なんかじゃなかった。』
『そうなんだ。それは【勇者】と聞いた今でも変わらない想いなの?』
『そうだよ。今でもが【勇者】なんて間違いだったと思いたい。』
『そっかぁ。。。』
『わたし、、、【メイド】だったんだ。
【メイド】ってね、いずれは配属される場所に住み込みになるんだって。それで王族や貴族の身の回りのお世話をするみたい。』
『メイドかぁ、、、王族や貴族の相手は大変かもしれないけど、安全だし、給金も良いし、立派な仕事だと思うよ?』
『ねぇカリス。メイドをやってる人をお嫁さんにしたいと思う?』
『え!?お嫁さん!?今の僕にはぜんぜん現実的な質問じゃなくて、なんて答えたらいいのかわからないけど、、、お嫁さんになってくれる人がメイドなら良いんじゃない!?』
『メイドってね。主になる王族や貴族の奥様の代わりに家事をしたり、育児をしたり、色々な雑用をする仕事なの。そんな人が急にいなくなられたりしたら困るでしょ?だからなのか基本的には恋愛禁止なの。』
『え!?そうなの!?じゃあメイドの人はどうやって結婚してるの??』
『だいたいは適齢期を過ぎたあたりで、主にあてがわれた人と結婚するわね。』
『そ、そうなんだ。』
『私の夢はね。。。お嫁さんになることなの。子供みたいな夢だと思うでしょ?でも、私にとってはすごく大切なことで、幼い頃からずっと憧れてたことなの。いつか神託を受けて、どんな仕事に就くことになったとしても、絶対に好きな人と出会って、素敵なお嫁さんになるんだって思ってきたの。なのに、、、よりによってメイドだなんて。。。』
『め、メイドだってさ、中には素敵な人と出会えて素敵な結婚ができる人だっているんじゃないかな!?』
『それは、、、中にはいると思うけど、、、すごく難しいよ。私が素敵な人だなって思っても、相手からしたらメイドなんて、主の存在もちらつくから声だってかけにくいと思うし』
『いや、そこはほら、ミアはすごくかわいいし、絶対に大丈夫だって!!』
『え?私がかわいい?』
『いや、あの、、、ぼ、僕はそう思うっていうか、、、』
『そっか。。。カリスありがとう。』
『う、うん』
『それが私を励まそうと言ってくれた言葉だとしても、とても嬉しかったよ。』
『いや、、、本当にかわいいと思うよ?』
『なんでそこで疑問形なのよ!!もう!!』
『ご、ごめん』
『ははは。いいよ。本当に嬉しかったし、頑張ってみよって思えたよ?
カリスもさ、【勇者】っていう選ばれた人しかなれないすごい職業になるんだし、色々とプレッシャーや不安があると思うけど、私はいつもカリスを応援してる!!だからカリスも頑張って!!』
『う、うん!!』
『じゃあ、またね。』
『うん、また。』
そう言って、ミアは去っていった。
僕はその後、500回以上も素振りをして、ヘトヘトになってから家に入ったのだった。
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