第11話 資質


タルボの家に着くと、

タルボは木刀を振って稽古の真っ最中だった。


『なにしてるの?』


『おっ、ようカリス。なにって稽古に決まってるだろ?』


『素振りしてるだけで強くなれるの?』


『どーかなぁ?【剣士】と神託を受けてさ、特技?もステータスを確認してわかったんだよ。それでさっそくその特技を試したんだけど、、、身体の筋力がなさすぎて、上手く使えなかったんだ。だからまずは剣を振る筋力だけでも鍛えたくて毎日素振りしてる』


『なるほど』


『で、カリスは何の神託を受けたんだ?』


『えっと、、、【勇者】と出たよ』


『はぁ?マジで言ってんのかよ!?』


『冗談なら良かったんだけどね。残念ながら本当に出ちゃったんだ』


『そうか。まぁ、カリスが【勇者】ってのはわからなくもねーな。』


『え!?僕なんかが【勇者】なんてありえなくない?絶対にそんな資質ないよ』


『資質ってのはなんだ?』


『運動神経が良いとか、頭が良いとか、性格が良いとか?』


『【勇者】ってのはそれらが普通以上じゃなきゃダメなのか?』


『いや、わからないけどさ、【勇者】ならきっとすごい運動神経で、頭だって良いと思わない?』


『どーだかな。逆に聞くが、【剣士】の資質ってなんだ?』


『【剣士】は運動神経?』


『【剣士】ってのは、【戦士】という職業の中のひとつで、【槍使い】や【弓使い】、【斧使い】だっている。武器を使うのが得意な職業でもさらに剣に向いてる奴が【剣士】なんだ。運動神経が資質っていうなら、なんでオレは【斧使い】じゃないんだ?どっちも運動神経はいるだろう?』


『うっ、、、そんなこと言われてもわからないよ』


『オレだってわからない。けど、カリスには【勇者】の資質があるとオレは思うぞ?それは運動神経や頭の良さなんかじゃない。気持ちの部分でな。』


『気持ち?』


『そう。気持ちだ。カリス、お前はいつだって正しい判断をする。誰かを傷つけることなんて絶対にしないし、底抜けに優しいからな』


『それを言うならタルボだってそうじゃないか』


『もちろんオレだって誰かを傷つけたりしないし、オレ自身を悪い人間とまでは思わないが、カリスみたいに誰かの為には自分が我慢すればいいとか、自己犠牲の精神は持ち合わせてないんだよ。目の前で誰かが困ってたら、自分がどんな状況であっても駆けつけるだろ?』


『それはそうだけど、、、目の前で誰かが困ってたら誰だってほっとけないでしょ?』


『それは違うな。大多数の人は目の前で困っている人が全く知らない人なら、よっぽどでない限り何かしようと行動しない。カリスは誰であれ同じように動く。絶対に。』


『たしかにそう言われたらそうだけど、、、』


『【勇者】ってのは、【勇者】らしい振る舞いが求められるんじゃないか?その点カリスの優しさはブレないからな。だからオレは納得だよ。』


『振る舞いかぁ、、、難しいこと言うなぁタルボは』


『まぁ、そんな難しく考えずにカリスらしくいればいいんだよ。』


『わかったよ。。。

それより僕もタルボのように稽古をして、いつか討伐に出る準備をしたいんだ。』


『おう、いいんじゃねぇの?具体的にどうするかは決まっているのか?』


『いや、何をしたら良いのか、さっぱりわからなくて、、、』


『そんなことならさ、まずはカンブリア帝国の武器屋のおっさんに聞いたらどうだ?あそこは始まりの国。多数の【勇者】がどんな武器を購入したのか、どんな訓練をしているのか聞けるんじゃないか?』


『たしかにそうだね!!じゃあ僕今からカンブリア帝国の武器屋に行ってくるよ!!』


『おう、気をつけてな』


『うん!!じゃあまたねタルボ!!』


タルボに挨拶すると、

そのまま馬車乗り場に行き、カンブリア帝国行きの馬車に乗り込んだ。


タルボと話せて、また少し前に進んでいる気がする。

前に進んでいるが、自分の夢とは逆方向だなとも思いながら、、、

やっぱり悲しいけど、

それでも、少し前の自分からは考えられないくらい、前向きな気持ちだった。

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