第10話 一歩


自分の部屋で僕は、結局朝まで眠れなかった。

ただ、悩んでいても仕方ないと考えられる程には落ち着いたと思う。

実際いつ神殿に呼ばれ、旅立つことになるかわからない。

それまでの期間を今までと同じように過ごすのか、それとも腹を決めて準備をして過ごすのかでは、その後が大きく変わると思う。

それは自分の生死にも関わり、自分の為に今動く必要があると思った。


まずは何から始めようか?

剣術、たしかにやっておいて損はないけど、僕が剣を使う?想像できない。

弓とか、ブーメランとか、遠距離の方が性格的に向いてるように思う。

あとは魔法、ステータスはМPがあるから、魔法は使えるようになるのかな?今のところ全く使えない。

もし魔法が使えるなら、覚えてみたいなとは思う。


まずはどうするべきか色んな人に相談してみようかな。


何よりもまずは、、、

タルボと話しに行こう。


『カリス、起きてるの?ご飯ができてるわよ』


『今行くよ』


朝食を終えたら準備して、タルボの家に行く。

今日の予定が決まり、ほんの少しだけど今後の方向性が見えたような気がした。


朝食を食べていると、、、


『カリス、これ』


そう言って母さんはテーブルに袋を置いた。

それは手のひらくらいの小さな袋だけど、ガチャッと重そうな音がした。音からなんとなく中身は想像できた。


『え!?これ、、、』


『50G入っているわ。少ないかもしれないけど、あなたが自分の進む道が決まったとき、それがどんな道であれ渡そうと思っていたお金なの』


『母さん、、、ありがとう。本当にありがとう。』


正直、うちは裕福とはいえない。

むしろこの世界で一般的な家庭より厳しい家計だ。

その理由が父にある。

僕の父親は【近衛】という神託を受け、

国家兵士として働く立場の職業だ。

給金としては十分すぎるほど貰えていたのだろう。

ただ、父は3年前に突然行方不明となった。

勤務中、王家の護衛として遠征に出たのだが、

そこで行方不明となったらしい。

詳細を教えて欲しいと懇願したが、国家機密も含まれる情報の為細かくは答えられないの一点張りだった。

当然僕と母さんは納得がいかなかったが、

何も詳細を教えてもらえず、行方不明以外は何もわからぬまま今日まで過ごしてきた。


父がいなくなってから今日まで、

母さんは【裁縫】の神託を受けており、幸いにも仕事はすぐにみつかった。

そして、今日まで必死に働いてくれた。


そんな母さんが用意してくれた50G。

この世界で50Gというと、1食がだいたい1G、2週間程は余裕を持って生活費として使える額だ。


我が家では、大金と言ってもいい。

母さんの気持ちは無碍にできないし、このお金を無駄にもできない。


【勇者】なんてなりたくもないし、なれるとも思えない僕だけど、

それでも、、、母さんの思いには報いたい。応えたい。


食事を終えると僕は、50Gの入った袋を握り締め家を出た。

そして、タルボの家へと向かった。



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