第9話 母さんのスープ


家の近くまで来ると、家の前には誰が立っているのがわかった。

暗くて顔は見えないが、きっと母さんだろう。

遅くなって心配をかけたかもしれない。

悪いことをしてしまった。


『おかえり』


『ただいま』


『お腹すいてるでしょ?すぐにスープを温めてくるわね』


そういえば朝食を食べてから何も食べていないな。

それなのに全くお腹はすかなかったし、今もまだ食欲はない。


家の扉を開け中に入ると、スープの良い匂いがしてくる。


いつもの美味しそうな匂いに、スープなら口に入れてもいいかという気持ちになってくる。

せっかく作ってくれている母さんに上から口調で申し訳ないが、こんなメンタルの時にさえ食欲を掻き立てる母さんのすごさを思い知らされた。


テーブルにつくと、母さんは料理を温めなおしてくれている。


神託の結果をどう伝えよう?

【勇者】だなんて言ったら驚くだろうなぁ。


『そろそろいいわね』


そう言って皿に盛りつけられたスープ、そしてパンがテーブルに並べられていく。


『さぁ、温かいうちに食べてね』


『いただきます』


スープを口に入れると、

その温かさと、いつもの味に安堵する。


『おいしい』


『どうしたの急に?毎日飲んでるスープと同じよ?』


いつもはあまり伝えられていなかったかもしれないが、もちろんいつも美味しいと思っていた。

ただ今日は特にそう感じたし、心から漏れ出た本心だ。


『母さん、僕【勇者】と神託を受けたよ』


気づいたら打ち明けていた。

僕はスープが入った皿を見つめたまま。

母さんの表情はわからない。

母さんは、


『そう。』


とだけ言った。


そして、そこからは夢中でスープとパンを胃に流し込んだ。

早くこの場から去りたかった。


『ごちそうさま』


僕はそう言葉を残し、自分の部屋へと足早に向かった。

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