43. 異常種の襲撃
デストの指導のおかげか、それ以降ブロンの行動も少しはまともになった。危なっかしいことに変わりはないが、無闇に突っ込むことがなくなっただけでもかなり安定する。
ブロンは突進しなくなったが、デストは道中の敵をアシュレイたち水晶級ディガーに任せることにしたらしい。時折、助言らしきこともしてくる。主に助言されるのはブロンだが、ときにはアシュレイやネイも指摘を受けた。それはまるで真っ当なディガーチームの光景だ。アシュレイの抱いていた“剛腕爆砕”の印象とはまるで違う。
これまでと違う点と言えば、ブロンが参加したことだが……
「普段はこんな感じなの?」
こそりと聞いてみたが、ネイも不思議そうな顔で首を横に振る。ブロンがいるからというわけでもないらしい。
それはそうだろうなとはアシュレイも思う。でなければ、ブロンの振る舞いはおかしかった。今の彼を見れば分かるが、決して学習能力が低いわけではない。ちゃんとした指導があれば、ディガーとしての振る舞いは身につけているはずだ。
デストは不機嫌そうな顔をしているが、何故かアシュレイには生き生きして見えた。それでいて苦しそうでもある。それがどういう心境なのかアシュレイにはわからなかった。
だが、好ましい変化のように思える。これまで全く口を出さなかったわりに、デストの指導は的確だ。きっと駆け出しディガーの成長に繋がる。
ただ今の状況を好ましく思わない者もいた。
「おい、デスト! もういいだろ! ガキの躾に時間を取りすぎだ!」
「ゲスタ!」
「あ? なんだよ?」
「いや……何でもねぇよ。ここからは俺たちで片付けるぞ」
「おう」
ゲスタとナジル。この二人は駆け出しディガーへの指導をくだらないと思っているようだ。リーダーのデストにも平気で食ってかかる。
デストのほうにも二人には遠慮があるようだ。カーティアはデスト寄り。しかし、彼女も表立ってデストを庇いはしない。
デストをリーダーとしてまとまったチームと思っていたが、実情はずいぶん違うらしい。むしろ、ゲスタの力が強いように思える。チームの方針自体はデストが決めているようだが。
いろいろと考えを巡らせているうちに、アシュレイたちは目的地にたどり着いた。やはりベテラン組が前に出ると早い。
「たしか、この辺りに……おっと、ここだな」
予め当たりはつけていたらしい。普段の巡回ルートから外れた場所だが、デストはすぐに下層へと繋がる落とし穴を見つけ出した。
そこからはいつもの手順通りだ。デストが罠を暴き、ベテラン組で下層を制圧。アシュレイたち駆け出しが採掘作業に従事する。
「お前たち」
「はい?」
下層に降りる間際、呼びかけられて振り返ると、デストが厳しい顔でアシュレイたちを見ていた。やはり、何処か苦しそうだ。
「どうしました?」
「いや……なんでもねぇ」
代表してアシュレイが尋ねたが、結局返ってきたのはそんな言葉だ。要領を得ずに首をかしげるものの、後方からゲスタが「さっさと働け」と怒鳴るので、そうしてもいられず、三人は慌てて縄梯子を降りた。
「うわぁ……これはすごいね」
「……!」
「宝の山だな!」
下層はブロンの言う通りの光景である。これまでの小部屋と比べても一目で分かるほど資源が多い。しばらくすれば回復すると言っても、定期的に巡回している場所と長らく手を付けられていない場所ではまた違うようだ。
「おっと、ぼーっとしてられないな! 戦闘では遅れをとったが、穴掘りなら負けないぜ!」
最初に動いたのはブロンだ。もちろん、アシュレイたちもぼんやりとしてあるわけにはいかない。ツルハシを両手で掴んで、しばらくは採掘作業に勤しんだ。
「なぁ」
ブロンが声をかけてきたのは二度目の小休止のときだった。相変わらず視線が強い。が、打ち合わせ途中に飛び込んで来たときほどの敵対心は感じられなかった。
「何ですか?」
「お前、“無敵モグラ団”のヤツらに頼まれて、デストさんを探りに来たのか?」
探るような目つきだ。アシュレイはブロンの態度に納得がいった。彼はどこかでアシュレイとラッドたちとの関係を知ったのだろう。おそらくは先日の食事会だ。アシュレイを“無敵モグラ団”のスパイだと思って警戒しているらしい。
どうしたものかと考えて、アシュレイは素直に話すことにした。
「友達ではあるけど、そんなこと頼まれてないよ。むしろ、止められた」
「そう……なのか?」
「うん。でも、ネイの様子も見たかったから」
「ああ……そういうことか。うちの評判、悪いからな……」
ブロンは得心がいったという様子で頷いたあと、チラリと上位層に目を向けた。そこには苦々しい表情か浮かんでいる。
「……たしかに“剛腕爆砕”は酷いチームさ。でもな、デストさんは違う。デストさんがいなけりゃ俺たちはきっともうくたばってた。そこは誤解しないで欲しいんだ」
「そう……なんだ」
「デストさんが俺たちを利用しようとしてることはわかってる。でも、それでも俺たちはデストさんに救われたんだよ……」
「それは……」
どういう意味か。尋ねようとしたところで、何処からともなく地に響くような重々しい音が聞こえてきた。
「これは……?」
「……わかんね」
アシュレイが今までに経験していない現象だ。ブロンに目をやると彼にも戸惑いが見える。
「……なんてこった。おい、お前ら、上がってこい! 敵が来るぞ!」
デストの緊迫した声が魔窟に響く。その声には明らかな焦りがあった。アシュレイたちはすぐに縄梯子のもとに集まる。だが、上る前に待ったがかかった。
「待て! お前らはそのまま、役目を果たせ!」
止めたのはゲスタだ。そのまま、デストに詰め寄る。
「おい、デスト。お前、どうした? 今日はおかしいぞ」
だが、デストは怯まなかった。いや、怯んでいる余裕などなかった。彼は知っていたのだ。今、迫りくる脅威を!
「うるせぇ! ガタガタ抜かすな! 今はそれどころじゃねぇんだよ! やべぇヤツがくる! コイツはたぶん異常種だ!」
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