36. デスト班との合同探索

 夜を告げるラッパが鳴る。


 これを目安に集合すると聞いていたアシュレイは、ネイリムスを伴って拠点を出た。入り口前で待機しているとちらほらと人が出てくる。しばらくして、見知らぬ女と一緒に出てきたデストが、周りを見回して頷く。


「おう、集まってるな。それじゃ出るぞ」

「え、これで全員ですか?」


 アシュレイは思わず聞き返した。集まったのは全部で六人。そのうち、四人はベテランの風格がある。駆け出しらしいのはアシュレイとネイリムスしかいない。


 問われたデストは何でもないといった風な顔で頷いた。


「あぁ、そうだ。他のヤツらは休養期間が重なっててな。今回はこれで全員だ」

「そうですか……」


 ネイリムスから事前に聞いた話によると、デスト班は総員十六名。そのうち十二名が水晶級の駆け出しだ。つまり、ネイリムスを除いた残り十一名が休養中ということになる。休養とは言うが、おそらく負傷で探索に出られないということだろう。


 ブロンの様子から、意外と駆けだしにとって悪くない環境なのかと思ったが、勘違いだったらしい。


「なんだ、怖じ気づいたのか?」

「くく……まあ、まだガキだからな。それも仕方ねぇさ。うちのチビでも平気なのになぁ」


 アシュレイは呆れていたのだが、それを怯えと勘違いしたらしい。ベテランの男二人がニタニタと笑いながらからかうような言葉を口にした。ネイリムスと比べることで、奮起させようという意図だろうか。


「ま、続けるかどうかは今回の結果で判断しな。行くぞ」


 デストは肩を竦めると、さっさと歩き出す。他のメンバーもそれに続いた。残ったネイリムスが左手をアシュレイの肩におくと、右手で自分の胸を叩く。任せろということらしい。その様子がおかしくて、アシュレイは思わず笑う。


「……?」

「いや、何でもないよ。よろしくね、ネイ先輩」

「……!」


 張り切るネイリムスと一緒にデストたちを追いかけた。といっても、行き先はわかっているので、慌てる必要もないが。


 デスト班は“罠の利用した下層へのショートカット”で稼ぐのが基本スタイルだ。彼らの稼ぎ場は複数あって、それを順繰りに巡っていくそうだ。今回はアシュレイも潜った“陥穽の洞穴”がターゲットだ。


 魔窟に辿りつく前に、簡単に紹介を受けた。ベテランの女はカーティア、男二人はゲスタとナジルというらしい。


 採掘ポイントまでは、ベテラン四人が先導する。全員黄玉級なので、上層の魔物相手に遅れをとることはない。慣れてもいるのだろう。鎧袖一触という様子で、さっくり進んだ。


「今回はここだな」


 目的の部屋に辿り着くと、デストは全員を下がらせた。何をするかと思えば、なんのことはない。落とし穴にわざと引っかかるだけだ。


 以前、アシュレイも同じことをした。しかし、身のこなしがあまりにも違う。ギリギリどうにかといったアシュレイに対し、デストは鮮やかだ。床が崩れたと思ったときには、罠の範囲から後退している。やはり、経験の差、影装との適合の差は大きいらしい。


「……いるな。今回は骨が三だ」


 落とし穴から下層の様子を素早く観察したデストが告げる。骨というのはスカルビースト。出現する魔物の代表例としてアシュレイも説明を受けている。骨格標本のような見た目の魔物だ。もし肉がついていればアシュレイよりもずっと重量があるだろう大型サイズ。だが、ほとんど骨のようなもので構成されているので、意外にも軽い。突進よりも牙や爪での攻撃に気をつけるべき相手だ。


 ちなみに“骨のような”と称しているのは、あれが本当に骨なのか誰にもわからないからである。なにせ、最初からあの姿で出現するのだ。元の姿があるのかもわからない。魔物研究者も骨なのか、それともそういう生き物なのかで頭を悩ませているという。


 とはいえ、ディガーにとってはどうでもいい話だ。だいたいはデストのように“骨”と称する。情報共有さえできれば、本当の骨か、それっぽい別物かはどうでもいい。


「はいはい。任せなって」


 頷いたのはカーティアだ。彼女の影装は魔戦型。スカルビーストは打撃と魔術に弱いので、ここは彼女の出番というわけだ。


「〈噴き上がれ火柱 燃えさかり敵を焼き尽くせ〉」


 少しの溜めのあと、放たれた力強い言葉とともに、落とし穴から赤い光が溢れて部屋を照らす。離れたアシュレイのところにまで熱波が届くほどの激しい炎は、スカルビーストを瞬く間に焼き尽くした。弱点を突いたとはいえ、凄まじい威力だ。


「と、こんなものよ」


 アシュレイを意識してか、カーティアは得意げに振り返る。が、その顔には薄らと疲労の色が見えた。強力な分、精神の消耗も激しいらしい。


「ああ、ご苦労だったな。しばらく休んでいろ。さて、お前ら、出番だぞ」


 デストはカーティアを労ったあと、アシュレイたちに声をかけた。すぐにネイリムスが反応して、ちょこちょこと前に出る。穴に投げ込んだのは縄梯子だ。端には爪があり、それを上層の床に打ち付けて固定する。


 魔窟の床や壁は頑丈で壊れにくいが、傷つかないというわけではない。固定具を取り付けるのは可能だ。時間経過とともに修復されるので長時間固定できるわけではないが、人が見ているところでは修復に時間がかかるので、採掘の間ならば問題ない。


 手慣れた様子で準備を終えたネイリムスが縄梯子を伝って下に降りていく。アシュレイもその後に続いた。


「わぁ、これは凄いね」


 そこは上層よりもこぢんまりとした小部屋だ。ぱっと見るだけでも影源石や封影珠が確認できる。さすがは下層と言うべきか。“剛腕爆砕”が定期的に採掘しているはずだというのに、豊富な資源がそこにはあった。


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新年ですね!

あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

<(*_ _)>

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