31. ウーノの新能力
「知り合いだったの?」
メリアが尋ねた。ネイリムスのことだろうと当たりをつけたアシュレイは頷く。
「休養期間中に別の魔窟で会ったんだ。あ、その前にも街で見たことがあって」
「そうだったの……ちょっと心配ね」
「心配?」
「まぁ、あくまで噂に過ぎないんだけど……」
躊躇いがちにメリアが語り始めた。何でも、“剛腕爆砕”はチームの稼ぎのために新人を使い潰しているらしい。本人の実力的には厳しい魔窟に連れ出して荷運び兼囮役として使ったり、罠の確認のために先行させたりと、もし事実ならばかなりの悪辣さだ。
「それって、行政府から警告が来たりしないの?」
「あいつら、チームの規模にしてはそれなりに稼いでるから、査定部からの評判は悪くないのよ」
「ああ……」
ザインゲヘナ行政府がディガーに求めることは、魔窟の資源を少しでも多く持ち帰ること。そのためには、末端のディガーに多少犠牲が出たとしても、気にもしないのだろう。せいぜいが、補充が大変だと顔を顰めるくらいだ。
「……怪我はなかった」
「そう言われたら、そうね。やっぱり、噂は噂なのかしら」
ウーノに呟きに、メリアが少しだけ顔色を明るくする。
確かに、ネイリムスに怪我をした様子はなかった。ただ、アシュレイは知っている。彼女は、大量の魔物から攻撃を受けても少しの傷も追っていなかった。そのことを考慮すると、酷い扱いを受けていないとも言い切れない。
とはいえ、ディガーに危険はつきもの。本人が承知の上で引き受けているならば、不当な扱いだとも言えない。誰しもが危険に身を晒しながら、魔窟で活動しているのだから。
今度会ったときに詳しく事情を聞いてみよう、とアシュレイは思った。
「で、どうする? ここに潜るか、それとも別の場所にするか」
「あぁ。アイツらが潜ってたわけだもんなぁ」
ネイリムスの話が一段落したあと、ラッドが尋ねた。マルクが微妙な顔で頷く。
直前に“剛腕爆砕”が探索したとなると、資源は取り尽くされているはず。魔窟の資源はいつの間にか回復するものではあるが、魔物と違って再出現には時間がかかるのだ。このまま探索しても、前回のような稼ぎは得られない可能性が高い。
「せっかく準備もしたんだし、ここでもいいんじゃないか? 魔物は出るだろ」
「準備と言ってもロープくらいだけどね。まあ、私も構わないけど……」
ルドとメリアは探索継続でいいのではないかという意見。ウーノも頷くと、珍しく強い口調で断言する。
「ここにすべき。今出たら、アイツらと出くわす可能性がある」
「「「確かに」」」
ウーノとアシュレイ以外の言葉がぴったり重なった。よほど“剛腕爆砕”と遭遇したくないらしい。
「じゃあ、ここを探索するってことで」
アシュレイとしても異論はなかった。ラッドたちには伝えていなかったが、実は“陥穽の洞窟”には興味があったのだ。アシュレイの企みにも関係してくるので、探索継続は願ったり叶ったりだ。
気を取り直して、魔窟を進む。魔物まで出現しないようならば、さすがに引き返すべきだと考えていたが、心配は杞憂だった。最初こそ遭遇率が低かったが、すぐにいつもと同じくらいの数と出くわすようになった。いったい、魔窟はどうなっているのか。何を元に魔物を生み出しているのか。謎である。
「魔物は問題なさそうだな」
「良い技覚えたよな、ウーノ」
「そうだね。頼りになるよ」
「任せろ」
「お、なんだ? ウーノ、いつもより張り切ってるな」
「……そんなことはない」
「もう少し静かにしなさい。いくら余裕だからって騒ぎすぎよ」
採掘できそうなものは根こそぎ持っていかれているようだったが、探索は順調だった。その一番の理由はウーノの〈気炎斬り〉のおかげだ。探索を始めてすぐのタイミングで目覚めた能力で、気迫の一撃で敵を切り裂くという能動的な攻撃の技である。メリットは精神力をほとんど使わず強力な斬撃を放てるという点。その代わり、発動前に、少しの間、気を溜める必要がある。
この〈気炎斬り〉がハードジェリーに効果覿面だった。ハードジェリーは半透明で軟体性、いわゆるスライム型の魔物である。スライム型はピンからキリまで様々だが、ハードジェリーは物理的な攻撃では倒しにくいというのが特徴だ。打撃に極めて強く、軟体ボディでほぼ無効化してしまう。斬ったり貫いたりの攻撃は無効化されないが、有効とも言いづらく、とにかく倒しづらい。
強敵というわけではないのだ。動きは遅く、特殊な攻撃をしてくるわけでもない。ただただ時間がかかる。
採取物に期待が持てるときなら、無視して探索を進めるという手もあった。しかし、今はそうではない。魔物を倒して確実に心臓石を確保したいところだ。
そんな状況で、ウーノが覚えた新技を使ってみたらこれがはまった。〈気炎斬り〉は単なる斬撃だが、発動時には剣が熱を持つらしい。そのおかげか、ハードジェリーのゼラチン状の体をやすやすと切り裂くことができる。動きが鈍いハードジェリー相手ならば、発動前の溜めもほとんどノーリスクだ。本来なら手間取る相手を一撃で倒せるので、非常に効率よく戦えた。
影装は魔物の魂を吸い少しずつ馴染んでいく。探索を続ける限り、ディガーは日々成長しているはずだ。だが、それははっきりと自覚できるほど劇的なものではない。だからこそ、新たな能力として形になると喜びもひとしおである。普段よりも口数が多いウーノを冷やかしながらも、アシュレイたちは彼の成長を祝福した。
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