24. 何故か二匹

 ギルフィスのおこぼれを貰う形になり、休養期間一日目に得た稼ぎは今までにないほどに大量だった。やはり、あの怪鳥の心臓石に設定された貢献度が高かったらしい。それ一つで瑠璃級のノルマが達成できる貢献度が得られると聞いてアシュレイは仰天した。


「同じ稼ぎが続けばチームノルマも問題なくクリアできるんだけどな……」


 とはいえ、ギルフィスの手を借りずに一人で狩れると考えるほどアシュレイは無謀ではなかった。そもそも、一人では“大蛇の森”に入ることも叶わない。その上、あれは異常種と呼ばれる特殊な魔物だ。狙って遭遇することすら難しい。


「やっぱり、計画を実行するしかないかなぁ」


 今回のような幸運な出来事が毎日のように続くことはあり得ない。そう考えると、チームノルマがどれほど重いものかわかる。それも当然で本来ならば中級ディガーが複数人で分担するようなものなのだ。それを新人一人で背負おうとしているのがどうかしている。


 正攻法で稼ぐには無理があった。となれば、掟破りの手段を用いるしかないのだが。


「ラッドたちを巻きこむわけにはいかないしね。今月は貯蓄で乗り切るしかないかぁ」


 非合法な手段で稼いだ場合、ことが発覚すれば懲罰チーム行きは間違いない。アシュレイは“地底の綺羅星”を守るために危険を冒す覚悟があるが、“無敵モグラ団”には関係のない話だ。善良な彼らを巻きこむわけにはいかない。


 幸いなことに、チームの拠点にはそれなりの量の心臓石がキープしてあった。それを切り崩せば今月のチームノルマに必要な貢献度は得られる。とはいえ、メンバーが失踪してからこれまでもそうしてきたので残りは心許ない。そう何度も使える手ではなかった。やはり、どこかで稼がなければならない。


 それはさておき、今日の予定である。瑠璃級以上の魔窟に入るなら、一緒に組んでくれるディガーを探さなければならない。


「ギルフィスさんみたいな変わり者がいればいいんだけど……」


 望み薄かなと思いつつ、とりあえずディガーが集まる宿場や酒場を覗いてみることにする。だが、予想通り結果は芳しくない。端金で荷物持ちに雇ってもいいと言う者は居ても、対等なディガーとみてくれる者は見つからなかった。


「仕方ないか。一人で潜れるところに潜ろう」


 呟いて、見習い時代に潜ったことのある魔窟を幾つか思い浮かべる。稼ぎという意味では似たり寄ったりだ。考慮するとしたら探索のしやすさだろうか。


 少し考えてアシュレイが選んだのは“白壁の迷宮”だった。迷宮と名のつく通り迷宮型の魔窟だ。洞窟型が天然の迷路だとすれば、こちらは人工的。もちろん、本当に人の手が入っているわけではないのだろうが。


「おお、そう言えば自分のを鳴らすの、初めてだ!」


 魔窟の入り口前で、呼び笛を鳴らす。しばらく待つと、パタパタと音を立てながらウォッチバードが現れた。何故か、二匹も。


「えぇ、なんで?」


 最初に来たのは、ごく一般的なウォッチバード。鳥を模していることはわかるが、作り物であることが明白な姿だ。動作も画一的というか、生物らしさが感じられない。


 続いて現れたのは、本物と見紛うような造形だ。“無敵モグラ団”のウォッチバードを見たことがなければ、野生の鳥が迷い込んできたと勘違いしたかもしれない。ちょこんと首を傾げる姿も、本物感がある。


「キミってもしかして……」

「ぴぃ?」

「鳴いた。やっぱり間違いなさそうだね」


 ウォッチバードに鳴き声は必要ない。無駄な力の入れ具合は“無敵モグラ団”のウォッチバードに通じるものがある。羽根の色が違うので同一個体ではないようだが、同じ作り手によって生み出されたのは間違いないだろう。


「まあ、それはいいか。それよりもこの場合、どうすれば……」


 ただ引き連れていけばいいだけなら一匹も二匹も変わらない。だが、それぞれが別々に成果物の申告をするなら困ったことになる。ただでさえノルマに苦しんでいるというのに、実態のない成果物の分まで余計に貢献点を支払ってはいられない。


 アシュレイが困惑していると、ピピピと鳴くウォッチバードが鳴かない方をくちばしで突いた。


「ぴぴぴ! ぴ!」

「えっ、ちょっ!?」

「ぴぴ!」

「えぇ……?」


 慌てて止めようとするが、その前に突かれた人造鳥が飛び去っていく。残った個体は“これでよし”とでも言いたげに体を揺らす。


「……追い返して良かったのかな?」

「ぴぃぴぃ」

「本当に? 後で怒られたりしない」

「ぴぃ~?」

「いや、そこは頷いてよ」


 肝心なところで首を傾げて、あてにならない。とはいえ、もう追い返してしまったのでどうにもならないのだが。アシュレイ自身がやったわけではないので責められることはないはず……と思うしかない。


 アシュレイは気を取り直して、魔窟の入り口を指さす。


「まあ、いいや。今からここに入るよ」

「ぴぃぴぃ!」


 機嫌良さげにさえずるウォッチバードが頭を上下させるのを確認して、アシュレイは“白壁の迷宮”に足を踏み入れた。

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