16. 稼ぎの確認
ソファでひと休みしたアシュレイは、テーブルの上に今日の稼ぎを広げる。爆発茸のせいでピンチに陥ったものの、一日の稼ぎとしては過去最高だった。
「まずは心臓石だね」
チーム全体で集めた数は八十八個だ。
チーム内の取り分は魔物を倒した数にかかわらず、最初に決めた比率で分配する。同じランクのディガーで構成されたチームならば、単純に頭割りにするのが基本だ。でなければ、戦闘よりも探索で貢献する斥候役の取り分が少なくなってしまい不公平になる。
また、活躍したから取り分を増やすとか、ヘマをしたから減らすという細かい調整もしない。毎回そんなことをしていては揉めるだけだ。同じチームでそんな非効率なことをやるよりも平等に分けた方が良い。
合同チームは全員で六人。アシュレイだけ水晶級で残りは瑠璃級だが、分け前は均等にという約束が結ばれている。そのルールに従えば一人当たりの取り分は十四と半分と少しだ。
しかし、今回は六で割りきれない端数をアシュレイがもらって、十八個が取り分となった。アシュレイはルールに従った分配で構わなかったが、他のメンバーに押し切られた形だ。
今回、チーム員に死者が出なかったのはアシュレイの活躍が大きい。その点をメンバーが感謝して多めに分配してくれたというわけである。活躍相応とは言えないが、事前の取り決めを大きく逸脱するのもあまりよろしくない。ウォッチバードはその辺りの融通が利かないのだ。そんな事情があって、端数分多く貰うと言うことで落ちついた。
「これがスモークラットの心臓石なんだよね。一番大きいなんて意外だ」
魔物にも個体差はあるが、同じ魔窟の同じ魔物に限定すると、ほとんど誤差みたいなものだ。心臓石も同様で、大きさの差はほとんどない。行政府による貢献点評価も一律で、どこどこの魔窟のなになにという魔物ならば何点と規定されている。
一方で、同じ魔窟でも、魔物の種類によって心臓石の大きさは異なる。基本的には強い魔物ほど、心臓石が大きい。
では、“爆発茸の洞窟”で一番強い魔物はどれか。一概には言えないが、候補に挙がるのはリザルスかケイブスパイダーだろう。接近戦で殺傷能力が高いのはリザルスだが、ケイブスパイダーが中距離から飛ばしてくる蜘蛛糸も厄介だ。
逆に一番弱い魔物は答えやすい。ほぼ間違いなくスモークラットだ。攻撃手段は体当たりくらいで、単独で遭遇した場合、ほとんど脅威はない。
しかし、心臓石の大きさで言うと、スモークラットが一番なのだ。はっきりとわかるほどではないが、よく見れば確かにと頷けるほどの差はある。
この逆転現象は特に不思議なことではない。特殊能力を持つ魔物の心臓石は同程度の強さの魔物に比べると大きいということがすでに知られている。スモークラットの場合は煙を吐く能力がそれだ。実際、複数の魔物が混在しているときに、視界を奪われるのは相当厄介だった。
鼠だけ狩れれば楽なのになぁと妄想を膨らませて、すぐに頭を振る。
「大きいと言っても、あんまり差はないしね」
行政府の貢献点評価では、リザルスの心臓石と比べて一割増しくらいだ。スモークラットを効率的に狩れればチームノルマを乗り越えられるというほどでもない。意味のない妄想にしても、スケールが小さすぎる。
「で、次は採取物っと」
採取物のほとんどは、アシュレイたちが死闘を繰り広げた広間で採掘したものがほとんだ。気絶していたせいで余力が残っていたラッドとウーノを中心に頑張ってもらったが、彼らも途中で根を上げたほど豊富に採れた。負傷者が出たので早めに探索を切り上げたにもかかわらず、過去最高の稼ぎとなったのは、これらの採取物のおかげだ。
「デッカい影源石だなぁ」
主要な採取物は影源石と呼ばれる薄紫色の鉱物。水晶のように透き通っていて、魔窟内の壁から突き出るように生えていることがある。蒼光石とは違い、自ら光を発しているわけではないので、見逃さないように注意しなければならない。
影源石の貢献点は採掘された魔窟ごとに異なる。基本的には魔窟ランクが高いほど評価も高い。とはいえ、低ランクの魔窟で採掘されるものでも貢献点は貰えるので、ディガーにとっては積極的な採掘対象だ。
アシュレイは一番大きな塊をもらった。ここもちょっぴり優遇である。正確な評価は重さを量らなければわからないが、この影源石一つで心臓石二〇〇個くらいの価値はありそうだ。影源石は発見できれば大きな稼ぎになる。
残りは細々としたものだ。薬の材料になる鉱物や特殊な金属。基本的にはアビスにしか存在せず、ラシュトー伯爵家にとって有益と判断されたものが評価される。
逆に言えば、そうでないものは持ち帰っても貢献点の足しにはならない。が、課税の対象にもならないので持ち帰る意味はある。
特に、食料。今回はリザルスの肉をそこそこ持ち帰った。ザインゲヘナにも食料品店はあるが、自前で確保すれば無料である。チームノルマをこなすためには、貢献点となるものをほとんど全て納めるつもりのアシュレイに買い物をしている余裕はないのだ。
「残りは封影珠が三つか。高い評価がつくといいんだけどね」
封影珠は影源石と同じく、魔窟の壁から採掘できる丸くて赤い石だ。中には影装が封じられているので、うっかり割ってしまうと大変なことになる。封影珠の価値がなくなるのはもちろん、近くにいたものに影装が宿ってしまうのだ。
すでに影装を宿している者が新たな影装を獲得したとき、新旧どちらが具現化されることになるのか。実のところ、よくわかっていない。もともと宿していた影装が充分に馴染んでいる場合は、そちらが優先されることがほとんどだ。しかし、ベテランディガーの影装が上書きされてしまった事例もある。相性の問題とも言われるが、それも定かではない。
よほど乱暴に扱わない限り、簡単に割れてしまうものではないのだが、もしもはある。ベテランほど封影珠の採掘には慎重で、場合によっては見つけても手をつけないこともあるらしい。
その点、新人は気軽に採掘できる。影装の上書きも大きなリスクにはならないし、貴重な封影珠を見つければ大きな稼ぎにもなる。相性が良ければ、自分たちで使っても良い。徴収される貢献点を別の形で補填しなければならないので、実際にはなかなか難しいが、上手くいけば戦力アップに繋がる。
封影石には封じられた影装がシルエットとしてぼんやり浮かび上がってはいるが、それだけで中身を判別するのは難しい。鑑定には特殊な能力や器具が必要なので、獲得した封影石は一旦行政府預かりとなるのが普通だ。アシュレイたちが採掘した三つの封影石も鑑定中で、最終的な稼ぎが判明するのはもう少し先になる。大きなノルマを抱えるアシュレイとしては、高い評価のつく封影石であることを願うばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます