13. 厳しい戦い
最初に現れたのはリザルス四匹。逆側の通路から顔を出すと、真っ直ぐに突撃してくる。アシュレイたちはその場にとどまって迎撃だ。ラッドとウーノが気を失っているので、二人を守らなければならない。
「ふっ!」
メリアが矢を射かけ、先頭の一匹に命中。続く一匹にアシュレイが投げナイフで攻撃した。致命傷ではないが、ダメージを受けた二匹の動きが
「マルク、いける?」
「ああ。やる!」
さっきまでフラついていたが、今は返事もしっかりしている。その言葉を信じ、アシュレイとマルクで一匹ずつ敵を受け持つ。
すでに何度も戦っているので、一対一なら怖くはない。アシュレイはギリギリまで引きつけて爪攻撃を誘発してから、それをするりと躱す。間髪を入れずに、側面からナイフを首に差し込んだ。ギアアと甲高い絶叫を残して、リザルスが倒れる。少し強引だったが、早々に片付いた。
マルクはというと、少し手間取っているようだ。まだ、本調子ではないのだろう。だが、そちらに助けに入っている余裕はない。負傷で出遅れたリザルスが迫っている。
仲間のもとに向かわせないために、アシュレイは二匹の前に躍り出た。知能の低い魔物は、ほとんど本能で動いている。彼らからすれば、わざわざ近くにやってきた獲物を逃がす理由もない。狙い通り、リザルス二匹はアシュレイを標的と定めたようだ。
右のリザルスが先に動いた。それを見たアシュレイは瞬時に判断を下し、そちら側に回り込む。先に動いたリザルスを盾にして、もう一匹の動きを制限する形だ。
二匹同時に襲いかかられなければそれで良かったのだが、魔物の連携は予想以上に拙かった。遅れて動き出したリザルスが、先に動いた方に突っ込んだのだ。後ろから押された形になったリザルスがバランスを崩してつんのめる。その隙を見逃すアシュレイではない。倒れたリザルスは一旦放置して、仲間に突っ込んでたたらを踏む後方の個体を襲う。
「追加が来た! 逆側からラットとスパイダー! こっちからもリザルスだ!」
メリアから新手の知らせ。ようやくリザルスを仕留めたというのに休む暇もない。しかも、今度は多勢だ。そばの通路からリザルス。反対側の通路からスモークラットとケイブスパイダーだ。優先して排除したいラットが遠くに現れたのは痛い。
「リザルスは僕がやる! メリアは鼠を狙って! マルクはメリアの守りをお願い!」
圧倒的に手が足りない。仕方なく、アシュレイは通路際でリザルスの相手をすることにした。ラッドたちから離れることになるが、敵に雪崩れ込まれるよりはマシだ。
とはいえ、それでもマルクとメリアでスモークラットとケイブスパイダーの相手をしなければならない。かなり厳しい状況だ。それを見かねてか、座り込んだままだったルドが立ち上がった。
「回復した。俺もやれるぞ」
声に力強さはない。どう見ても万全とはほど遠い様子だったが、それでも頼りにしなければならないほど追い込まれている。
「わかった。お願い」
「おう」
無理をしないでという言葉を呑み込む。現状誰もが無理をしている。無理をしないということ自体が無理な状況なのだ。
そうこうしている間に、アシュレイが待機する側の通路にリザルスが姿を現した。その数は六匹。
「くっ……多いな」
速攻で倒してメリアたちに加勢できれば良いのだが、この数ではそれも難しい。それどころか対処を間違えば、アシュレイの身が危うくなる。通路とは言っても、幅は人が三人並んで歩いても窮屈さを感じない程度には広いのだ。下手をすれば横をすり抜けられる。
だが、やるしかない。覚悟を決めて、先頭のリザルスに自ら飛び込んでいく。しかし、これはフェイク。即座に後退して、爪の攻撃を空振りさせる。
攻撃動作で立ち止まった先頭一匹。その脇を後続が通り過ぎようとする。そのタイミングを狙った。正面から首をひと突き。迸る血が右手を濡らすが、それに気をとられている場合ではない。すぐさま退いて、体勢を整える。同じことをあと二度繰り返し、合計三匹を倒したところで、リザルスが警戒するように動きを止めた。低級の魔物といえども、何度も同じ手にひっかかるほど愚かではないらしい。
残るリザルスは、横一列になって襲いかかってきた。一斉に、とは言いがたい練度の低い連携。それでも、アシュレイにとっては対処しづらい厄介な攻撃だ。三匹のどれかを攻撃すれば、残る二匹から反撃を食らうことになるだろう。
ならば、連携を崩せば良い。アシュレイはさらに後退し、投げナイフを投擲。狙ったわけではなかったが、正面のリザルスの右目に命中した。痛みに暴れるそいつの右腕が、左のリザルスの行く手を妨害する。結果として、右の一匹が突出した形になった。そこを狙う。
血
残るは右目を失った個体だけだ。狂乱状態に陥ったか、滅茶苦茶に腕を振り回して襲いかかってくる。が、隙が大きいので、躱すのは難しくない。大振りで体勢を崩したところを回り込んで背後からナイフを突き立てた。
これでようやくリザルスを駆逐した。後続はない。
ひと安心とばかりに、アシュレイは一度だけ深呼吸をした。激しい動きに息が乱れている。できれば落ち着いて呼吸を整えたいが、その余裕はない。
アシュレイが振り向いたとき、広間の一画は真っ白な煙に覆われていた。スモークラットを殺し損ねたのか。それともあれからさらに増援が現れたのか。視界は遮断されてしまっている。
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