12. 想定外の爆発
方針が決まり、アシュレイたちは目標地点の広間へと移動する。その途中でメリアが影装による索敵を実行。敵をリザルス六、スモークラット五、ケイブスパイダー三と推定した。スモークラットの数がやや多いが、アシュレイは対処可能と判断して、戦うことを決める。
広間は通路と比べると明るく、少し離れた場所からも入り口付近の様子を見ることができた。目視できる範囲に爆発茸はなし。幸運なことに、見える範囲にスモークラット三匹がうろついている。先手を取って潰せれば、かなり有利だ。
“アシュレイとメリアで先制、スモークラットを攻撃後、突入”
ハンドサインで指示を出し、アシュレイは前列のウーノと交代した。全員が影装を纏ったことを確認し、隣のメリアと視線を交わす。タイミングを取り、アシュレイが投げナイフで、メリアが弓でスモークラットを狙った。命中を見届けることなく、全員が走り出す。
ナイフと矢は別々の鼠に命中。キィと絶叫し、倒れた。そこに殺到したラッドたちが、鼠の息の根を止める。近場にいたのはスモークラット三匹のみで、残る二匹は少し離れた場所にいた。
幸い、突然の襲撃に魔物たちは
「メリアは残りの鼠を仕留めて。ラッドは挑発。残りは予定通りだよ。リザルスを優先して倒して!」
「了解よ。あちこちに茸が生えてるわ。動き回るなら気をつけて」
メリアが注意を飛ばしつつ、矢を射る。見事に命中し、鼠は残り一。これなら煙を吐かれてもほとんど影響はない。すぐに、最後の一匹も仕留められるだろう。
「おらぁ! こっちに来やがれ!」
ラッドが叫ぶと、一瞬だけピリピリと痺れるような感覚が体を通り過ぎていく。〈挑発の叫び〉が発動した証拠だ。アシュレイたちへの影響はそれだけだが、魔物たちには抜群の効果を発揮した。ほとんどの魔物がラッドに向けて走り出す。そうでない残る魔物も意識が逸れた。
隙だらけの魔物にアシュレイたちが襲いかかる。リザルスを二匹、ケイブスパイダーを一匹倒した。メリアも残る一匹のスモークラットを仕留める。
残るはリザルスが四、ケイブスパイダーが二だ。奇襲に成功し、頭数の差は埋まった。手堅く戦えば、負ける要素はない。
そんなときだ。凄まじい衝撃音が響いた。
「くっ、何が……?」
あまりの轟音に一瞬気を失いそうになったほどだ。酷い耳鳴りで、一時的に聴覚が失われている。
チカチカする視界で周囲を見回すと、ラッド、ウーノが倒れていた。おそらくはさっきの轟音による気絶だ。ルドとマルクは意識があるようだが、耳を押さえてうずくまっている。
魔物はといえば、こちらも酷い。リザルスはひっくり返って倒れており、ケイブスパイダーも足を丸めて動かない。死んだわけではないと思うので、気絶しているのだろう。
「――! ――!」
近づいてきたメリアが何かを訴えているが、少しも聞こえない。アシュレイは耳をトントンと軽く叩いて、首を振る。意図を理解したメリアが、爆発茸を指さしてから握った拳をパッと開くジェスチャをした。それでアシュレイも状況を理解する。
どうやら、ラッドに殺到する魔物が爆発茸を踏んでしまったらしい。近くにいた者はショックで気絶してしまったというわけだ。
不幸中の幸いというべきか、魔物たちも気絶している。今のうちに息の根をとめてしまえば、これ以上の危険はないだろう。アシュレイはそう考えていたが、そこにぐいぐいと腕を引かれた。見れば、メリアが必死な様子で何かを訴えている。
「――! 魔物が――!」
少し回復してきた聴力で聞き取れた言葉と、メリアが指さす方向。それらから状況を察したアシュレイは、僅かに顔を青ざめさせた。さきほどの爆発音を聞きつけた魔物たちがこちらに向かってきているようだ。
「ルドたちの容態を確認して! 僕は接敵前に気絶したヤツらのトドメを刺す!」
まだ耳鳴りが続いている。そのせいで、アシュレイには自分が上手く喋れているかもよくわからない。ひとまず、メリアが頷いたので、伝わったと判断した。
自分は気絶した敵の後始末。現状では気絶しているだけなので、放っておくと意識を取り戻す可能性がある。追加の敵と戦っている最中に復帰されると面倒だ。確実に仕留めておく必要がある。
魔物にかけよって、まずは周囲をチェック。爆発茸が残っていないことを確認してから、ナイフでトドメを刺していく。リザルスは首を切り裂き、ケイブスパイダーは腹部を何度か突き刺すことで確実に殺す。
全てを処理したあと、広間の出入り口に目を向けた。通路に接続するポイントは二点。アシュレイたちが入ってきたところと、その対面だ。今のところ、どちらにも魔物は現れていない。だが、近づいてくる気配は感じられた。敵が迫ってきているのは間違いない。
体勢を立て直すためにも、一旦通路側に逃げ出したい。だが、ラッドとウーノが気絶している。彼らを担いで走るというのは難しかった。軽く頬を叩いてみたが、意識が戻る様子はない。
「マルクは戦えそうだけど、ルドは無理だ! フラついてやがる!」
取り繕う余裕がないのか、メリアが荒っぽい口調で怒鳴る。ようやく聴力が回復したらしく、内容はしっかり聞き取れた。
「敵の数はわかる?」
「駄目だ。耳をやられたせいで、いまいちはっきりしない。だけど、一匹や二匹じゃねぇよ」
敵数は不明。しかし、メリアの表情を見る限り、極めて厳しい状況のようだ。対して、こちらは戦えそうなのは三人。それも、全員が少なからず爆発の影響を受けていて本調子ではない。
順調に思えた探索が、たったひとつの罠で一気に危機的状況へ。命がけの戦いが始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます