恐ろしい夜: 十字架

第5章: 謎めいた言葉

リョウタは、肺に吸える限りの空気を吸い込みながら走った。彼の体は限界に達していた。ハンマーによる一撃と建物への衝突で肋骨は痛み、負傷した脚での一歩一歩が鋭い痛みを伴った。しかし、立ち止まるという選択肢はなかった。二人組のバイク乗りがまだ彼を追っており、吸血鬼さえ貫通することができる弾丸を持っていたのだ。たった一度のミスが彼の命取りになることを彼は理解していた。

「またこれか…今日だけで二回目だ。そして今回は、もっと強力な武器を持っている。これが俺の終わりなのか？」リョウタは頭をクリアに保とうとしたが、絶望が毒のように彼の思考に忍び寄ってきた。

その考えにとらわれていたため、彼は歩道をゆっくり歩く老婦人に気づかなかった。彼は彼女にぶつかり、地面に倒してしまった。

―すみません、おばあさん！本当にごめんなさい！大丈夫ですか？―リョウタは苦悩に満ちた声で言いながら、彼女を助け起こそうと手を差し伸べた。

老婦人は彼をじっと見つめた。恐怖の叫び声や罵声、それが彼が慣れ親しんでいた反応だったが、今回は違った。彼女の目には驚きと認識が混ざった感情が浮かんでいた。

―あなたなのね…本当に、あなたなのね…―彼女はほとんど囁くように言った。

リョウタは血が凍るのを感じた。彼女は彼を認識したのだろうか？今までのように叫び出すのだろうか？彼が反応する前に、バイクに乗った男たちが角を曲がって現れた。

―そこにいたか！―銃を構えた男が叫んだ。

老婦人がいるのもお構いなしに、男は発砲した。リョウタはかろうじて反応できた。彼は女性を腕に抱きかかえ、弾丸を避けるために横に飛び込んだ。しかし、一発が彼の脚を直撃し、彼は痛みに悲鳴を上げた。

その痛みは言葉にできないほどで、魂そのものが貫かれたようだった。それでも、彼は女性を離さず、安全なゴミ箱の後ろに彼女を置いた。

―何をしているんだ！―リョウタは怒りで声を荒げ、男たちに向かって叫んだ―。ここにはご婦人がいるんだぞ！彼女を殺すことになるかもしれないって分からないのか？その弾丸がどれだけ致命的か理解していないのか？

男たちは軽蔑するように笑った。

―ハハハハハ！ただの老いぼれじゃないか。どうせあと二年も生きられないだろ。お前さえ片付ければどうでもいいんだよ。―一人がそう答えると、もう一人はさらに発砲を続けた。

その言葉がリョウタの中に何かを燃え上がらせた。激しい怒りが彼を支配し、痛みを忘れさせた。彼はほぼ超自然的な速度で立ち上がり、彼らに突進した。

最初の男は反応する間もなく、リョウタに顔面を蹴られ、近くの壁に吹き飛ばされた。その衝撃は凄まじく、壁がひび割れるほどだった。

二人目の男は銃を取り出そうとしたが、リョウタはすでに彼の目の前にいた。素早い動きで、リョウタは男の手から銃を奪い、遠くへ放り投げて手の届かない場所へと追いやった。彼は男の首を掴み、簡単に持ち上げた。

―どうしてあんなことが言えるんだ！？命には敬意を払うべきだ！―リョウタは怒りに震える声で叫んだ。

容赦なく彼は男をもう一人の方へ投げ飛ばし、二人を瓦礫の中に積み重ねた。息が荒く、脚は努力のせいで震えていたが、彼の怒りが彼を支えていた。

冷静になる暇もなく、チェーンソーの音が空気を震わせた。リョウタが振り返ると、リーダー格の男が彼に突進してきた。チェーンソーが太陽光を反射し、リョウタは地面を転がって辛うじてそれを避けた。

男は時間を無駄にせず、リョウタの胸を蹴り飛ばし、彼を地面に叩きつけた。リョウタが立ち上がる前に、男は彼の胸に体重をかけて押さえ込んだ。

―これで終わりだな。今度は逃がさないぞ、化け物め。―男は唸りながら、チェーンソーを頭上に持ち上げた。

リョウタは目を閉じた。これで終わりかもしれないと覚悟を決めた。しかし、その瞬間、叫び声が響いた。

―彼を放して！―老婦人が男に飛びつき、全力で彼を後ろから掴んだ。

男は唸り声を上げ、激しく彼女を振り払った。

―離れろ、この役立たずの老いぼれが！―

男が鋭い動きで彼女を振り払うと、チェーンソーは空気を切り裂き、女性の腹部に深い傷を刻んだ。そして彼女は地面に倒れた。

―ああああああ！―女性の悲鳴がリョウタの心を引き裂いた。

その痛みと怒りが彼の中で融合し、最後の力の火花を与えた。

彼は地面から立ち上がり、体中の痛みを無視して渾身の力を振り絞った。

男が再び彼に突進してきたとき、リョウタは自身でも驚くほどの敏捷さで応戦した。チェーンソーを後方に転がることでかわし、その勢いを利用して男の腹部に拳を叩き込んだ。その衝撃で男はチェーンソーを落とし、金属的な音を立てて地面に転がった。

リョウタは彼に反撃の隙を与えず、残るすべての力を込めて拳を男の顔面に叩き込んだ。その一撃で男は即座に気絶し、地面が割れるほどの衝撃が走った。

リョウタは膝をつき、息を切らせた。体は限界を超えて悲鳴を上げていたが、女性のうめき声が彼を現実に引き戻した。

―おばあさん！―彼は叫びながら駆け寄った。彼女の服は血で染まり、目は閉じかけていた。

迷うことなく彼は彼女を抱き上げ、走り出した。一歩一歩が苦痛だったが、彼は止まらなかった。

―お願いです、持ちこたえてください！病院に連れて行きますから！―彼は泣きそうになりながら叫んだ。

女性はかすかな声で彼の頬を撫でた。

―あなたは…すべてを変える人…―彼女は涙を浮かべながらそう呟いた。

リョウタは瞬きをし、困惑した。彼女は何を意味しているのだろう？だが、問いかける時間はなかった。

彼は病院に到着し、車を飛び越え、通りを横切りながら止まることなく駆け込んだ。中に入ると、彼の声が建物中に響き渡った。

―助けてください！この女性を助けてください！誰か！

医師たちはすぐに彼女を治療室へ運び込んだ。リョウタは床に倒れ込み、疲れ果てた。体は震え、涙が彼の頬を伝った。

病院の警備員が彼を鋭い目で見つめた。

―お前はヴラド二世の息子だな。動くな。

リョウタは顔を上げ、痛みと怒りに燃える目で見返した。

―お願いです、今はそんなこと言わないでください！ただ彼女を助けたかっただけなんです！

警備員は一歩後退し、武器を抜いた。

―彼女を傷つけたのはお前か？

リョウタの叫び声が病院中に響いた。

―違います！もうやめてくれ！俺だったらここに彼女を連れてきたりしないだろ！

警備員は一瞬沈黙したが、出口を指差した。

―今すぐ出て行け、さもないと力づくで排除する。

リョウタは必死に立ち上がった。彼は最後に警備員を見つめ、それから背を向けて去って行った。傷ついた体を引きずりながら近くの路地にたどり着き、隅に倒れ込んだ。

「あなたはすべてを変える人…それはどういう意味だ？」彼は女性の言葉を思い出しながら考えた。その時、雨が降り始めた。

彼はリュックに手を伸ばし、元気を取り戻すためのオレンジジュースを探した。しかし、何も見つからなかった。そして思い出したのだ。最後の一本を公園の子供にあげてしまったことを。

―少なくとも彼の方が必要だったからな…―彼は呟き、壁に頭を預けた。

雨粒が彼の涙と混ざりながら、顔を伝って滑り落ちた。彼は目を閉じ、雨の滴が静かに頬を濡らすままにした。