第7話 ステラちゃんの配信再開


「はい皆さんこんにちわ―! お久しぶりです! ようやく帰ってきました! 大星ステラです!」


 ステラちゃんが、元気な声でカメラの前で挨拶をする。

 姿も青髪に戦闘用の装備に着替えている。ピッチリスーツに露出がところどころにあり、腕や足や腰のあたりに機械が付いている、ヒーローの様な衣装だ。


「えー色々つもり話もありますが、今回はゲストを呼んでいます。どうぞー!」

「どうも……っていいんかなこれ、邪魔じゃないかね?」

「先日私を助けてくれた、Kさんです」


 おずおずと、カメラの端から俺が姿を現す。横の宙に浮いている画面から、コメント欄が見えた。


 >マジで!?

 >見つかったのか……

 >謎のまま終わると思ってた


「えー助けたところを去ろうとしたら首根っこ掴まれて参加させられました、Kです」


 ざっと見たところ、反応は悪くない。ステラちゃんに男が付くなーとか言われるかと思ったのだが。

 ……ああそうか、それもステラちゃんのスキル、エネミーガードではじけるのか。 


 >鎧取らないの?

 >かわいい顔みせてー


「鎧は取らない。拒否、あんま見せたくない」


 >いや動画で見れるんですが

 >まあでも顔は良く見えないし


「ヒーローは普段から素顔を見せないものさ。そういう事にしておいてくれ」


 >おおなんかかっこいい


 軽くスキルを使って、認識阻害の処理をかけなおす。それで軽く誤魔化して、視聴者は納得してくれたようだ。


「素性といたしましては、「異世界」から帰ってきた、というわけですが……これでわかるん?」


 >おお異世界人なんだ!

 >リアル異世界人!?初めて見た

 >どんな異世界から来たんですか!


「異世界で分かるんだ……実際、俺からしてこのシン日本の人たちが異世界をどういう目で見てるのか分からんのよね」

「単にシン日本の外にある国……? 世界みたいな?」


 >遅れてる文明……って言っちゃあれだけど違う世界みたいな?

 >シン日本よりもダンジョンがたくさんあって魔物がその辺をうろついているイメージ

 >ステラちゃんよりつえー奴がたくさんいる世界


「まあいろんな世界があるよ。中世風みたいな王権が続いてる世界もあるけど、ここみたいに文明が進んで、ハイテクな電子機器のある世界もある。多種多様だな」


 軽く、豆知識を披露する。


 >へー

 >シン日本が一番! っていう訳でもないのね


 そのあたりで、ステラちゃんがぱん、ぱんと手を叩く。


「まあそういうわけで、冒険者としてはベテランの方に来てもらったというわけですが……えーここ最近は少し物騒なのもありまして……ちょっとしばらく、Kさんには私の護衛をやってもらおう、とそういう話になりまして」


 >おお、やっと護衛が付くのか

 >ん? すると長期コラボみたいな?

 >おや……?

 >あっ……


「今回より、Kさんには色々冒険者としての極意を教えてもらう、題付けて先人に学ぼう! コーナーをやらせていただきます!」


 >うわああああああ

 >Kさん頑張ってください……

 >ステラちゃんと一緒に居て大丈夫……?

 >大丈夫ですよ!だいじょう

 >大丈夫じゃないやつー


「えっ何この反応は……」


 意外な反応だった。拒否感かまたは歓迎の言葉を掛けられるかと思ったが、むしろ心配されるとは。


「護衛を付けるのもギルドの方から配信再開する条件だったんですよね、せっかくだからついでに色々教えてもらおうと思いまして!」


 >ステラちゃん迷惑かけないでよ……?

 >おや知らない?

 >ステラちゃん大変っすよマジで

 >Kさん頑張ってください……


「え? 何? 何が起こるの?」

 

 >ステラちゃん大丈夫? 迷惑にならない?

 >ステラちゃん面倒ごと生成マシーンだから……

 >事件が起きますよ事件が!

 >前の時もそれでコラボ相手がもう一緒にやりたくないって……


「もー前の事は言わないでって! それでは行ってみましょー!」

「お、おー」


 ***


「さて、それではまずダンジョンを潜り始めたわけですが……まず何しましょうか!」

「その前に、色々俺の方から聞かせてもらっていい?」

「はい何でしょうか!」

「この世界のダンジョンってどういう扱いなの?」

「大分基本的なこと聞きましたね……」


 >異世界で冒険してきたベテランじゃなかったの?


「いや、こういうことは真っ先に確認したいところだ。なんでかっていうと世界によってダンジョン、モンスターなど……ファンタジー、冒険者を構成する要素の扱いは違ってくるからな」

「違う……ってどのくらいですか?」

「根本から違う。ある所では単に魔物の住む場所の総称だったりすれば、世界にダンジョンは一つしか存在せず、神域として扱われている所もある。または一切のダンジョンがない世界もある。所変わればその重要さも違ってくる」


 >なんか規模がすごい……

 >ロマンあふれる話ですね

 >なんか幻想的


「いや、この世界もすでにファンタジーに塗れてるんだが……魔法といいステータスと言い」

「こちらも異なる世界のダンジョンについてはまだ想像できても、一切ダンジョンのない世界は想像つきませんから……」

 

 >ダンジョンとかない世界で資源とかどうしてんのって話よね


「資源は地面や山から掘ったりすんだよ」

「じゃあ、そういうのを掘りつくしたり全部食べつくしたらどうするんです?」

「そうならないように管理するんだよ……とはいっても何十年後には資源がなくなるーとかずっと言われてたりなんたり……実際どうなってたのかは知らんが」


 >本当にそんな世界あるんですか?

 >適当言ってるんじゃ


「うるへー一般人が何でも知ってるわけないだろ、お前らだってなにも見ずに物流の仕組みとか言えんのか」

「まあそれもそうですが……」


 そもそも転生前が随分前の話だし、ほとんど覚えてないしな……


「まあ、ダンジョンも魔物も魔法もない世界ってのは大分極端だが、所変わればダンジョンの大事さ、危険度も違う」


 資源が無限にとれ、世界のかなめになっていれば、世界がダンジョンに浸食されて滅びかけって場合もある。

 大事なのは、その世界での扱いがどうなっているかという事だ。


「それでシン日本はどうかって話ですか? 普通にそこらへんに、自然発生のダンジョンがあってそこに冒険者が潜ってモンスターを倒してお金をかせぐって話ですが……」

「まずそこらへんってどの頻度? 街に一つ?」

「具体的な数字は資料を漁らないと分かりませんが、小さなダンジョンは森や山や洞窟のなか、廃屋廃村など人の寄り付かない場所に出来ると言われますけどねえ」

「えっ……一般人がうっかり入っちゃいそうな所に出来るんだな」

「そこはちゃんと子供のころから寄り付かないようにって言われますし……よく人が集まる所にダンジョンはたまにしか出現しませんし、そもそもダンジョン周りは人が入れないよう封鎖されるんですよ」


 安全対策としては妥当な所か。


「でも万が一ダンジョンが出来た時大きくならないように魔物を倒したり……時にはダンジョンごとブレイクしたり、というのが冒険者の仕事というわけでっす」

 

 ステラちゃんが誇らしげに言う。それなりに名誉のある仕事なのだというのがこれで分かった。


「なるほど、それでユニークモンスターがダンジョンの外に出るってのは大事になる訳だな」

「そうですね、人のいるところにモンスターが現れないように頑張って強くならなきゃいけないって訳です!」


 目を輝かせて言う。これで俺に弟子入りしたいって話になってくるわけだ。


「しかし、人に役に立つ仕事なのはいいが、それだけだと命を懸けてダンジョンを潜る旨味が少なくないか?」

「それはダンジョンの宝箱にあるアイテムを売ったりすれば結構稼げますもの。それなりに高給取りなお仕事なんですよ! そこにロマンを感じるという事で」

「なるほど」

「って、いま命を懸けるって言いました? あの……すいません、それにダンジョンで、死ぬってそんなことあるんですか?」

「え?」


 予想外の返答であった。


「死ぬことがないって体力削られ切って戦闘不能になったらどうなんの?」

「セーフティ処理の話ですよね? ダンジョン内で倒れた場合、リスポーンすることになりますわ。最初からやり直しというわけですね」

「おお……死なない親切仕様なのか久しぶりに見た」


 >久しぶりに見た???

 >異世界は違うの? 修羅の世界こわー


「最近は一撃即死とか部位破壊が永久とかそんなんばっかでな……そうか……死んでも死なないシステムかあ……」


 >命かけて魔物と戦うのはちょっと……

 >でも体力削られ切って目の前が真っ暗になるのは普通に怖くね?


「死んでも死なないってのが言葉だけ取ると確かに矛盾には塗れてないですか……?」

「だから普通はないというわけで……まあ大体は分かった。ずっと話してるのもなんだし、進みながら気になる事を聞いていくわ」

「あっはい!」



 と、その時だった。――ぐわん、と地面がゆれ。


『キシャアアアアアアアアアアアア!!!』


 と魔物の声が聞こえ。


「イヤあああああああああ!!!!」


 と、女の子の悲鳴が聞こえたのは。


 >あっ

 >もう面倒ごと来たかー

 >ステラちゃんはこれだから……


 その声を聴いて、ステラちゃんは。


「困ってる人! 助けなきゃ!」


 と言って、何のためらいもなく、すぐさま駆け出して行った。


 ……全く。ステラちゃんも、そういう困った人を見捨てられない人間か。

 無論、俺もすぐさま後について行った。

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