第6話 新生活スタート
車が目の前を通っていく。
赤から青に変わる信号機を見て、あれを異世界で再現するにはどうするか、と考える。
魔法で制御して、魔法で光らせるか。
それを一つ作るのにどれだけのコストがいるか。
ましてや、一つの町に大量に並べるとすると、どれだけの――
「華維さん、信号青になってますよ」
「おっとすまない」
「青になったら行ってもいいというサインで……」
「いや、それくらいわかってるよ、気遣いありがとう」
「あっすいません」
ステラちゃんからしても、現代日本の何をしり何を知らないかを把握できてないのだろう。
当たり前だ。互いの常識を知らないのだから。
それを埋めるための方法は一つ。
会話を、コミュニケーションを。互いを知り合うとこだ。
「さて、そろそろつきますよ、あそこですあそこ」
俺は、ステラちゃんに付き添われ、新しい家を案内してもらう所だった。
「あれが俺の新しい家か……」
集合住宅から一転、俺に用意されたのは一軒家であった。
住所的には前住んでいたところとはほとんど変わらない。しかし、最寄りのダンジョンにはかなり近づいた。
「しかしこれ一人で住めってか?」
2階建ての一家族が住めそうな家だ。
「一人じゃ掃除するのがめんどくさそうだな……メイドでも雇えってか」
「そこでメイドが出てくるのが感覚が違いますね……」
ステラちゃんもおなじ住宅地帯に住んでいるらしい。
「私の家は一人で住めるくらいのもうちょっと小さい家ですけどねーそれでも前住んでたアパートよりは大きいと思いますよ」
「……ステラちゃん、一人暮らしなのか?」
「ええ。私親いないんですよ」
あっ。
言葉に詰まる。
地雷を踏んでしまった。
「はい、普通の家族で、普通に暮らしてたんですが……中学生くらいの時、突然いなくなっちゃって」
「突然、か……」
「なんというか、その辺子供の頃だったから記憶が曖昧でなんですよね。ダンジョン潜って、配信して、なんとか生き続けることはできたんですけどね」
「そうか……大変だったんだな」
「はい、でもまあ、結構今の日々は充実してますよ、ダンジョン潜って配信してお金持ち! 友達もたくさんいますし、先輩たちは優しくしてくれますし! こーんな家にも住めますしね」
「そっか……」
言葉がない。……こんな年で有力冒険者をやっているのだから、事情の一つや二つあるか。
「まあ、辛気臭い話は後にして、家に入りましょうよ!」
「お、おう……」
***
家を一週回ってリビングに据え付けられたソファーに座る。
「広いな……なかなかいい家じゃないか」
「そうでしょう?」
「何より、中に風が入ってこないのがいいな。ちゃんと密閉されている」
「当たり前では……?」
異世界ではそうでもないんだよ。
よく隙間風が入ってくるぞ。
「まあここに引っ越すのはいいんだが……ほかに何か申請しなきゃいけないことはないんでいいんかな? 通う学校とか」
「え? 今学校かよってるんですか?」
そう。俺は今、転生前は卒業までできなかった高校に通い、記憶から消し飛んでいる数学や化学や物理を覚え直している。結構楽しい。ちなみに英語はない。外国ねえし。代わりに異世界という外の世界がある事だけは人々も知っているようだったが。
ちなみに学費は奨学金扱いでしかも返済義務がある。その辺も金欠で焦っていた原因でもあったのだが……
「ああ。見た目的には完全に高校生くらいだしな。学びなおしもしなきゃならんし俺も希望して通ってるよ」
「あれ、すると……なんていう名前の学校に通ってるんです?」
俺は学校名を言う。
「……私と同じ学校ですね」
「ステラちゃん何年生だっけ?」
「1年生ですね……」
「俺も1年からかよいなおしてるから……何組?」
「Aです」
「同じだ……」
同じ学校で同じ学年で同じクラスだった。
こんなのある?
「まあ意図的に同じところに配属したんだろうなって……」
「ギルドが提供する居住区は大体決まってますしね……それで同じ学年となればそういう事もあるでしょう」
「しかし大星なんて苗字の子いたかな……」
「私、本名は
「ステラのほうが本名なんだ……」
「まあ、私あんまり学校に行ってないですからね……でもどちらかというと、紗城さんの方に気づかなかったのがビックリなんですが……ピンク色の長髪の男の人とか目立つはずなのに」
そうだろうか……同級生は割と皆髪色とりどりだし、猫耳ついてる奴とか兎耳ついてる奴とかいる。
おそらく別種族とのハーフだろう。そう言う所に、ここがあくまで異世界なのであるという事を感じさせている。
だから、正直ピンク髪程度で目立たないと思うのだが……
「気づかないのもしょうがない。俺、スキルで認識阻害かけてっから」
「認識阻害?」
「印象を薄くするというか、目立たせないというか。冒険者としての俺と、普段生活してる俺が印象として繋がらないようにする、そういうスキルを使ってるんだよ」
「へえ……」
「ただ、あくまで阻害だからな。名前が一緒とか、手がかりがあれば気づいてしまう程度の阻害だ。勘がいい人や、推論を重ねれば気づいてしまう。だから万が一にでも俺があのバズった動画と同じ人だとか人に言うなよ?」
「ラジャー! それはもちろん、気を付けます!」
ステラちゃんが敬礼をする。
「でもそうすると……もしかして、今の段階だと華維さんが目立っても学校に人が集まるーって事はない訳ですよね」
「まあ、そうだが」
「と、するとですね、もう一度目立ってもいい訳ですよね~?」
にやにやと笑い始まる。
嫌な予感がする。
「一つ、頼みがあるんけど良いですか?」
「出来る範囲なら……あまりいい予感はしないが」
「今度私がする配信に、華維さんも出てもらえませんか?」
「……え? あーうん、なるほど」
まあ、そうなるか。
「いや、これには理由があるんですよ……前の件があって、私はしばらく配信を止めているわけですけれども、今どういう状況なんですか、って結構ネットでも不安がられてるんですよ」
「……はいはいなるほど?」
「それで色々憶測が飛んでて……へんな風説の流布とかは、私のスキルであるエネミーガードで止められるんですけど、あの……ピンク髪の奴は誰だっていう特定も始まってまして」
「あーそれは……面倒そうだな」
「そう言う事で、配信で出てきてこれから護衛になりますーって事になればある程度落ち着いて、詮索も無くなると思うんですよ」
「なるほど……」
たしかに、ネットで騒ぎになっている状況なら、下手の勘繰りでたどり着かれることはあるかもしれない。
正体不明の美少女冒険者という謎があるからこそ人は騒ぐ。しかしここで一度表に出ておけば、ひとまず騒ぎに落ちが着く。
もしかしたら最初から護衛で、ユニークの騒ぎそのものが仕込みだったのではという勘違いもされるかもしれない。そこでネットの盛り上がりに冷や水を掛けることが出来るかもしれない。
それに、一度表に出ることでもう少し強力な認識阻害をかけなおすという事も出来るだろう。
「わかった、良いだろう」
「本当ですか!?」
「ただし! 当たり前のことだが……出るときはずっと鎧姿のままでいるからな」
「えーピンク髪っていうのがバズってるんですよ」
「あんまりそっちの印象が着くと普段の姿の印象と被りが出るからな……冒険者として目立つのはかまわない。だが普段の生活に影響が出ない範囲で。そういう形で行くことにしよう」
「ありがとうございます!」
誰かさんのせいで、とは思わなくもないが。
運命というか、流れがそうしろとささやいたのだから、それに従うしかないだろう。
「まあ遊べるだけの金は欲しいしある程度冒険者として働くことはいいさ。初手で目立つとは思わんかったがな」
「いや、ほんとすみませんね」
「ああごめんステラちゃんに言ってる訳じゃ無くてな……」
文句を言うなら、運命に。流れに。
「まあとにかく、ちゃちゃっと配信して、一つ懸念を片付けようか」
「お、おー!」
「……金はもらえるんだよな?」
「それは勿論!」
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