第5話 弟子入り希望?

「お待たせいたしましたわ!」


 遅れて、女の人――俺をシン日本に導いて来れた、小鳥遊さんが扉を開き入ってくる。

 前に出会った時と比べて体が大きくなっている。学生服ではなくスーツを着ており、雰囲気も少し大人びている。


「あっお久しぶりです! ナシさん!」


 ステラちゃんが深々と頭を下げる。

 ナシさんは小鳥遊さんのあだ名か? 目上っぽい人相手にそれでいいのかステラちゃん。


「あ、どうもお久しぶりです……小鳥遊さん……でしたっけ?」

「あら、覚えてもらえてうれしいですわ! また会えてうれしいです……」

「前、異世界で会った時と比べて背伸びました?」

「実はこちらの成長している方が本来の姿なで……。あちらでの形態はなんというか……戦闘形態というか」


 シン日本ではそういう、平時と戦闘時で見た目を変えるのがはやっていたのだろうか。

 まあ、俺も戦うときはいつも鎧着てるし。


 少し言いたい事もあるからどういう反応をしたものかと少し考えているうちに、あちらが先に頭を下げて来た。

 

 「まずは紗城さん、本当に申し訳ございません、お手数をおかけしましたようで……」

「お手数というか。そもそも招かれた人間を金欠にさせるっていうのがそもそもだな……」


 その言葉を聞いて、チクリと言葉を出す。

 

「えっとですね、そういう時には相談させてもらえれば解決する当てはあったのですが」

「……そうなの? 例えば?」

「例えば、バイト支援ですね。長い異世界生活であまり社会になじめないない方もいらっしゃいますし、理解のある現場を紹介するという事をしています」

「明日の食費すらないという場合は……」

「帰還者の方にはそう言う事も良くありますわね、その場合は少しだけお金をお貸しすることも……」


 先に相談すれば良かった。

 頭を抱える。ちくしょう。


「いえ、あの、その……サポートに行き違いがあり本当に申し訳ございません!」


 深々と頭を下げられる。


「事実わたくしももう少し紗城さんをつきっきりで面倒を見たい所もあったのですが……目的の人が見つかったので異世界出張の仕事辞めようとしたら辞めさせてくれなくて。その……引継ぎで忙しくてですね」


 つきっきりで見てもらっても困るが……それならば俺が文句を言うべきは小鳥遊さんではなくギルドというかシン日本政府そのものなのでは……


「いや、うん俺が金を稼ぐのを急いだが悪いから……」

「このように働かせてしまった埋め合わせは必ずしますわ!」

「いえ、頭を上げて……」


「そして――ありがとうございます、紗城さんのおかげで皆が救われました。あなたが、シン日本に来てくれたおかげです。この恩は永遠に忘れません」


 そういって、俺の手を優しく握ってくる。

 少し、暖かかった。

 感謝か。異世界ではしばらくされてなかったな。


「……まあそういわれちゃあ仕方ねえ。みんなが困ってるのを助けるのが俺の仕事だしな」


 頭も下げられたし、埋め合わせもするらしいし、それで、気は済んだ。

 どうせ俺の性格じゃ遅かれ早かれダンジョンに潜り、戦いに身を投じる事になったろうから。


「それでナシさん、話はおわりましたか?」

「あっ申し訳ありませんわステラさん、話を後にしてしまいまして」

「いえ、大事な話ですししょうがないです。お久しぶりです。前のコラボ以来でしたよねー」

「ええ、あの時は楽しかったですわ。山のように積まれた魔物を次から次へと料理して……」


 互いにぺこりと頭を下げた後、楽しそうに談笑を始める。


「ステラちゃんと小鳥遊さんは知り合いなんです?」

「ええ、わたくしもすこし配信者をやらせていただいてまして……」

「……ダンジョン配信者はステラちゃんだけなのでは?」

「いや、小鳥遊さんは料理がメインですよ」


 冒険者が、料理配信までやるのか。

 その場で狩ってきた魔物をさばいてたりするのだろうか……


「ええ、たまに仕事上ダンジョンも潜るだけで……一応言っておきますが、ダンジョン配信者なんてちょっとその……おかしい事してるのステラさんだけですからね?」

「小鳥遊さんから見てもそうなんだ……」

「誰かに見せながら戦うというのは、失敗が許されませんもの……ステラさんは色々と特別な事情があるので許されてますが」


 あの特殊なスキルを色々持っているから許される訳だ。

 

「オンリーワンなんですよ!」

 

 また胸を張って、随分と自慢げだが……大分危険な橋を渡っている事に気づいていないだろうか? 心配だ。


「挨拶が終わったところで、話を本題に戻そう。「ユニークモンスター」の話だよな?」

「……そうですわね」


 小鳥遊さんが真剣な顔に戻る。


「あの「ユニーク」とやらはこちらでも異常事態だったようだが……そんなのが発生した原因は分かったのか?」

「……聞きたいですか?」

「まあ一応……関係者ではあるし」 

「言っておきますが、確実に面倒なことになると思いますわよ? ゆっくりと暮らしたいのなら、ここから去る事をお勧めしますわ」

「それを言って出ていける俺ではないなあ……」


 それを言うならもうすでに面倒ごとに巻き込まれているともいえる。


「まあ、はっきり言って分からないというのが結論ですが」

「わからないんかーい」


 俺は椅子からずっこけた。


「ダンジョンからレベル帯を大きく超えた強さを持つモンスター、これを「ユニークモンスター」と呼びますが、そういう危険物が現れるという事態……ここ最近頻発しかけておりますの」

「はいもうヤバい」


 それだけで自分が顔をしかめている事に気づく。

 面倒ごとの気配だ。

 

「今の所大事には至っていませんが……今回のように「ユニーク」として指定されていたモンスターがダンジョンの外に出ようとする、いわゆる「ダンジョンバースト」の事案は今回が初めてですわ」

「すると、他のユニークモンスターがバーストを起こす可能性が?」

「分かりません。平時では大人しいので、基本放置していますが……時たま、今回のように暴れる事がありまして」

「なるほど、それを倒しに行くのがギルドの仕事なわけだ」

「今の所、S級冒険者たちの活躍で水際で防がれていますが、対策が必要になります」

「こちらから倒しに行くというのは?」

「絶対に無しです」


 俺が軽く出した言葉に対し、小鳥遊さんは断言した。

 

「まず大前提として、ユニークモンスターは通常ではありえないくらい強大な敵です。下手にやぶ蛇をつついて、大切な貴重戦力である冒険者を危険な目に合わせるわけにはいきません。失敗したらどうなる事か……世間の目もありますし、リスクが高いですわ」


 世間の目とかめんどくさいもんまで考えなきゃいけないのか……世知辛いなあ。

 

「とはいえ、放置したままも困りますので、早急に対応できるようにしておきたいですが……そこで、華維さんに一つ頼みごとがありますわ」

「頼み事? 俺が出来る事って言ってもユニークをぶちのめす事以外ないが」


「頼み事は一つです。ステラさんの……面倒を見てもらえませんか?」


 ……なるほど。そう来るか。

 俺は姿勢を正す。簡単に聞き流していい話ではないな。

 

「私が頼んだんです」


 ステラちゃんが口をはさむ。


「今回……ユニーク相手に私は手も足も出ませんでした。でもこのままじゃいけないと思うんです。何と言うか、私面倒ごと引き寄せ体質で……多分、これからも遭遇すると思うんです。」


 おそらくこれは、彼女自身の特性だ。

 配信者、というスキルを持ってる以上、取れ高というか、イベントに遭遇しやすい。そういう星の下にある。


「皆が怖いモンスターが出てきて不安だと思うんです。だから、皆を安心させるためにユニークを倒さなきゃいけないんですが、力不足って言うのは辛いんです!」


 深々と、頭を下げる。


「そういわけで、私を弟子にしてください! お願いします!」


 顔を上げると、まっすぐな目でこちらを見てくる。

 本当に弟子を取っていいのか分からないが……俺が人の頼みを聞いて断れるかどうか。


「判断の前に、ギルドとやらはなぜ俺に彼女の面倒を?」

「ステラさんは期待の新人の一人ですし……目立つ方でもありますからね。守ってもらいたい、強くしてもらいたいというのはありますわ」

「しばらくダンジョンに潜らせないというのは出来ないのか?」

「まず、ユニーク相手に持ちこたえられる人物というのがまず希少なので……ダンジョン相手に間引きする方が少しでも減られると、我々としては困る訳です」


 本格的、人員不足だなあ……

 そこでふと一つ、大事なことを聞く。


「……俺以外にも異世界から帰ってきた転生者みたいなのはいるんじゃないのか?」

「何分、皆さま今更戦いたくないという人が多くて」


 なるほど。

 俺もそうしたいよ。

 そういいたかったが、今更後に引けるわけもない。


「協力要請はかけておりますが、戦ってくださる方はもうすでに協力している事でしょう。それでも、手が足りていないというのが現状ですわ」


 世知辛いなあ……。


「彼女の面倒を見てもらうのに、教導手当は勿論家屋まで提供しますわ」

「……準備がいいな」

「加え特別S級冒険者の資格やギルドの幹部の役職まで与える準備がありますが……」

「それはいらん」


 無駄に権力が増えても仕事が増えるだけなのは明白だ。

 書類仕事なんて戦闘以上にやりたくねえ。


「ギルドからしても、これは最大限の優遇です。最低限の仕事、最大限の報酬。紗城さんもゆっくりできますし、こちらとしても……勝手に動かれるのは困りますし」


 監視、という意味もやはり込めているか。その辺は抜かりないという事で。


「ウィンウィンでしょう? まさかこれから各地のユニークをすべて倒せとか言われても困りますわよね?」

「俺はそれでもかまわないが……」

「あっすいません嘘です。倒していただいたら報酬は払いますが、あまり暴れないようにお願いします。我らとしても強力すぎる戦力には大人しくしてもらいたいですし……」

「うーん……」


 相手方は今の所俺の力を利用して何かをしてもらおうという姿勢は感じないし、あちら側も無理強いするつもりはないという事を知らせようとして来ている。


 とりあえず、ゆっくりしてくれという姿勢は見える。ただ、何もさせない訳にも行かないので、見所のある新人を育てろという使命を与えることで、利益を得つつなんとか落ち着いてくれと言っている訳だ。

 そしてそれは、俺のゆっくり暮らすという目的にも合致している。


 そして何よりも。


「!!」


 彼女が純真な眼差しで見つめるその「頼み」を断ることは、俺にも出きなさそうだった。


「……分かった、良いだろう。その任務引き受けた」

「本当ですか!」


 ステラちゃんが立ち上がり、喜ぶ。

 その純真なまなざしに、かつての自分を重ねる。


 俺もヒーローとして生きて来たから。

 

 やる事は一つ。

 この子をヒーローとして育て上げることだ。


 騒動に巻き込まれることは無にはならないが、ちょっとくらいならまあ……別にいいだろう。

 巻き込まれることは悪い事ばかりじゃない。いい事もある。

 何とかして彼女を新しいヒーローとして育て上げ、俺は後方師匠面して引退する。

 それが、新しい世界での目的とすればいいだろう。


 そしたら、俺もこの新しい世界での居場所が。追放されないような平穏が。

 得られるのではないだろうか。


「しかし、大変だぞ」

「大丈夫です、私の人生大変なことばかりなので!」


 ……苦労してるなあ。


「絶対に私、華維さんみたいになって見せますから!」


 ならない方がいいと思うが。

 でも俺は思う。彼女なら、俺みたいになれるのではないかと。

 長い長い人生の旅の果てに――俺に近しいものになれるのではないかと。

 そうも思うのだった。


「……頑張れよ」

「はい!」




 こうして、シン日本での新しい物語が始まるのだった。




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