第一章 ダンジョン配信者 大星ステラ編
第4話 助けた配信者からお礼を言われる
お金が振り込まれている。
とりあえず、金欠という当座の問題は解決したようだ。
通帳には、「ユニークモンスター退治報酬」と記帳されており、しばらく不自由なく暮らせるほどの金額が書かれていた。
「随分と大盤振る舞いしてくれたようだ」
これでお金に困ることはしばらく無くなった。
ゲームでも買い足しておこう。焼き肉屋でも行くか。カップ麺を山ほど買ってこようか……楽しみは尽きないばかりだ。
つけっぱなしにしておいたテレビで、ニュースが始まる。
『昨日発生したユニークモンスター出現事件について……○○ダンジョンの下層が崩落し甚大な被害が……』
件の事件について、かなり報道がなされているようだ。朝っぱらからこればかりやっている。
『ネットでは有名配信者の切り抜き動画が……今回の件では現地にいた冒険者の手によって討伐されましたが…ギルドはこの件を重く見て調査を……』
現地の冒険者ってなんだよという話なのだが、意図的にスルーされているようだ。取材統制してくれているのだろうか。
一方、ステラちゃんの方は結構言及されており、名前も出ているメディアもある。
そのうちぼおっと眺めていたらその件に関する報道は終わり、次に有名冒険者の不倫に関するニュースが流れ始める。興味なし。
冒険者は注目される職業の一つらしい。それは、このシン日本ではダンジョンから魔物が外に出てくることは懸念する重大事項の一つであるからのようだ。
ダンジョンの扱いについては世界によって違うが、大抵は「否応なくできてしまう自然現象」のようなものだ。例え海を埋め立て地を築いたとしてもいつの間にか出来ている事だろう。
そしてそれらは、人々に否応なく牙を剥く。
勇猛果敢にもダンジョンに潜り、危険を乗り越え強大な魔物を倒しダンジョンブレイクを行う彼ら冒険者は芸能人的な扱いをされ、注目度も高い。
そしてその、収入もでかい。
「小金を稼ぐ程度でよかったんだが……まあ金持ってても損はないけどさあ」
カップラーメンの麺をずるずるとすすり続ける。
懐かしい味だ。ここのところずっとこればっかり食べている。懐かしい味。それでいて食べたくなる味。味が濃いのがいい。
感動で涙が出そうだ。
果たして――どうやって食材の味はおろか物理法則すら違う【シン日本】で、元の世界のような味を再現できたのか。
知ったことではないが、懐古さを甘受できるならそれでいいと思うべきだ。
この時、俺は思うのだ。「帰ってきた」と。
「現代社会」に、仮初であっても「日本」に。
俺は帰ってきたのだ。
ただ一つ違うのは――
【シン日本】にはダンジョンがあり、
どれだけ取り繕うがどうしようもなく「異世界」だという事だ。
***
「バズってますねえ」
「そうっすね」
後日。助けたステラさんとやらと、ここらで一番でかいギルド「TITAN」の本部ビルに来させられていた。
「あ、どうも大星ステラと言います。配信者です」
「どうも、紗城華維です」
「……まずは、紗城さん、この度は助けてくださり誠にありがとうございました!」
大星ステラさんが頭を下げる。
黒髪の背の小さな少女がそこには座っている。
「それはどうも。……お人好しなもんで、あんまり人を見捨てられないタチでね」
思い返せば、すぐに人を助けることで数多の面倒ごとに巻き込まれてきた。助けたのが姫様だった。そういうのがきっかけで国家間の争いに巻き込まれたり。
得るものもある。だが、俺はあまりにも多くの物を得すぎた。
だから、もういらない。そろそろゆっくり暮らしたいのに。
「なんとおよびすればいいかな?」
「ステラちゃんでいいですよー。気楽に読んでもらった方がありがたいです」
「おお、わかった」
「その代わり、華維さんって読んでいいですか?」
「いやまあ、いいけど」
距離の詰め方がすごい。
小柄でかわいらしい代わりに、胸は、なんというか、少し大きい。
戦っているときは青髪だったはずだ。その時のりりしい印象とは違い、どこかちょこんとした印象が見える。
「配信時はスキルで少し見た目変えてるんですよ。ほら、これだとどうも目立ちにくいでしょう」
シン日本ではそんな事も出来るのか。
「それにして華維さん……本当に実在したんですね」
「いや目の前で助けたでしょう……」
「とは言っても、夢みたいな出来事でしたし。ステータスも嘘みたいでしたし。配信して動画が無かったらいまだに自分でも信じられないですよ」
そう。配信の切り抜きが広められ、あっと言う間に大騒ぎになっている。
『なんだよこの魔物は』
『「ユニーク」に遭遇するとかCGか?』
『誰だよこの鎧野郎は』
『ステラちゃんかわいい』
『ピンク髪の子かわいい』
と大評判である。
そしてもう一つ、あの触手は近隣のレベル帯から考えても明らかに強く、配信からすぐ「ユニーク」と認定され各地で速報が流れ避難を呼びかけS級冒険者が出動する事態にまでなっていたらしい。
そしてそれを一瞬で殴り倒していったのが、俺である。
やりすぎた。
「……こんな大騒ぎになるとは」
「そ、それはすいません」
「……ダンジョンで配信してるとは思わなかったわ。ここではあれが常識なの?」
ダンジョン潜りなんて失敗したらグロありスプラッタありの人には見せられない映像が流れそうなのだが、その辺どう思っているのだろうか。
「いえ、ダンジョン配信を許可されてるのは私だけなんですよー」
「マジか? そんなんあり?」
「そう言うのは特別な事情がありまして……とりあえず、私のスキル見てみてくれませんか?」
――ステラは、ステータスを開示した。
名前:大星 ステラ
性別:女
LV:51
体力 12748
攻撃 12410
防御 22815
魔力 34248
スキル
【☆友情バトン】【☆エネミーブレイク】【☆エネミーガード】
【配信者】【格闘LV2】【魔法LV1】
etc…
その他いくつかスキルは付いていたが、余り特筆するものはなかった。
「こんなもんですっ」
「☆がついてる固有スキルが3つか……それで件の配信者ってのはまあ読んで字のごとくか」
「はい、ダンジョン内でカメラを出現させて地上と映像をつなげたりとか……あとは皆に好かれやすくなったりとか、取れ高に遭遇しやすくなったりとか!」
「あー、うん……んでこっちのエネミーブレイクとエネミーガードってのは?」
「それぞれ「敵意を持つ相手へのダメージが上がる」「敵意を持つ相手からの攻撃を弾く」っていうスキルで……」
「めちゃつよじゃん」
「配信のコメント欄に出てくる「エネミー」、つまり荒らしコメとかが沸かなくなる便利スキルなんですよ! えっへん」
得意げに胸を張る。荒らしをエネミー扱いでガードするとか随分と拡大解釈してんな。
なるほど配信者らしいスキルでありながら実用性もあるという。
レベル51にしてはなかなか優秀なステだな、しかしこれだけ魔力が大きいとそもそもこれは基礎値が……
っと、いかん。敵になる訳でもないのに色々細かい事を考えようとするのは悪い癖だ。
「それで、友情バトンってのは?」
「こんな感じで……」
友情バトン
効果:他人からスキルを託してもらうことが出来る。
「……つっよ」
「これで、配信で見てる人からスキルを託してもらうことが出来るので……」
「現代社会だとそう言うシナジー作れるのか……」
「まあ、そんなわけで普段から配信してる訳なんですよ!」
確かにこれは、配信をさせた方が有用性が増すという判断をしたのも頷ける。
「そのせいで華維さんに迷惑に書けることになるとは……」
「あーその話はもう大丈夫だよ」
「すいません……本当にすいません。あとそれに危機的状況だったのでヘルプを求めるためにも配信を止めるわけにはいかなかったので……」
「まあ確かに外部から状況がみられるのは悪くはないが……」
「それほどでもないです~」
すごい嬉しそうにあたまをかく。褒められると調子に乗りがちというか、褒めがいがあるというか……
「まあしかしねえ……俺みたいな高レベルの連中の騒ぎに巻き込まれて迷惑だったろう」
「迷惑? そんな事ありませんよ! それよりあの大量スキルたち。憧れます!」
「……おや? 引かないの?」
「引く……? いやどれだけ努力したらあれだけのスキルを手に入れられるんだとは思いましたけど」
そっか。そういわれると、そりゃ嬉しいわ。
「ちょっと……具体的にどんなスキル持ってるか、見せてくれませんか?」
「……多分、引くぞ?」
「引くって?」
「まあいいか……とりあえず見てみろ」
名前:
性別:男
レベル:255
体力 8717972
攻撃 4185991
防御 3800923
魔力 2504760
スキル
【召喚者】【知識:旧世界】【鎧変身】【虚神召喚】
【指揮LV2】【政治LV1】【剣LV2】【野球LV3】
【寸前】【一発】【暗視】【マーシャルアーツ】
【☆魔法少女☆変身】【仁王立ち】【薙ぎ払い】【曲撃ち】
【信用】【言いくるめ】【破壊工学】【全力攻撃】
【必中】【加速装置】【改造技術】【自爆】
【♢輪廻する命】【♦摩耗した魂】【♦希薄な記憶】【♦不撓不屈】
【バリア貫通】【350%軽減貫通】【特殊耐性無効】【防御無効】
【即死無効】【タフネス20】【99倍付与】【上限無視】
【返り討ち】【三段跳躍】【上乗せ】【999回攻撃】
【性転換】【攻撃判定追加】【危険察知】【精神耐性】
【全能無効】【個人判別】【スキル並べ替え】
【テイマー[――]】
etc…
「……えー」
ステラちゃんは、目をぱちくりさせる。
「すごい、多いですね!」
事実、多い。今までの人生で必要だったもの、とりあえず覚えたもの、役に立たないもの、無理やり付与された呪いの様なもの、もう永遠に目にしたくもないもの様々ある。
スクロールすれば効果のほとんどないゴミみたいなスキルが山のように眠っているだろう。正直俺にも管理はしきれない。
「どう、引いた?」
「……魔法少女☆変身ってなんすか、可愛い奴ですか?」
「あっ」
隠し忘れた。あんま見せたくないスキルだったのに。よくそんなものに目が付いたな。
「……最初に突っ込むところそこ? あの大量のスキルから? もっとあれとかこれとかツッコミどころあっただろ」
「えーよくわかんないけど、それが一番最初に目に入ったので。気になるじゃないですかっ」
「なんでもないー忘れろ」
不用意に見せるもんじゃなかったかな……スキルの山に隠れて誤魔化せると思ったが。
「もしかしてその……かわいらしい見た目にも関係あったりとか?」
「あー……これか?」
頭のピンク髪をいじる。
生まれた時はこんなじゃなかったのに。正直あまりいい思いをしたことがないが。
「無関係だよ、別件別件……まあ、異世界生活も長いんだ。転生も何回かしてね。ちょっとした拍子で見た目が女の子みたいになったりすることもあるさ」
「そんなことあるんですか!?」
「あーある。それでちょっと皆に見た目で避けられたり言い寄られたりしてから鎧を着るようになったわけだが……」
「あっ何かすいません……話変えます」
気を遣わせてしまったみたいだ。
「えーまあ何はともあれ、すごいですねっ。なんというか人生経験を感じます!」
彼女は、キラキラと目を光らせてそう言う。
あの畳みかけるようなスキルの山を見て、そう思えるか。すごいな。
「これだけのスキル、私もいつになったら手に入れられるか……私も人からスキルを借りるばっかで、もっと強いスキルが自前で欲しくてですね……あんなに沢山スキル覚えられるのすごいなって思うんですよ!」
「あーうん、そうだな」
そんな彼女の目をまっすぐに見れずに視線をずらし、部屋の端っこを見つめる。
ほっぺたを掻きながら、迷いながら言葉を紡ぎだす。
「……俺みたいにはならない方が良いよ」
「え?」
否が応でも。
そうならなければならない運命に、あるだろう。
彼女には、それだけの才能がある。……というのが俺の見立てだ。
だが、少しだけ前の事。異世界から追放された事を思い出す。
素直に、良い事ばかりだよとは言えないのだった。
「いや、何でもない。……多分、なれるさ」
「本当ですか!」
ぐっと体と顔を寄せ、声が上ずり、俺の目をじっと見る。
目線をずらして彼女の目を見ると、生き生きとしたまなざしに、満面の微笑みが浮かんでいた。
俺は背もたれにもたれかかり、苦笑いをする。
少しだけ、胸が締め付けられるような気がした。
言いよどみながら、言葉を紡ぎだす。
「んー……なれるさ、多分、そのうちな」
そんな、慰めの言葉をかけた。
その時、ガチャリと扉が開く。
「お待たせいたしましたわ!」
現れたのは、見覚えのある女の人。
「わたくし、小鳥遊と申します、お久しぶりですわね紗城さん?」
俺をシン日本に導いて来た、あの小鳥遊さんであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます